はじまりは「たね」でした
「育種場」という名前だけあって、種子に関する仕事が沢山。4回目は、その種子の「発芽試験」についてです。
野菜などの種子は、普通に種苗店やホームセンターなどで買うことができます。
一方、林業用の種子はちょっと事情が違います。お店で買うことはできません。一般的に、林業用の種子は県の採種園で生産されています(最近は民間の業者が採種園を作ることも始まっています)。そして、ここで生産された種子が苗木業者に販売され、これを苗木業者が各自の苗畑に蒔いて苗木を育てているのです。
さてここで、「育種場」。どこに関係しているかというと…
県の採種園の前段です。
「育種場」では、樹木の品種の改良を行い(例えば、より成長の早いスギやカラマツ、より花粉の少ないスギ、マツノザイセンチュウ
※に抵抗性のあるアカマツやクロマツなどの開発です。)、ここで開発されたものを県の採種園に配布しているのです。
※マツノマダラカミキリによって媒介される松枯れの原因となる線虫。
では、なぜ「発芽試験」?
採種園に植えられている採種木(種子を採る木ですね。)について、何もしなければドンドン大きくなってしまい、種子を採取するのが大変になるので、育種場では幹を1mちょっとの高さで切ってしまい(断幹といいます。)、小型にして管理しましょう、と働きかけています(ミニチュア採種園と呼んでいます。)。そして、小型に管理した木から採った種子についても、品質的に問題ないと確認する必要があることから発芽試験のデータを集めているのです。
今回はスギの発芽試験です。スギ124個体からそれぞれ400粒ずつ、トータル49,600粒!
これを100粒ずつに分けて袋に入れた種子を流水につけ、発芽促進処理を行います。
その後、100粒ずつを496個のシャーレに置き、精製水で湿らして、25度に設定したインキュベーター(恒温器)に入れ保温し発芽を促します【写真-1】。これを1週間ごとに、4週間連続で発芽数を数えていくのです【写真-2】。細かい作業、老眼にはちょっと厳しいものが…(でも、本当に目チカチカ、集中力!!!なのは発芽試験をやる前の準備段階。49,600粒を選び、100粒ずつ袋に入れる工程…)
そして、4週間経っても発芽しなかった種子は、鉄板に挟み、万力で潰します。種子から胚乳が出れば充実種子としてカウントします【写真-3】。
今回の試験では発芽率が非常に良い集団があり、およそ60%。悪いと困るが、良ければ良いで何で???
林業用の種子、スギの発芽率は、一般的に20~30%程度と言われています。
一方、野菜などの種子をお店で買うと、その袋に「発芽率〇〇%以上」などと書いてあります。これは種苗法により、種苗業者が守るべき基準の一つとして、種類ごとに発芽率を調整するように決められているのです(例えば、稲の場合90%以上、トマトは80%以上、にんじん55%以上など)。
最近では、林業用種子でも発芽率を上げようと、簡易に未成熟種子や“しいな”を選別できる機器の開発が進められています。
こんなこともやってます。
種子の中にある脂質は、発芽に必要な物質と考えられています。この脂質の量に関連する数値を特殊な機器で測定し、指標を計算することにより(これは九州大学で行ってもらっています。)、種子の品質を評価することができます。
当育種場では【写真-4】のように、場所を決めてスギの種子を入れたプレートを準備し、これを九州大学で一つずつの種子の品質と大きさの測定をしてもらってるのです。
そして実際に発芽させることにより、種子の品質・大きさと発芽や初期成長の関係を調べてみると、大きさよりも品質(脂質の量)の方が発芽や初期成長との関係が高くなりました。
大きい種子が良い、とは一概には言えないようです…
種子だって見た目じゃない、中身なんです!
この技術は、発芽促進処理の効果や肥料の効果を見たい場合など、種子の品質をそろえる必要がある試験にも使えます。
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【写真-1〈a〉〈b〉〈c〉】発芽試験の準備
ろ紙を敷いたシャーレに、種子を置いて、精製水で湿らす〈a〉。
インキュベーター(恒温器)に入れて発芽を待つ〈b〉,〈c〉。
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【写真-2〈a〉〈b〉】発芽した種子をカウント
発芽したら〈a〉、ピンセットで取り除きながら、発芽数をカウント〈b〉。
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【写真-3〈a〉〈b〉】充実種子の確認
試験を始めて4週間経ったら、発芽せず残った種子を鉄板に挟み、万力でギュッと〈a〉。
胚乳が出たら(〈b〉の↓)、その種子を充実種子としてカウント。
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【写真-4〈a〉〈b〉】プレートにスギ種子を配置
作業に使っている鉛筆のような機器、ボタンを押すと掃除機のように空気を吸い込み種子をキャッチ! ボタンを放すと種子が落ちる!〈a〉
種子を一個一個配置させるのにとっても便利!〈b〉というか、これがないと目が回る・・・
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