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ホーム > 研究紹介 > 研究成果 > 研究発表会等 > もりゼミ > 研究発表会等 > もりゼミ > 過去のテーマ(もりゼミの歴史)H18-20

更新日:2013年6月13日

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過去のテーマ(もりゼミの歴史)H18-20

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平成20年度

平成21年1月27日

半島マレーシア、パソー森林保護区の低地フタバガキ林での地下部現存量推定

東北支所 地域研究監 新山 馨

熱帯多雨林の生産力や炭素収支を明らかにするためには、地下部現存量の測定は避 けて通れない。しかし、大変な労力がかかるので、IBP(International Biological Program) の際の伐倒調査でも地下部の現存量は実測されず(細根はサンプリング調 査された)、地上部のみの現存量推定であった (Kato et al. 1978) 。パソー森林保 護区の択伐林で、地下部の調査をする許可を得たので、重機で地下部を掘り取り、地 下部の実測データを得た。胸高直径1 cmから116 cmまでの121個体の胸高直径と樹高 を測定し、その後、地下部を掘り取り調査した。地下部調査では、直径 5mm以上の根 と根株を、建設用重機と人力ですべて掘り取り、生重量を測定した。根の深さが4m 近い個体もあったがすべて掘り取った。地上部は、葉、枝、幹に分けて生重量を測定 した。これらの実測値を基にアロメトリー式を作成し、現存量を推定した。なお細根 (直径5mm以下)についてはパイプモデルを使って推定した。地下部を実測した個体 (DBH > 2.5cm)の地上部をIBPのアロメトリー式で推定し、地下部の地上部に対 する割合(R/T)を計算した結果、14-16%の値を得た。

平成20年6月9日

マツノザイセンチュウと私―これまでの研究とこれからの研究―

東北支所 生物被害研究グループ 相川 拓也

4月1日付けで本所から東北支所に異動になりました相川と申します。専門は“線虫”で、これまでマツ材線虫病の病原体であるマツノザイセンチュウの研究に携わってきました。今回の私の発表は自己紹介という意味合いが強いようですので、一つの研究テーマだけに絞ってお話するのではなく、私がこれまで行ってきた研究、そして今後取り組もうとしている研究の一部をそれぞれ紹介させて頂きます。
―これまでの研究―
一般的にはあまり知られていませんが、マツノザイセンチュウには、非常に強い病原力(マツを枯らす能力)を持つものから、ほとんど病原力を持たないものまで様々な系統が存在します。病原力の弱いマツノザイセンチュウ、すなわち健全なマツの中でほとんど増殖できないようなマツノザイセンチュウが、なぜ病原力の強いマツノザイセンチュウに駆逐されることなく野外で生存できるのか?その点を解明すべく取り組んだ研究についてお話します。
―これからの研究―
「マツが枯れたのでマツ材線虫病によるものかどうか調べてほしい」。森林総研の樹病研究室には毎年このような鑑定依頼が山のように寄せられます。依頼元は国、県、民間企業、樹木医、個人など様々です。マツ材線虫病の診断には、枯死木からマツノザイセンチュウを検出する必要があります。しかし、線虫の同定には顕微鏡などの高額機器や線虫の形態に関する専門的な知識が不可欠であるため、診断はどうしてもこれらの機器や人材が備わった専門機関に一極集中してしまいます。線虫の専門家でなくても、また顕微鏡がなくても簡単にマツ材線虫病かどうかを判定できる方法はないだろうか?このような発想から、最近取り組み始めた新たなマツ材線虫病診断法についてお話します。

平成20年5月26日

丘陵フタバガキ天然林の択伐技術の改善に向けて(ジルカスプロジェクト)

