里山二次林のアメニティ評価

 クヌギ・コナラ林に代表される里山二次林は、日本人の最も好む景観の一つに数えられている。ただし人工林同様に適切な管理が加えられることが前提である。

 里山の多くは、農用や燃料用などで人の手が入ってきた。つまり、人間が作り、維持してきたフォレストスケープである。人手が加えられなくなった林内空間は、低木やツル・下草が生い茂り、また萌芽した樹木はそれぞれが大きくなりすぎ、林内は暗くなり、林内活動にも適さなくなる。加えて、風などに対する抵抗性も低下する。

 

 二次林のアメニティ機能評価の対象地は、埼玉県内の平地林(クヌギ・コナラ二次林)で、調査箇所は管理状態が良く、林内は歩きやすい。評価者は、造園専攻の学生のグループである。

 調査の手順は、学生に評価対象森林をしばらく体験させ、現地においてAHPを応用した集団の合意形成による意志決定により、アメニティ因子の抽出、アメニティ因子の階層化、一対比較による各因子の重み付けを行った(表1)。また、現地でパソコンを用いて整合性のチェックも行った。アメニティの階層構造および、それぞれの因子ウエートを図1に示す。

[表1]里山二次林のアメニティ因子の一対比較と重み付け
  林内環境 行動性 自然性 景観 ウエート
林内環境 1 3 3 5 0.50
行動性   1 3 5 0.29
自然性     1 3 0.14
景観       1 0.07
 

二次林のアメニティ因子

 因子の階層構造の特徴は、人工林のアメニティが外から森林を見る視覚による景観の因子が中心であったのに対し、二次林では、林内環境や林内での行動性など日常的に森林内を利用することに重きがおかれている。

 つまり、人工林のアメニティとは人々にとって外から眺める対象、一定の距離を置くもので、視覚的要因が中心となるが、二次林のそれは、人々が直接森林に触れ、林内に入り利用することで得られる五感のそれぞれに深く関与するものである。

 因子は、最初の階層で大きく4分され、そのウエートは林内環境(0.50)が最も大きく、林内の行動性(0.29)、自然性(0.14)、景観(0.07)と続く。

 林内の快適な環境が最も重視されたのは、住宅地に隣接する都市林のアメニティの特徴をよく表している。人々は、都市林に涼しさや静けさ、おいしい空気やひんやりとした木々や落ち葉の感触を楽しむものである。身近な都市内のオアシス、憩いの場として期待されるところが大きい。

 階層3までで、自然性、行動性、林内環境は構成因子がほぼ出尽くしたが、景観は階層5まで深められた。これは、評価者が造園の学生で景観に対する認識が高いことと、景観には林外からの評価も加わるためと考えられる。

 パソコンを用いた整合性のチェックは、因子の数が少ない(4個程度)と有効だが、(2度目の評価で整合性が高まる)、多いとそれほど寄与しない傾向が見られた。

景観

 景観はそれ自身のウエートは必ずしも高くないが、構成する因子は最も複雑で深い階層を呈した。まず林内(0.88)と林外(0.12)に2分された。ウエートは林内が高い。日常的に直接林内で体験することに重みがおかれている。

 その下の階層では、林内はさらに上層(0.26)、中層(0.64)、下層(0.10)に分けられ、ここでは目線の位置としての中層のウエートが高い。林外では、緑量としての森の大きさ(0.52)に色彩(0.26)が続く。森の大きさには、広さ(0.75)のほうが高さ(0.25)より効いている。

 林内の上層は、木漏れ日の明るさ(0.64)が最も効き、落葉広葉樹の柔らかい色合い(0.26)が続く。中層は、見通しのよい開放的な景観を創り出す適度な密度(0.49)と、それを保管する下枝の少なさ(0.28)が重要な因子となる。通直な、あるいは緩やかなカーブを描く幹の形(0.12)が評価され、幹の太さ(0.06)と木の肌(0.05)が続く。幹の形は、一本立ち(0.50)と薪炭林およびシイタケほだ木生産林としての株立ち(0.50)が同程度に評価された。

 木の肌は、それぞれの樹種まで因子が細分化された。コナラ(0.55)は、白と黒の縞模様にコルク層の厚みが立体感を演出し、最も好まれた。クヌギ(0.26)がそれに続いたが、コナラに比べると色彩のメリハリに少しかける。アカマツ(0.14)は、京都の東山などのそれに比べると若いのでそれほど高い評価は得られない。シデ類(0.05)は数の少ないこともあって存在感に乏しく、木肌の立体感はない。

 下層は、表土(0.08)が露出するより下草(0.62)や落葉(0.30)に被われる景観が好まれる。

因子ウエートの総合化

 図1(前掲)の里山二次林のアメニティを構成する因子と、そのウエートを取りまとめると表2のようになり、二次林のアメニティの多様さがよくわかる。

 二次林のアメニティ因子は、涼しさ、静けさ、明るさ、多様性、森の香りなど極めて多様で、しかもそれら因子は物理量に変換することが難しい。したがって、因子を数量化するには、森林簿から得られる情報だけではとてもカバーしきれない。あえて、これら多様な因子を森林簿情報に置き換えると、表3のようになる。

[表2]
二次林のアメニティ=
涼しさ 0.26
(林内環境×涼しさ)
0.14
明るさ 0.13
林床 0.09
多様性 0.07
森の香り 0.06
粗密度 0.06
行動性×(疎林+下枝)
樹木 0.04
土の感触 0.03
傾斜(平坦) 0.03
昆虫 0.02
下枝 0.02
落葉 0.01
幹形 0.01
森の大きさ 0.01
色合い 0.01
+) 木の肌 0.01
=1.0

[表3]

二次林のアメニティ=

森林管理・樹種※

0.51

林齢

0.31

面積

0.15

+)

傾斜

0.03

=1.0

※涼しさ(0.26) +明るさ(0.13) +下枝(0.02) +落葉(0.01) = 0.51

 


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