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更新日:2024年7月26日

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育種って何? 望まれる個性を持った木を求めて③「人工交配-2」

 人工交配の続きです。前回は雄花(花粉)の採取まででしたが、今回はその後、種子の収穫までを見ていきましょう。

2.雌花の袋かけ

 人工交配をするためには雌花【写真-1】に袋をかけておく必要があります。これは、雌花に(自然界に飛散している)目的以外の花粉が受粉してしまわないようにするため、交配袋というものをかぶせて雌花と外界を遮断!!!するわけです。この時、雌花と一緒に雄花が交配袋の中に入ってしまわないように、雌花の近くにある雄花はすべて取り除いておきます。袋かけの方法はスギ、カラマツ、クロマツ、アカマツ、皆同じです(写真はクロマツの例【写真-2】~【写真-4】)。

3.花粉の準備

 一方、前回お話したように、それぞれの樹種の採取した雄花は、既にグラシン紙の袋なのかで花粉を放出しています。回収した花粉を系統毎にきちんと整理しておきます。(最近開発に力を入れている少花粉のスギは、採れる花粉の量も少ないので、集めるのは結構大変。花粉が少ない性質はありがたいのですが…。)
 もちろん、他の花粉が混入しないように細心の注意を払います。【写真-5】~【写真-7】
 スギ、カラマツ、クロマツ、アカマツの花粉は黄色で、だいたい同じ色【写真-8】~【写真-10】。ちなみに、西日本に多いヒノキは、花粉の色がややオレンジ色がかっているそうです。

 

へぇ~、そうなんですか!②

花粉症の原因、スギ花粉。その大きさは20~40㎛、とっても微小。そしてクロマツ、アカマツは
 40~60㎛、カラマツになるともう少し大きく60~80㎛になります(※1)。(ちなみに、人間の髪の毛の太さは約80㎛、黄砂は1~30㎛だそうです)
 これらの花粉、見た目は全て黄色い粉で違いが分かりませんが、回収する時【写真-6】【写真-9】【写真-10】、スギは注意しても煙のように舞い上がってしまうのに対し、カラマツはサラサラッと落ちていくような気がします。そして、スギ花粉が目に入ってしまうと、アレルギーで目がショボショボ痒くなり涙が出てつらいですが、カラマツ花粉が目に入いると、ゴミが入ったような感じでゴロゴロとする、そうです。(経験者談)
(※1)斎藤洋三:花粉,粉体工学研究会誌Vol.12 No.6(1975)

 

4.花粉の注入

 さて、準備が整ったところで、いよいよ人工授粉です。花粉を交配袋の中の雌花に受粉させるため、“花粉銃”なる物を使います【写真-11】。花粉が混ざってはマズいので、1回使ったら洗浄処理が必要となるため、人工交配の作業の時には、必要な系統の数だけの花粉銃を用意しなければなりません。現場では、あらかじめ考えた交配組み合わせの計画表(どの木とどの木を掛け合わせるか)どおりに花粉を注入して回りますが、組み合わせを間違えないよう印を付けながら慎重に作業を進めます。【写真-12】
 一本の木に何本分かの花粉を受粉させるので、ちゃんと印を付けていないと大変なことになります。東北育種場では、このような作業を多い年には500袋程度実施しています!

5.種子の収穫・調整

 自然界の花粉の飛散が見られなくなったら、交配袋を取り外し、次第に雌花が膨らんでいきます。しかし、スギの場合は、そのままにしておくと種子がカメムシに吸汁される被害がでてしまうので、防虫網をかけておかなければなりません。【写真-13】。
 後は待ちましょう。スギとカラマツはその年の秋、クロマツ、アカマツは翌年の秋、球果の採取です。取ってきた球果を乾燥させると鱗片が開き、その間から種子が自然と脱粒します。この時もどの木の花粉と受粉させて出来た球果なのか、混ざらないように注意して採種する必要があります。ちなみに、クロマツ、アカマツは球果を乾燥させると鱗片が開く過程で、パチンパチンと小気味よい音が鳴ります【写真-14】。

 

へぇ~、そうなんですか!②

 林業用の種子は.法律で採取すべき時期が決められている!?
 そうなんです!
 「林業種苗法」の施行規則でカラマツは9月1日以降、スギ、アカマツ、クロマツは9月20日以降に種子を採取するものとして定めているのです。
 もう一つ林業種苗法がらみで。“あなたはどこのご出身?「広域産地試験」”の回でも書きましたが、採取した種子や育てた苗木には配布区域というものがあって、全国をスギであれば7つに、アカマツは3つに、クロマツは2つに地域分けし、それぞれの地域間で持ち出しはできるが受入はできない、あるいはその逆、など移動を制限しているのです(暖かい地域に向いた品種の苗木を寒冷な地域に植えて、全滅したなんてことにならないように設定されています。)。
 ちなみに、違反した場合は3万円以下の罰金に処する、とも・・・

 

 こうして得られた種子を使って苗木を作り、第1回でお話しした「検定林」を造成して検定していくことが繰り返されます。この種子から苗木を育てて検定林に仕立てていくことにも、大変なノウハウと膨大な労力を要します。(林木育種は気長な作業に見えて、現場は結構忙しいのです!)これらについては、そのうちお話しするかもしれません。気長にお待ち下さい。

                    

         photo1_mebana
               【写真-1】袋かけ前の雌花
                左から、スギ、カラマツ、クロマツ

photo2_kuromatsufukurokake
  【写真-2】クロマツへの袋かけ①
  雌花の近くの雄花を取り去った後、
  未脱脂綿で袋の口を塞げるように
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   【写真-3】クロマツへの袋かけ②
    交配袋をかぶせて、針金でくくる。

photo4_kuromatsufukurokake
   【写真-4】クロマツへの袋かけ③
交配袋には窓がついていて、中の雌花の様子が
見えるので受粉させるタイミングが分かりやすい。

photo5_sugikahunkaisyu1
【写真-5】スギ花粉の回収①
袋の中で花粉が放出されたら回収。
花粉の採取作業をクリーンベンチの中で行うと花粉が舞い散らないので良い。違う系統の花粉が混ざらないよう、毎回綺麗に消毒しながら行います。
   photo6_sugikahunkaisyu
   【写真-6】スギ花粉の回収②
   袋に溜まった花粉の回収です。
     photo7_sugikahunkaisyu3
【写真-7】スギ花粉の回収③
大量の花粉!乾燥剤を入れて密封します。
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【写真-8】スギ花粉の回収④
様々な系統の花粉。どの花粉をどの雌花と交配させるのか、研究者は考えます。
photo9_karamatsukahunkaisyuu
【写真-9】カラマツ花粉の回収
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【写真-10】クロマツ花粉の回収
photo11_kahunjyu
【写真-11】“花粉銃”
黄色矢印の部分に目的の花粉を入れ、黒いゴムをムギュッと握ると、針の先端から花粉が噴射!面白半分にムギュしてはいけない。花粉テロになってしまう。
photo12_kahunchunyu
                                       【写真-12】花粉注入!
                         雌花にかぶせてある交配袋に針を刺して、ムギュッと花粉注入!
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  【写真-13】スギのカメムシ対策
   交配袋をとって防虫網を付けます。
photo14_kuromatsukyuukakansou
           【写真-14】クロマツ球果乾燥中
ストーブの周りで乾燥中。これだけ球果がたくさんあると、結構、パチンパチンと鳴ります。

 

 

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