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更新日:2020年7月1日

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今月の自然探訪

お花畑のツキノワグマ

日本のツキノワグマ(写真1)は本州と四国の森林に生息する大型哺乳類で、植食性の強い雑食です。広い行動圏を持ち、多種多様な食べ物を採食することから、アンブレラ種(クマのような大きな種が健全に生息していけるなら、他の動植物たちも健全に生きていけるはず)とも言われています。日本の豊かな森の象徴なのです。ところが近年、人里に出没し、農作物被害や人身事故を起こすなど、人との軋轢の報道を多く目にするようになりました。クマは凶暴、こわい、害獣というイメージを持つ方も多いのではないでしょうか。

私の調査地・信州でも食べ物が不足する夏になると、畑や果樹、残飯などに誘引されて人里に出没するクマがたくさんいます。一方で、北アルプスに生息するクマたちの中には、春は里山で樹木の芽吹きや山菜を食べていますが、夏の厳しい季節を迎えると、雪解け後の新鮮な芽生えを求めて山を登り、高山帯のお花畑を利用するクマがいます。そして夏の終わりが近づき、ドングリが実る頃また山を下りてたっぷり脂肪を蓄え、冬眠に備えるのです。信州の山岳域の厳しい自然と標高差を巧みに利用して生息しているクマたちです。

そんなクマのくらしを垣間見ることができるおすすめの場所が燕岳から大天井岳、槍ヶ岳一帯の北アルプス表銀座と言われる登山道です(写真2)。一部は喜作新道とも呼ばれ、1920年(大正9年)に地元猟師の小林喜作がクマやカモシカの獣道を整備した、槍ヶ岳の絶景と高山植物、野生動物を一度に楽しめる魅力的な登山ルートです。もともと獣道だったわけで、山の稜線の登山道を進んでいくと、槍ヶ岳をバックにライチョウ(写真3)やホシガラスが写真ポーズを決めてくれますし、少し前をサルの群れが横切っていくこともあります。過去の氷河が削ったカール地形にひろがるお花畑をよく見通せる場所に座ってしばらくじっと眺めていると、黒々とした丸いものがのそのそ姿を現し(写真4)、シシウドやアザミのなかまを食べている様子を観察することもできます。登山道にで~んとクマの落とし物を見つけることも(写真5)。人目を避けて横切ったのでしょう。糞をよくみてみるとシシウドを食べていたことがわかりました。

そろそろ夏山シーズンが始まります。登山中疲れたら少し歩みをとめ、向こうの斜面やカールのお花畑を見下ろしてみてください。もしかしたら、寝そべるクマやじゃれあう子グマたちが観察できるかもしれません。人里へ出没する困ったクマばかりが注目されがちですが、人間に遠慮しながらも自然の中でたくましく悠々と暮らしているクマたちもたくさんいます。クマのイメージが変わるといいなと思っています。

最後に、困ったクマを生み出さないために、絶対に野生動物に餌を与えてはいけません。ゴミも持ち帰りましょう。

(野生動物研究領域 中下 留美子)

 

写真1 北アルプス山麓のツキノワグマ
写真1:北アルプス山麓のツキノワグマ。
研究のためGPS付首輪が装着されている
(写真提供:瀧井暁子)

写真2:燕岳から槍ヶ岳を臨む北アルプス表銀座
写真2:燕岳から槍ヶ岳を臨む北アルプス表銀座

写真3:表銀座で出会ったライチョウ親子
写真3:表銀座で出会ったライチョウ親子

写真4:カールのお花畑に現れたツキノワグマ
写真4:カールのお花畑に現れたツキノワグマ。
このあとダケカンバ林に消えていきました。

写真5:登山道にあったクマの落とし物
写真5:登山道にあったクマの落とし物。
シシウドを食べていたようです。

 

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