東北支所 育林技術研究グループ 八木橋 勉

マレーシアでは、森林資源の持続的利用のため慣行方式による択伐施業が行われていますが、数回の択伐の後にフタバガキ科の樹種がほとんど消失する事例が多く見られています。そこで、本プロジェクトでは、フタバガキ科の有用樹セラヤについて稚樹の更新動態の視点や母樹の遺伝的多様性の維持の視点を取り入れた択伐技術の規準作成を目指しています。稚樹の更新を図る上で望ましい母樹間隔など、これまでに得られた成果について報告します。

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平成19年度

平成20年3月24日

台風による風倒がササ型林床オオシラビソ林の更新に及ぼす影響-被害の程度による稚樹の生育状況のちがい-

岩手大学 農学部 西尾 悠佑

多雪山地の亜高山帯ではオオシラビソの林冠が連続しない疎生林がみられ、その中にダケカンバが混生している。オオシラビソ林の林床では、高さ2m程度のチシマザサが密生し、林冠下にはササを欠く部分がある。多くの林冠木を死亡させる台風は、オオシラビソ林の更新の契機となる撹乱として重要と考えられる。一方、林冠下に稚樹が集中するオオシラビソ林では、林冠木の風倒により多くの稚樹が巻添えを受けて死亡する可能性もある。そこで本研究では、八幡平において風倒16年後のオオシラビソおよびダケカンバ稚樹の生育状況や光環境を風倒被害程度別(激害区、中害区、微害区)に調査し、台風による風倒が稚樹の生残や成長に及ぼす影響について考察した。
激害区では多数の林冠木が風倒被害を受けて多くの根返マウンドが形成され、そこで多くのダケカンバ稚樹が定着し、速やかに成長した。オオシラビソ稚樹の密度は低く、林冠下に集中した多くの稚樹が林冠木の風倒の巻添えになった可能性がある。また林冠疎開はササのさらなる繁茂を促進して林床の光環境をむしろ低下させ、オオシラビソ稚樹の生存・成長を阻害したと考えられる。一方中害区では、2006年にササを抜けていたオオシラビソ稚樹は激害区や微害区よりも多く、台風を契機に林冠の被陰を脱したものも多くみられた。ササ密生型林床オオシラビソ林では、中規模の風倒でオオシラビソの更新は促進されるが、大規模な風倒ではオオシラビソの更新はむしろ阻害され、ダケカンバの定着や成長が強く促進されると考えられる。

平成20年2月22日

ブナ豊作後の野ネズミ個体群の増加と繁殖成功

秋田県立大学院 森林科学研究室 大学院生 三田 瞬一

野ネズミの個体数はブナ豊作年の翌年に急増することが知られている。本研究では、奥羽山系のカヌマ沢渓畔林試験地(岩手県)で優占するアカネズミとヒメネズミについて、ブナ豊作年翌年に個体数が急増する要因を説明しうる次の4つの仮説を検証した。ブナ豊作後には、野ネズミの1)越冬生残率が上昇する;2)雌1個体の年間の繁殖回数が増加する; 3)雌1成体あたりの1腹産仔数が増加する;4)春仔の生残率が例年に比べて高い。本日は、これらの仮説の検証結果及びブナ豊作後の野ネズミ個体数増加のメカニズムについて紹介いたします。


