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更新日:2020年9月1日

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今月の自然探訪

山姥の休め木 ―絹皮病―

森の中を歩いているときに、幹が真っ白になった樹木を見かけたことはないでしょうか(写真1)。まるで白いペンキを塗られたかのような不思議な光景に、初めて見た人は驚くことと思います。

実はこれ、Cylindrobasidium argenteumという担子菌類(いわゆるキノコの仲間)によって引き起こされる絹皮病(きぬかわびょう)という樹木の病気です。これまでに千葉県から屋久島にかけて発生が報告されていて、特に九州の暖かい地域の森林でよく見かけます。主にカシ類等の常緑広葉樹で発生することが多いのですが、ヤマザクラなどの落葉広葉樹、または常緑針葉樹であるヒノキでの発生も知られ、これまでに約40種の樹木で被害が報告されている病害です。

白くなった部分は、菌糸層と呼ばれる病原菌の菌糸が密に絡み合った構造で出来ており、罹病した枝と接触した部分に菌糸が伸びて広がっていきます(写真2)。この菌を人為的に幹の直径が約30cmある樹木に接種した場合には、菌糸層は4年間で幹を一周し、上下方向に85cmも広がったとの報告があります。また、水平方向への伝染は、胞子によって行われていることが明らかにされているのですが、罹病した小枝がヒヨドリの巣材としても使われることがあるようで、鳥による分散でも分布を広げることがあるようです。

絹皮病という病名は、1928年に付けられたのですが、それ以前は「山姥(ヤマウバ)の休め木」または「山神の小便」として知られていました。いつ頃からこのように呼ばれるようになったのかは定かではありませんが、江戸時代後期の書物に「山ムバノ休メ木」と記録されており、古くから認識されているものだったと伺えます。確かに、絡み合った細い枝に菌糸が広がった様子は、長い白髪が垂れ下がっているようにも見えるのではないでしょうか(写真3)。菌類への認識がほとんどなかった時代に、このような不思議な現象は、妖怪(山姥)の仕業ではないかと思ったのでしょう。

樹木病害の中には、樹木を奇形にして通常の外観とは異質の様相にしてしまうこともあるため、他にも空想上の生き物に因んだ名が付けられているものがいくつか存在します。森林を散策している中、このような樹木に遭遇したら、昔の人の思想に思いを馳せてみて下さい。普段の森とは一味違う不思議な世界を堪能することができるでしょう。

(きのこ・森林微生物研究領域 安藤 裕萌)

写真1 絹皮病に罹病した樹木
写真1 絹皮病に罹病した樹木

写真2 罹病枝との接触によって菌糸が広がる
写真2 罹病枝との接触によって菌糸が広がる

写真3 細い枝に菌糸が蔓延して絡み合った様子
写真3 細い枝に菌糸が蔓延して絡み合った様子

 

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