目標林型の決定支援
分布予測マップ(kmz形式)のダウンロード
分布予測マップを、Google Earthで使用できるkmzファイルにしたものです。
分布予測マップの作成
- 人工林から広葉樹林への転換を目指す場合に目標林型となる、本来成立すると考えられる広葉樹の群集タイプを地域ごとに推定します。
- 日本の自然植生はほとんどがブナ科優占です。したがって、自然林に近い種組成の森林の復元を「広葉樹林化」の目的とした場合、ブナ科を含む森林は目標林分となりえます。
- しかし、人工林下層に散布距離の短い種が定着することは困難です。ブナ科は重力散布で散布距離が短く、近隣に母樹のない状態での更新はやはり困難です。
- そこで、
①ブナ科を含む森林→もっとも目指すべき目標林分、
②それ以外の天然林構成要素→ブナ科が居なくても、自然林に近い種組成の目指すべき目標林分
として目標林分を設定し各地域で成立する可能性の高い林分の分布予測を行いました。 - なお、亜熱帯から冷温帯まで含む場合は、種レベルでの評価はあまりに多様な種を含むので、困難です。
- したがって、優占種であるブナ科については種レベルで解析、それ以外の種については、科レベルで解析しました。
- 以上から、ブナ科の群集とそれ以外の科の群集の分布予測マップを作成しました。
結果の説明
- ブナ科の群集は以下の5つのタイプに分類されました (表1)。
表1 ブナ科群集のタイプ分類
値は、相対胸高断面積合計の平均値±標準偏差1 ブナ ミズナラ — — — 0.594±0.145 0.013±0.020 2 ウラジロガシ ツブラジイ アカガシ スダジイ ツクバネガシ 0.075±0.064 0.073±0.144 0.068±0.076 0.061±0.129 0.023±0.048 3 ミズナラ カシワ — — — 0.425±0.224 0.001±0.002 4 ブナ イヌブナ ミズナラ クリ コナラ 0.118±0.114 0.075±0.110 0.046±0.051 0.029±0.052 0.016±0.052 5 コナラ ミズナラ シリブカガシ アラカシ アカガシ 0.098±0.206 0.015±0.029 0.011±0.043 0.067±0.015 0.004±0.009 - ブナ科以外の群集は以下の6つのタイプに分類されました(表2)。Eグループについては気候値によって分布予測のための最適なモデルを得ることができませんでした。
表2 ブナ科以外の群集のタイプ分類
値は、相対胸高断面積合計の平均値±標準偏差A モッコク科 (サカキ、ヒサカキ) ハイノキ科 クスノキ科 (シロダモ、イヌガシ、タブノキなど…) ツツジ科 (ネジキ、シャシャンボ) カエデ 0.054±0.028 0.046±0.101 0.042±0.044 0.024±0.020 0.022±0.024 B クスノキ科 (シロダモ、イヌガシ、タブノキなど…) マンサク科 (イスノキ) ツバキ科 (ヤブツバキ) モッコク科 (サカキ、ヒサカキ) ニレ科 (ケヤキ) 0.188±0.096 0.111±0.109 0.062±0.035 0.033±0.026 0.024±0.064 C トチノキ カエデ クルミ科 モクレン科 (ホオノキ、コブシ、タムシバ) カツラ 0.172±0.102 0.071±0.015 0.066±0.040 0.051±0.042 0.040±0.090 D モクレン科 (ホオノキ、コブシ、タムシバ) シナノキ (オオバボダイジュ) カバノキ科 (シデ、ハンノキ、カンバ) モチノキ科 (アオハダ、イヌツゲ) カエデ 0.011±0.015 0.007±0.016 0.006±0.012 0.005±0.006 0.004±0.003 E カバノキ科 (シデ、ハンノキ、カンバ) ヤナギ科 バラ科 (サクラsp) カエデ ツツジ科 (ツツジ、スノキ、アセビ) 0.094±0.038 0.087±0.248 0.019±0.026 0.017±0.014 0.009±0.021 F カバノキ科 (シデ、ハンノキ、カンバ) カエデ シナノキ (オオバボダイジュ) モクセイ科 (アオダモ) バラ科 (サクラsp) 0.161±0.125 0.125±0.048 0.058±0.100 0.055±0.110 0.049±0.056
各森林タイプの説明
ブナ林タイプ
- 1. ブナ林日本海側タイプ
- ブナ優占でミズナラが混じる森林タイプで、多雪地域に分布している、日本海側型のブナ林タイプと思われます。このタイプは気候値のみによる予測の場合、北海道の北部にも分布が推定されてしまうため、ブナ北限以北の分布については強制的に分布確率を0に修正しました。
- 2. 常緑のシイ、カシ林