平成20年1月15日

マツ枯れにおける生物間相互作用-線虫・菌・カミキリムシ-

東北支所 生物被害研究グループ 前原 紀敏

マツ枯れ(マツ材線虫病)の病原体であるマツノザイセンチュウは、マツノマダラカミキリ成虫によってマツの枯死木から健全木へと運ばれて(伝播)、その木を枯らし、翌年その枯死木から脱出する次世代のマツノマダラカミキリ成虫によって再び健全木へと伝播されるというサイクルを繰り返します。マツの枯死木の中には、マツノマダラカミキリ以外にも様々な種類のカミキリムシ、ゾウムシ、キクイムシなどの穿孔虫が存在します。マツノザイセンチュウが病原体であることが突き止められる以前は、マツノマダラカミキリを含めたこれらの穿孔虫がマツを枯らしているのではないかと疑われ、これらを称して「松くい虫」と呼ばれたほどです。それでは、マツ枯死木の中には、このように多くの穿孔虫が存在するにもかかわらず、なぜマツノザイセンチュウはマツノマダラカミキリによってのみ伝播されるのでしょうか。一方、マツノマダラカミキリの中にも、膨大な数のマツノザイセンチュウを伝播するものから全く伝播しないものまで存在することが知られていますが、この原因は一体何でしょうか。これらのことを調べていくうちに、材内の菌類が重要な役割を果たしていることが明らかになったので、紹介します。さらに、その知見を元に、菌類を用いたマツノザイセンチュウの微生物的防除法の開発を試みたので、併せてお話ししたいと思います。

平成19年7月9日

荒廃地に植栽した広葉樹の生育調査 ~全国植樹祭記念の森にて~

宮城県林業試験場 研究開発部 田中 一登

平成8年5月に「全国植樹祭記念の森」の一画で宮城県林業試験場が植栽した広葉樹の生育調査を,10年後の平成18年3月に行いましたのでご報告します。「全国植樹祭記念の森」は宮城県白石市蔵王山麓の標高640mに位置し,とても風の強い風衝地です。植栽樹種はブナ,ミズナラ,ミズメ,ウダイカンバ,イタヤカエデ,ミズキ,ウリハダカエデ,イヌエンジュ,ヤマハンノキ,オオバヤシャブシの10種です。
その結果,ヤマハンノキ,イヌエンジュは平均樹高,生存率ともに高く,原植生と考えられるブナは平均樹高が低いものの生存率は高かったです。また,ヤマハンノキと混植した4種はいずれも単植より平均地際径が太かったことから,環境条件が厳しい地域におけるヤマハンノキの肥料木としての可能性が考えられました。

平成19年6月25日

連続的なよそ者と地域社会

白神獣害対策調査研究所(2007年3月まで日本学術振興会(東北大学)) 堀内 史朗

いま日本各地の農山村で,過疎高齢化に伴う弊害が生じている.そこで期待されるのがボランティアやIターンである.しかし,よそ者が地域住民と交渉するに当たっては様々な問題がある.
報告者は,秋田県八峰町と岡山県西粟倉村において,地域住民のよそ者への対応について調べてきた.以下,それぞれの事例について報告する.
1.秋田県八森町(現八峰町)は野生ニホンザルによる農作物危害(猿害)対策として,猿追い上げボランティアを募集している.また同町に隣接する白神山地は1993年に世界自然遺産に指定された.それらが機縁となり,八森の集落には,ボランティア,猿,観光客,自然保護団体という四種類のよそ者がやってくる.地域住民が想像する“よそ者像”は,よそ者によって異なる.報告者は,各よそ者に対して地域住民が想像する「強さ」が,そのよそ者と地域住民の間の空間的・心理的距離感によって構成されていることを,地域住民にたいする聞き取り調査から明らかにした.
2.岡山県西粟倉村にて小規模林家(10ha以下)および木工業者に対して聞き取り調査を行い,同村の林業および村の将来にたいする展望について意見を聞いた.生まれてからずっと村で山仕事をしてきた人ほど,山への思い入れが強い一方,村の将来に対して悲観的である.村外で生活をおくった経験があり,最近になって農林業を始めた人ほど,ボランティアやIターン者などに対する期待が高い.それぞれの「村意識」が質的に異なっている可能性を明らかにした.
どちらの研究においても,地域住民/よそ者の二元論ではなく,近いよそ者から遠いよそ者という,連続的な理解こそが,よそ者論にとって包括的で有用である可能性を示した.

