フォレストスケープの評価方法 |
フォレストスケープの評価とは 評価の目的 フォレストスケープを評価するとはどういうことなのか、また何のために評価を行うのかについてまず整理しておく。 人々がフォレストスケープに接したとき、様々な印象を持つ。それは、フォレストスケープの表情の違いにもよるし、同じフォレストスケープでも、時系列の変化や受け取り手である人々の感性や、時々の心理状態などにも左右されるからである。 例えば、白神などのブナの原生林に接するとき、なんと瑞々しく美しいフォレストスケープであろうかと感じる人もいれば、奥深い、スケールの大きい原生自然景観に圧倒されて、神秘さやあるいは恐れを抱く人もあろう。これらの心理的な受け止め方の違いには、相当な距離があることがわかる。 しかしながら、一人では圧倒され恐れても、何人かでブナ林を歩くことにより、印象は穏やかなものに変わる。同じブナ林であっても、丈の高いササで覆われた盛夏のフォレストスケープと、深い雪に地表が覆われ、葉を落とした枝と幹だけの冬季では全く印象が異なる。さらに、同じ人でも時々の心理状態によってとらえ方は異なってこよう。精神状態が充実して余裕があるときと、様々な問題を抱え、風景を眺めるどころでない場合では全く異なる印象になることは容易に察しがつく。 見る人の条件による違い こうしたフォレストスケープのとらえ方の多様性は、個人のもって生まれた感性によるところが大きいが、人生の中での環境や経験の違い、個々人のライフスタイルや時々の状況にも大きく左右される。 例えば、森林の知識が豊富な人は、フォレストスケープの中に森林の育成過程や健全性、生態特性なども読み取るため、ある程度客観的・総合的にフォレストスケープをとらえるが、森林についてそれほど詳しくない人は、純粋に主観的、視覚的にフォレストスケープをとらえる。 このように、評価者たる人間側に様々な条件の違いがあることを、まず念頭に置かなければならない。このことは、評価手法が心理学的でも生理学的でも共通することである。 したがって、純粋に視覚的にフォレストスケープを評価する場合は、評価者の身近にないフォレストスケープを評価対象にするほうがさまざまな思い入れがないため、雑音が少なくてすむ。 フォレストスケープのとらえ方について具体例をあげよう。
ブナ林のフォレストスケープ 例えば、地元の山村の人々にとってのブナ林は、ごく慣れ親しんだ風景であり、山菜やきのこ採りのため山に入り、丈の高いササに阻まれ、危険性も高い。したがって、感動を覚える対象としてのみ、フォレストスケープをとらえているわけではない。また、遠景に加えて、森林の中での近景域のフォレストスケープを意識するところが特徴である。 ところが、都市住民にとってのブナ林は、一種憧れのフォレストスケープであり、たまに車窓越しに眺めたり、写真集やテレビで見る美しい景観対象である。そして、フォレストスケープは、遠くから眺める遠景が中心で、林内景観は意識されない。 二次林のフォレストスケープ 一方、都市近郊のコナラやアカマツ、クヌギなどの二次林においては、ブナ林に見られる都市住民、山村住民の構造より少し複雑なフォレストスケープとの接し方がある。 第一は、農家として薪炭林を維持管理してきた人々のとらえ方。これはブナ林の場合同様、森林を風景としてではなく、生産空間として意識しており、遠景より主に林内景観としてとらえている。 第二は、多くの都市住民にとっては、コナラ、アカマツ林もブナ林同様、外から眺めるフォレストスケープであるということである。あまり林内に入ることをしない。 第三は、都市住民の中で、二次林と積極的に接触をもとうとしている人々である。彼らは、さまざまな形態で二次林と接しており、維持管理の手助けも行うなど、両者の見方をもっている人たちである。 フォレストスケープの評価方法 ―AHP法を応用した森林のアメニティ機能評価 フォレストスケープ評価の切り口は、数多い。心理的評価や生理的評価、それ以前に評価材料となるフォレストスケープの提示方法も、CGを用いたり写真を使ったり、現地を見たりと多様である。
|
フォレストスケープの評価手法事例として、ここであげるのは、視覚としてのフォレストスケープを含む森林のアメニティ機能を評価した事例である。アメニティ評価機能とは、視覚、聴覚、嗅覚、触角、味覚の五感を快適にする機能である。したがって、アメニティ機能が高ければ、人々はより快適に森林と接することができる。
フォレストスケープの評価構造は、人々が環境としてフォレストスケープを体験してきた中で育まれるものであり、それは五感によるアメニティの体験に他ならない。 ここで紹介するのは、AHP法(階層化意志決定法)という、OR(オペレーションズ・リサーチ)の手法を応用した事例である。この方法は、何度か試行してなれれば誰にでもできる簡便な方法である。ここでの評価手順や事例は、森林のアメニティについてであるが、もちろん、用途はこれに限定されるものでなく、レクリエーション機能や森林環境にかかわる汎用的な評価手法の一つとして薦められる。 |
[表1]森林のアメニティ
|
まず、アメニティ資源の豊富な地域における一般的な評価の手順を説明し、次に森林を3区分(人工林、二次林、自然林)して、それぞれの森林のアメニティをより詳細に評価した事例を説明する。 |