今月の自然探訪 > 過去の自然探訪 掲載一覧 > 自然探訪2022年4月 マングローブ
更新日:2022年4月1日
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マングローブは熱帯や亜熱帯地域の沿岸部汽水域に生育する森林生態系です。日本では、南西諸島から鹿児島県南部に自然分布しています(種子島が自然分布の北限)が、九州や本州でも人の手によって植栽されたマングローブを見ることができます(静岡県南伊豆町、熊本県不知火町、鹿児島県喜入町など)。
マングローブを構成する種数は、世界で70種以上にも及ぶと言われています。そのうち日本に分布するマングローブ植物の主要な構成種には、ヒルギ科のオヒルギ(Bruguiera gymnorrhiza)、メヒルギ(Kandelia obovata)、ヤエヤマヒルギ(Rhizophora stylosa)、マヤプシキ科のマヤプシキ(Sonneratia alba)、クマツヅラ科のヒルギダマシ(Avicennia alba)があります。これらのマングローブは、潮間帯の海水や汽水に浸る環境下に生息するので、根の酸素不足を回避するための呼吸根と呼ばれる特殊な形態の根系構造を有しています。その形状は種によって様々です。たとえば、オヒルギは膝を折ったような形の膝根(写真1)、メヒルギは幹周囲の根元に板状の板根(写真2)、ヤエヤマヒルギは幹から放射状に伸ばしたタコ足状の支柱根(写真3)、マヤプシキとヒルギダマシは地中のケーブル根から伸ばしたタケノコのような形状の筍根(写真4)など、それぞれ特徴的な呼吸根を持っています。
マングローブの生育適地は地盤高や潮汐環境によって規定されています。一般に波浪の影響が弱い平均潮位から最高高潮位までの干潟がマングローブの生育適地となります。樹種により生育適地の立地条件は異なるため、しばしば帯状の植生配列をとることが知られます。汀線に近い一番海側にはヒルギダマシが分布し、場所によってはマヤプシキが分布する場所もあります。その背後には、メヒルギやヤエヤマヒルギが密に分布することが多く、さらにその後背の地盤高が上がったところにはオヒルギが分布します。
これまでの研究により、世界のマングローブは一次生産能の高さを背景に、二酸化炭素を固定して幹や葉、枝、根、果実などの有機物を生産し、樹体やマングローブ泥炭として膨大な炭素を貯留し、地球温暖化の緩和に貢献していることが明らかになってきました。また、林床に供給されたリターは、そこに生息する魚やカニ、貝など魚介類のエネルギー源となり、潮間帯における生物多様性の保全にも寄与しています。さらに、マングローブそのものが沿岸の潮風や波浪のエネルギーを抑えるなど、近年の気候変動影響を背景に、防災機能の発揮にも期待が高まってきています。
このように、マングローブは、それらを育む地理・地形、生態系を形成する動植物、マングローブを取り巻く人間社会、さらには地球環境とも、非常に密接な関わりを持った貴重な生態系であり、それらをどう保全し、修復していくかが喫緊の課題となっています。
(立地環境研究領域 小野 賢二)
写真1 オヒルギの膝根
写真2 メヒルギの板根
写真3 ヤエヤマヒルギの支柱根
写真4(a) ヒルギダマシの筍根
写真4(b) マヤプシキの筍根
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