平成19年6月11日

ブラジルアマゾン熱帯林の土壌特性と荒廃地回復における土壌の重要性-ブラジルアマゾン森林研究計画IIにおける研究成果から-

東北支所 森林環境研究グループ長 平井 敬三

2001年7月~2003年9月まで,JICAブラジルアマゾン森林研究計画フェーズIIプロジェクトの立地特性分野長期専門家として,ブラジルアマゾナス州マナオス市にあるINPA(国立アマゾン研究所)に滞在した。担当した立地特性分野では天然林と荒廃地の立地特性評価を目的に5つの研究項目が遂行された。
INPAのZF-2試験地に設けられたベルトトランセクトでは,天然林内を対象に地形と土壌分布や土壌特性の関係が解明された。ベルト内では,土壌は地形とともに分布土壌が変化し,それら土壌の理化学特性は大きく異なっていた。特に物理性の違いが顕著で,土性(粘土含量)が化学性や保水量の違いに大きく影響していた。
マナオス周辺では地形的にみると台地が広く分布し,そこには粘土含量の高いFerralsols(Oxisols)が優占している。相対的に生産力が高い土壌が分布する台地は農地や放牧地として利用され,その後放棄されることが多い。そのような場所で,農地利用後の荒廃地回復を目的に植栽地における土壌物理性への影響が検討された。
最終的な目的は経済的価値が高いアマゾンの郷土樹種による森林再生である。しかし,それらの樹種は比較的耐陰性が高く,初期成長が小さいため,単植では荒廃土壌の変化がほとんどみられなかった。一方,郷土樹種と早生樹を混植すると,土壌硬度や容積重が小さくなるなど,物理性の改善が認められた。さらに早生樹の混植とともに,植栽前に耕起作業を行うと,土壌物理性の改善により顕著な効果が認められた。また結果として,早生樹の成長が大きくなった。
土壌耕起や早生樹の混植を行わずに植栽した場合,植栽木の活着率や成長量が悪いことが観察された。この原因を検討するため植栽木の植穴内外の土壌物理性を調査した。植穴内の透水性は外に比べて大きくなる。そのため速やかに植穴内に浸透した雨水は底部からの排水が悪くなり,植穴内での滞水時間が長くなるため根系に影響するためと考察された。実際に根系を調査した結果,バイオマスに反映していた。粘土含量の多い台地土壌では,対照とした植穴内外の透水性の違いが小さい砂質壌土に比べて,細根量は非常に小さかった。
これらの結果をもとに土壌管理の面からみた場合,この地域に広がる粘土含量の高い台地土壌では耕起作業は物理性改善に効果があること,さらに樹木成長の促進が期待されることから,実行することが望ましと考えられた。ただし,傾斜地では土壌浸食の発生が心配されるので,平坦地に限るべきである。

平成19年5月21日

ヤマドリ放鳥の意味を問う?

東北支所 地域研究監 川路 則友

ヤマドリは、古くから和歌に詠われるほど日本人に親しみが深い日本固有種であり、狩猟対象種にもなっているが、野外における個体数がここ数十年で激減しているといわれる。個体数回復のための一方策として、各地で毎年5,000羽以上もの養殖個体が野外に放鳥されているが、いまだ狩猟数の回復には至っていない。その原因については、放鳥個体が自然環境に順応できず衰弱してしまう、捕食者にすぐにやられてしまう、たとえ長期生存しても繁殖効率が悪い、などの説がまことしやかに言われているが、放鳥後のモニタリングがこれまでほとんどなされていないことから、いずれも推測の域を出ないのが現状である。そこで、今後のヤマドリ放鳥事業に的確な提言を行うことを目的として、栃木県において放鳥個体に電波発信器を装着して追跡し、放鳥効果、死亡要因などについて解析を行った。放鳥、追跡調査は、鳥獣保護区である栃木県県民の森で1997年11月から開始し、約9年間、述べ100個体について行った。放鳥後の位置確認は、1週間に1~4回のペースで行い、月齢、性別、放鳥季節、放鳥場所の環境による放鳥個体の生存日数の差を調べた。その結果、現在の放鳥体制についてかなり悲観的なデータが多く得られたが、より効率的な放鳥体制を整えるための重要な指針を与えることができた。今後はこのような科学的な根拠をもとに、我が国においてもこれまで全くといっていいほどなされてこなかった本来の狩猟鳥管理体制を充実させることが重要であり、ひいては減少しつつある自然個体群の回復にもつ ながると考えられる。