- ウロジロガシ、ツブラジイ、アカガシ、スダジイ、ツブラジイなどの常緑のブナ科が含まれる森林タイプです。常緑シイカシ林も本来は幾つかのタイプ分けがなされるべきですが、今回は推定の元になったデータの不足により不可能でした。また、四国や九州の高標高域にはこれらの樹種は分布しないはずですが、これらの地域にはモニタリングプロットが存在しないため、推定することができませんでした。
- 3. ミズナラ林
- わずかにカシワが混ざりますが、ほとんどミズナラの森林です。標高が低く、年平均気温の低い北海道沿岸部に分布することが予測されました。この森林タイプの結果については、苫小牧のモニタリングプロットのデータに強く影響を受けている可能性が考えられます。
- 4. ブナ、イヌブナ、ミズナラ林
- ブナ優占で、イヌブナ、ミズナラ、クリ、コナラなどが混ざる森林です。太平洋側に分布するブナ林に相当すると考えられます。主に、本州山岳地に分布します。日本海側でも分布は予測されますが、その分布確率は、1.のブナ林よりも低いため、全体のマップには反映されませんでした。この森林タイプも1.と同様にブナ北限以北の分布については強制的に0に修正しました。
- 5. コナラ林
- コナラが最も優占しますが、アラカシ、ミズナラ、アカガシ等もわずかに混ざる森林タイプです。他の森林タイプに比べて、相対的に分布確率が低いものの、標高の低い平野部を中心に、全国に広く分布することが予測されました。二次林的な要素を持つ森林タイプであると考えられます。
ブナ林以外
- A. モッコク、ハイノキ、クスノキタイプ
- 西日本にかけてひろく分布しますが、分布確率は相対的に低くなっています。サカキやハイノキ、クスノキが含まれますが、特徴的な優占種が不在です。低標高では、B.よりも分布確率が低くなります。本来分布しない九州、四国の高標高域でも分布する予測になっていますが、これは、モニタリングプロットの欠如によるものだと考えられます。
- B. クスノキ、マンサクタイプ
- イスノキやシロダモやタブノキ、ホソバタブなどのクスノキ科の高木種が含まれており、「一般的な常緑樹林のイメージ — ブナ科」の森林だと思われます。イスノキやクスノキ科がA.よりも高い割合で含まれます。
- C. トチノキ、カエデタイプ
- 日本海側多雪地に分布が予測されました。カツラやクルミが混ざるなど、渓畔要素も含まれているのは、カヌマ沢などの渓畔要素を含むモニタリングプロットが日本海側に多いためかもしれません。1.ブナ林日本海側タイプとほぼ同じ分布パターンを示しました。
- D. カバノキ、ヤナギ、サクラタイプ
- 全体の結果としてはマスクされましたが、高標高に分布する亜高山帯以上の広葉樹種の組成を示していると考えられます。
- F. カバノキ、カエデ、シナノキタイプ
- 一般的な日本の落葉樹林を示していると考えられ、比較的高標高域と北方に広く分布が予測されました。ここに含まれるカバノキ科は北に行くにつれて、シデ(クマシデ、アカシデ、イヌシデ)から、カンバに変わると考えられます。また、場所によってはヤシャブシやハンノキも含まれます。これらの種はほとんどが風散布なので、クスノキ等に比べて離れた場所からの移入は困難ですが、大量の種子を散布するため、近隣に種子源があれば、侵入定着の可能性が期待できると考えられます。
方法
- 全国に点在するモニタリング1000プロットデータの、公開されている最新版を用いました。
- 人工林のプロット、また、亜熱帯林のプロット(沖縄県)は除外しました。
- 群集データをブナ科の種、それ以外の科にわけて、相対BAをプロット毎に算出しました。各プロットの群集構造を、bray-curtiseのdismmirality indexを用いたクラスター分析(ward法)で、カテゴリー分類しました。
- クラスター分析によって分けられたグループの分布確率をロジスティック回帰モデルによって推定しました。応答変数は、ブナ科各群集タイプの在不在とブナ科以外の各群集タイプの在不在です。説明変数は標高、年間最低気温、年間最高気温、年間平均気温の10年間の平均、降水量、最大積雪深の5つです。
- すべての変数の組み合わせから、AIC基準でベストモデルを選択しました。年間最低気温、年間最高気温、年間平均気温については、変数間の共線性が高いため、この3つの変数のうち複数が選ばれたモデルは除外し、これらのうち一つが選ばれたものを有効なモデルとしました。
- 選択されたベストモデルを基準に各群集タイプの分布を推定し、各メッシュにおいて、もっとも分布確率の高い群集をその場所の予測される天然林に近い群集としました。
- ブナの北限以北の分布については0と調整しました。
- 亜高山帯以上については既存の土地利用図をもちいてマスクしました。