更新日:2022年11月1日

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カーボンニュートラルに向けて森林・林業・木材産業は何ができるか?

近畿大学農学部教授松本光朗氏の写真
近畿大学農学部 教授 松本光朗氏

Q1:人工林で、間伐などの手入れをすれば一時的に吸収速度が高くなるが、長い時間で見れば、森林にある材積と伐採して住宅などに木材の形で二酸化炭素を固定されている地球の全炭素量を増やさない限り、地球上の二酸化炭素を減少させることにはならないのではないか。そして全炭素量には上限があるのではないか。森林の二酸化炭素吸収は一時的なものではないか。

A1:地球上の炭素循環の中で、どこに炭素を貯めておくべきでしょうか?大気中に貯めると温暖化が進みますので、森林及び森林土壌、そして社会の木材に貯めることは理にかなっていると思います。もちろんCCSで二酸化炭素を地中・海中に注入すれば完全ですが、実用化するにはまだ時間はかかるでしょう。既存技術である森林管理による対策は必須です。
ところで、森林の二酸化炭素吸収が一時的なものであることに何か問題があるのでしょうか?循環ですから常に動いており(地球時間で言えば)一時的です。一時的であるからこそ、循環をうまくコントロールする必要があります。そしてコントロール可能な吸収源は、今のところ森林が最大のポテンシャルを持っています。個々の林分では一時的だとしても、陸地の3割と広大な面積を占める森林を計画的に造成・配置・管理し利用することにより、地球全体として長期的継続的に炭素の隔離ができます。
もちろん、森林の炭素量は究極的には上限はありますが、現状では上限には全く達してはいません。それどころか森林減少による排出は大きく、化石燃料による排出に次ぐものです。また、木材も同様にまだまだ社会に貯めておく余地はとても大きい。さらに、木材利用による排出削減も進めることができます。森林・木材の炭素量が上限になるまで、さてどれだけかかるでしょうか。

 

Q2:「森林の健全な状態」とはどのような状態を指すのか。ゼロエミッションの観点からすれば、二酸化炭素固定量(森林の材積量)を最大にすることではないか。

A2:二酸化炭素固定量(材積量)の最大化ということになれば、高齢林を多く作ることになります。しかし、二酸化炭素吸収にとっても、また森林の多面的機能(国土防災、水源涵養、生物多様性保全等)にとっても、それは必ずしも適切ではありません。適切に伐採・更新をして若い林分も配置し、炭素蓄積量と吸収量をバランス良く高く維持するなど、総合的にみて森林資源管理をする必要があります。私がイメージする「森林の健全な状態」とは、このような森林の状態です。私が講演で強調していた、木材利用による排出削減にも繋がります。

 

Q3:現在、県の企業の森で森林施業を行い、CO2削減と地域貢献したいと考えています。現在高齢林が多く、2030年までに一回間伐し、20年後には主伐して植栽をしないといけない計画です。お話の中で主伐後に植栽する場合、CO2の排出を控除できるとありましたが、どのくらい控除できるのでしょうか?計算式などがありましたらご教授いただきたく思います。よろしくお願いいたします。

A3:質問の内容から、J-クレジットのことかと思います。改訂された方法論では、伐採・更新された森林では、伐採によるCO2排出は上する必要はなくなりますが、その後40年間の吸収量を計上できなくなります。一度の大量排出を避けることができ、森林所有者には使いやすくなったと思います。詳しくは J-クレジットのサイトをご覧ください。

 

Q4:パネルディスカッションを含め、色々な御示唆を含む内容の濃いお話を聞かせていただきました。ありがとうございました。御講演の中で、今後森林吸収量を増やすための方策の一つとして、天然生林を伐採し再造林することを挙げられていました。天然生林は生物多様性保全などの他の公益的機能に重要であるとともに、もともと林業経営の採算が合いにくい立地条件にある森林が多いと思われるのですが、どのような天然生林を対象にどのような森林施業をすることを想定されておられるか(大径化した里山林のようなイメージでしょうか?)、ご教示いただけますと幸いです。

A4:私の講演で取り上げた天然生林とは旧薪炭林をイメージしたものです。里山林も含め、大径化しながらも利用されていない資源量は大量です。また、旧薪炭林は意外に出しの良いところに分布しており、コスト的にも有利です。再造林も良いですが、樹種や林分状況によっては天然更新でも良いと思います。いずれの更新方法でもFM林(森林経営を行っている森林)になります。ただし、生物多様性や国土保全などの多面的機能も考慮しながら、適切にゾーニングして計画的に利用することが大切かと思います。

 

Q5:天然生林のFM率を上げることを考えてもよいのではないか。というご意見は斬新でした。これは吸収量の算定に組みこむという意味かと思うのですが(人工林面積を減らしていこうという中で)、もう少し詳しくお話を聞かせていただきたいです。

A5:私の講演で取り上げた天然生林とは旧薪炭林をイメージしたものです。旧薪炭林は薪炭材、その後はパルプチップ生産のために利用されてきましたが、円高となってからはパルプチップ利用もなされず、放置された森林資源となりました。この旧薪炭林を利用し、FM林(森林経営を行っている森林)化して吸収量を確保するのと同時に、円安の中で再びパルプチップ利用や木質バイオマス利用、さらには製材利用を通して地域経済に貢献できるのではないでしょうか。このとき、確実な更新をする必要があります。再造林も良いですが、樹種や林分状況によっては天然更新でも良いと思います。もちろん、生物多様性や国土保全などの多面的機能も考慮しながら、適切にゾーニングして計画的に利用する必要があります。

 

Q6:シュミレーションで示していただいた3つのシナリオについて、長期的視点では主伐の増加(強度伐採)が最も緩和効果が高いと考えられるとのことですが、現行の伐採ペースをより速めた方が良いとのお考えでしょうか。再造林率を考えると、緩やかな主伐増が適切ではないかと感じた次第です。
木材の代替効果がこれから縦横になると思いますが、効果を適切に評価する手法についてはまだこれからだと思います。技術的に評価が可能な段階に来ているとお考えでしょうか。

A6:伐採は緩増でも急増でも良いと思います。大切なのは、いずれのシナリオにおいても、再造林率の倍増、エリートツリーの積極利用、木材利用の強力な促進が必須であると言うことです。逆に言えば、伐採増加シナリオは、これらの施策が無ければ単に吸収量が減るだけになるのです。
代替効果の評価については、基本的な原単位が導かれており、評価できるようになりました。しかし、クレジット化となるとより高度な手法開発が必須でしょう。J-クレジットについては、民間主導による方法論開発を期待したいところです。

講演中の松本光朗教授