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更新日:2021年12月13日

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今月の自然探訪

ヤツガタケトウヒ

ヤツガタケトウヒ(Picea koyamae Shiras.)は、マツ科トウヒ属の常緑針葉樹で、胸高直径90cm、樹高35mに達する高木です。長野県と山梨県の県境の八ヶ岳・秩父と南アルプス北東部だけに分布し、推定生育個体数が2000以下と少ないことから国の絶滅危惧IB類に指定されています。自生地の一つが八ヶ岳の西岳国有林のカラマツ沢で、1880年頃に一斉更新したと考えられる約100個体の集団が残されていることから、希少個体群保護林に指定されて保全対象になっています(写真1)。しかし、後継樹がないことから存続が危ぶまれており、自生地における天然更新を目指した現地保全と、穂木や種子から苗を増殖して人工林造林や植物園への植栽を行う現地外保全が行われています。

カラマツ沢のヤツガタケトウヒは、2007年に1本、2009年には11本が台風で幹折れあるいは根返りで倒木しました(写真2)。風倒木は樹冠や樹皮などの外見では健全でしたが、樹幹下部から根材にかけて心材が腐朽していました。根返りした1個体は樹高が22m、胸高直径が42cmで、生材樹幹の総重量は約920kg、枝葉の総重量は約390kgありました。このように高くて重い地上部を支持している根元が腐朽して強度が低下すると、強風で大きな力を受けた時に倒れやすくなります。腐朽材からはハナビラタケやカイメンタケなどのカラマツなどの根株を腐朽させる菌が検出されたことから、これらの腐朽菌が根株腐朽を起こしていると考えられました。また、非破壊的な方法で内部腐朽を毎木調査したところ、他にも腐朽している個体があると思われました。ぜひ後継樹が育ってほしいものです。

トウヒ属の樹木は北半球の亜寒帯を中心に広く分布しており、木材資源としてきわめて利用価値が高いものです。北海道ではエゾマツやアカエゾマツ、ヨーロッパではドイツトウヒ、北米ではシトカスプルースなどが主要な林業樹種となっており、建材、楽器用材、パルプなどに使われています。したがって、もしヤツガタケトウヒの木材が有用であれば、人工林を造成することで、保全と資源活用を同時に行うことができます。

カラマツ沢の風倒木の健全な部分や40~50年生の造林木の材質を調べたところ、白い材色や繊維傾斜などの基本的な性質は他のトウヒ属と共通しており、強度的性質は他のトウヒ属と同程度でした(写真3)。造林すると成林し、その木材が使えるものであることがわかりました。試験地の設定や維持管理を行い、成長調査を継続されている方々に感謝と敬意を表したいと思います。


(木材加工・特性研究領域 山下 香菜)

写真1 カラマツ沢希少個体群保護林のヤツガタケトウヒ
写真1 カラマツ沢希少個体群保護林のヤツガタケトウヒ

写真2-a ヤツガタケトウヒ風倒木(幹折れ木) 写真2-b ヤツガタケトウヒ風倒木(根返り木)
写真2 カラマツ沢希少個体群保護林のヤツガタケトウヒ風倒木
幹折れ木(左)と根返り木(右)

写真3 51年生ヤツガタケトウヒ造林木の2×4材
写真3 51年生ヤツガタケトウヒ造林木の2×4材

 

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