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更新日:2022年2月3日

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自然探訪2022年2月 ハンノキ属樹種の窒素利用

ハンノキ属の樹種は、カバノキ科の落葉広葉樹で、低木から高木まであります。風散布型の小さい種子を持ち、陽当りの良い土壌が撹乱(かくらん)を受けた場所でよく更新します。ハンノキ属の樹種の大きな特徴は、根にこぶのような根粒を形成し(写真1)、大気中の窒素を吸収する性質を持つことです。これを「共生的生物窒素固定」と言います。この根粒は、放線菌目(ほうせんきんもく)の土壌細菌であるフランキアが感染して作られます。根粒中でフランキアによって合成されたアンモニアが宿主である樹木に送られ、樹木側からはフランキアへ光合成産物が送られるという共生関係が成立しています。

近年、この共生関係が樹木側でコントロールされていることが分かってきました。窒素は樹木の成長にとって必須の養分ですが、共生的生物窒素固定で窒素を得る場合は、土壌中の窒素を根から直接吸収するよりもはるかにエネルギーが必要になります。そのため、土壌中の窒素が豊富な場所では、樹木がその情報を感知し、コストの高い共生的生物窒素固定に依存しすぎないようにコントロールしているようなのです。

例えば、長野県の木曽・御嶽山の岩屑流(がんせつりゅう)跡地では、撹乱後35年間に渡って植生・土壌の回復に関する調査が実施されており、撹乱後の植生回復が標高や撹乱時の表土の状態により異なることが報告されています。この撹乱跡地では、低標高から高標高にかけて、ハンノキ属樹種が更新しています。35年目となる2019年の調査では、1100mの低標高の調査地ではケヤマハンノキが15m以上の樹高に達して林冠が閉鎖していましたが(写真2)、一方で、早い時期に更新していた低木のヤシャブシはほとんどの個体が枯死していました。2000mの高標高の調査地ではミヤマハンノキとヤハズハンノキ(写真3)が更新し、さらに撹乱当初に表土まで流亡した場所ではミヤマハンノキがパッチ状に更新している様子が見られました(写真4)。

この調査地で、葉の窒素安定同位体比からハンノキ属樹種が吸収した窒素のどれくらいが共生的生物窒素固定によるものかを調べたところ、低標高のほうが高標高に比べてその割合が低いという結果が得られました。この結果から、撹乱後35年経過した時点では、低標高では植生回復に伴って土壌形成が進むことで土壌中の窒素が増えて共生的生物窒素固定への依存度が低下し、一方の植生回復の遅い高標高では、依然として共生的生物窒素固定に依存した窒素吸収をしていることが分かりました。今後もハンノキ属の樹種に着目して土壌撹乱後の植生回復について追跡していきたいと思います。

 

(植物生態研究領域 飛田 博順)

写真1 ケヤマハンノキの根粒
写真1 ケヤマハンノキの根粒

写真2 ケヤマハンノキの林冠が閉鎖している様子
写真2 ケヤマハンノキの林冠が閉鎖している様子

写真3 高標高で更新しているヤハズハンノキ
写真3 高標高で更新しているヤハズハンノキ

写真4 ミヤマハンノキがパッチ状に更新している様子
写真4 ミヤマハンノキがパッチ状に更新している様子

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