天然林のアメニティ評価

 一口に天然林といっても、南は屋久スギの原生林から北は阿寒のアカエゾマツ林まで多様である。しかしながら、一般の人々にとっては、屋久スギのような特別な森林を除けば、アカエゾマツ林もトドマツ林もモミ、ツガ林も大きな差異は感じないものと思われる。ただし、ブナ林(落葉広葉樹林)とトウヒ林(常緑針葉樹林)では印象が異なってこよう。本事例では、ウラジロモミやオオシラビソなどの亜高山性針葉樹にダケカンバなどの落葉広葉樹が混交する、尾瀬周辺の天然林を取りあげた。

 評価者の属性は、首都圏近郊に在住する家族連れグループで、小学生とその両親180名である。アンケートを用いたAHP法(階層化意志決定法)の応用手法で、アメニティを評価した。構成因子の数は、一対比較が繁雑になりすぎないように、同一階層内3個とした。因子ウエートは、70人の大人の評価の平均値である(図1)。

天然林のアメニティ因子

 因子ウエートを見ると、森の深さ(0.46)の評価が高い。天然林の神秘性など、非日常的な魅力が寄与していると考えられる。北山の磨き丸太林では外景観としての人工的整形美が、クヌギ・コナラ二次林では都市のストレスを癒すための林内環境がアメニティの主題となったことと対照的である。二次林には日常のアメニティが、天然林には非日常のアメニティが求められている。

森の深さ

 森の深さを構成する因子のウエートは、森の広さ(0.64)、木の高さ(0.26)、木の太さ(0.10)と続く。二次林の森の大きさを構成する因子で、森の高さ(0.25)より森の広さ(0.75)のウエートが高かったことと共通する。しかしながら、京都の一般用材人工林の壮大さの評価では、専門家集団は、直径(0.39)、樹高(0.39)、森の広さ(0.15)の順に高いウエートをおいている。均一性の高い人工林では、個々の樹木のスケールに目が向けられ、二次林や天然林では集団としての森林のまとまりを意識する傾向が見られる。

 森林の深さ、大きさとそれを構成する因子間の評価は、評価基準が比較的物理的なので森林の種類より、評価する人の属性によるところが大きいといういい方もできる。専門家が直径や樹高を壮大さの第一要因とするのは、いくら広くてもまだ若い、生育途上の森林には壮大さを感じないからである。そこには、専門家が森の質にこだわっている姿勢がうかがえる。

自然性

 自然性を構成する因子のウエートは、草花(0.46)、樹木(0.32)、野生生物(0.22)の順である。草花の評価が高いのは、尾瀬の湿原植生が効いているためである。野生生物の豊富さは、短期間の林内散策主体の利用状況では、特に大型の野生動物に出会える機会が少ないので評価は低くなる。

森の環境

 森の環境を構成する因子のウエートは、空気のよさ(0.60)が最も高く、静けさ、涼しさ(それぞれ0.20)が続く。空気のよさが最も効いているのは、評価者が都市居住者であることと、当地域が強い森の香りを勇する亜高山針葉樹林に広く覆われているからである。

 また、京都北山の一般用材人工林の林内環境に関して、北山森林組合の人々は静けさと涼しさに同程度のウエートを与え、一方クヌギ・コナラ二次林では造園の学生が涼しさを静けさより高く評価した。二次林の調査時の環境が、涼しさに高い評価が集まる時期であったことなどを考慮に入れると、それぞれ評価者が異なるので厳密にはいえないが、林内環境の涼しさと静けさという二つの因子は、同程度のウエートを有するアメニティ因子であるといえよう。


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