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更新日:2023年3月1日
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木材は、おもちゃや家具など小物から、住宅や橋など大きな構造物まで、私たちの生活の様々な場面で使われる身近な材料です。一方で、山の中で倒木は朽ちて自然に還っていくように、自然物である木材をそのまま放置すると、昆虫に食べられたり微生物によって腐らされたりします。住宅など建物に使われる材料は、長期間にわたり安心して使用できることが大切なので、シロアリの食害や腐れを防ぐために特別な薬剤などで木材を処理します。これを保存処理といいます(広い意味では風雨など気候による劣化や火事などを防ぐ目的の処理も含まれます)。現在、保存処理された木材は土台などに使われることがほとんどですが(写真1)、かつては電柱や鉄道の枕木に使われ、私たちの生活インフラを支える大きな役割を果たしていました。
この保存処理された木製電柱、今でもたまに見かけます。本来の電柱としての役目は終えていると思いますが、引き込み線や外灯の支柱や柵などに現役で活躍しています。写真2は海岸沿いの町を訪れた時に撮影したもので、木製電柱が中央に2本並んで写っています。木製電柱には「注入銘板(ちゅうにゅうめいばん)」という金属のプレートがついており、どのような保存処理が行われたかが分かるようになっています。近寄ってみると左側はCCA(1990年代の中ごろまで使用されていたクロム・銅・ヒ素系保存剤)という薬剤が、右側はクレオソートという薬剤が加圧注入された電柱でした。私が木製電柱を気にするようになって日は浅いのですが、異なる薬剤で処理された木製電柱2本とコンクリート製電柱の三つ巴の風景はかなり珍しいと個人的に興味を惹かれました。
神社仏閣にある建築物などは木造であることが多いため、大切に使われていても歴史を刻んでいく中で色々な傷みも出てきます。先日、調査で立ち寄ったとあるお寺では、鐘木*(しゅもく)の上面が割れて部分的に腐っていました。そろそろ交換時期かなと思いながら金堂へと歩みを進め参拝を済ませ、建物をみながら裏手に回ると写真3に示す「つっかい棒」に出会いました。初めて見る光景だったので何なのだろうと近寄ってみると、「つっかい棒」はクレオソートで処理された元電柱でした。お寺の参道が海に面していたので海風対策なのでしょうか。明確な目的は分かりませんが、控え柱のような形で金堂を支える木製電柱も珍しい光景だと思います。
昭和の復興期に私たちの生活インフラを支えた木製電柱は、令和のいまも私たちの身の回りでひっそりと支える役割を果たしています。木製電柱を目にする機会は少ないかもしれませんが、このような木材のセカンドライフに出会えるのも調査や散歩をしている時の楽しみの一つです。
* 鐘木(しゅもく)・・・釣鐘をならすための木製の棒。
(木材改質研究領域 神原 広平)
写真1 保存処理された土台
(コンクリート基礎の上で柱材を受けている濃色の木材部分)
写真2 海岸沿いの町で撮影した木製電柱とコンクリート製電柱。
左手には松林がある。
写真3 つっかい棒のように金堂を支えていた木製電柱
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