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平成18年度

平成19年2月26日

樹木の開葉フェノロジー種特性がフユシャクガの食害に与える影響

岩手大学農学部 農林環境科学科 森林科学講座 松木 佐和子

落葉樹にとって、北国の春は一斉に葉を展開し始める待ちに待った季節。その一方で、食葉性昆虫にとってはようやくエサにありつける貴重な季節であり、樹冠はにわかに賑わしさを増す。そんな中、はたして開葉期の葉は利用しやすいエサだろうか?それともしにくいエサだろうか?という疑問がわく。これまでの研究から、開葉期の未熟葉は成熟葉に比べて堅さやポリフェノールのような量的防御物質が備わっていないために利用されやすい、という報告がある。一方で、未熟葉は相対的な窒素濃度が高く、その後の成長を支える重要な光合成器官であることから他の季節よりも防御を万全にしているという全く逆の見解も示されている。この相反する事例は、樹木の開葉フェノロジー種特性の違いによって説明されると考えられる。しかし、通常樹冠で見られる食葉性昆虫の密度は低く、その食害パターンを樹種間で比較することは容易ではない。
本研究では、北海道においておよそ10年に1回の頻度で起こると言われるフユシャクガの大発生年(2005年)と、その翌年の非発生年(2006年)に食葉性昆虫の食害パターンを開葉フェノロジーの異なる3種の落葉広葉樹(シラカンバ、ウダイカンバ、ミズナラ)について調べる機会を得たので、その調査結果を報告する。
大発生年と非発生年では、食害率は異なるものの樹種ごとの食害パターンは似通っていた。シラカンバは未熟葉、成熟葉ともに食害をうけにくく、ウダイカンバは未熟葉では食害率は低く推移するものの夏期に多く食害を受けた。一方ミズナラは開葉期に多く食害を受け、その後成熟葉では食害を受けにくかった。葉の形質を調べたところ、カンバ2種では開芽直後の短い期間だけ見られる特異的な防御形質(Glandular trichome)の存在が確認され、その物質が存在する期間は高いC/N比を示した。また、量的防御物質である縮合タンニンはシラカンバで最も高く、葉が成熟するにつれ増加した。一方ミズナラでは、開葉期のC/N比は低く、カンバで見られるような特異的な防御形質は全く見られなかった。しかし葉の伸長終了後、急激に堅さが増加した。以上の結果から、樹種ごとに開葉フェノロジーに伴う葉の形質変化のパターンは異なり、食害パターンは刻々と変化する葉の形質をよく反映していることが示された。


平成19年2月19日

社会学の林政分野への応用可能性

東北支所 森林資源管理研究グループ 林 雅秀

2006年5月~7月と同10月~2007年1月の計7ヶ月間,東北大学文学研究科・行動科学研究室での国内留学の機会を得ました。期間中,数理社会学や社会心理学を基礎として,社会的ネットワーク,ソーシャル・キャピタル,ゲーム理論,エージェントベーストモデル,社会調査法などに関わる理論や方法について学びました。私自身,まだまだ理解できない点が多い状態ですが,記憶が鮮明なうちにこれらの概要を説明したいと思います。同時にこれらの理論や方法の林政分野への応用可能性について現段階での考えを述べたいと思います。

平成19年1月22日

森林におけるタワーフラックス観測について

東北支所 森林環境研究グループ 安田 幸生

森林におけるタワーフラックス観測(CO2フラックス観測)は,森林生態系の二酸化炭素収支を把握する手法として,1990年代より広く用いられるようになった。この方法は,細かい時間分解能と長期安定性の両方を持つ測定法である。このため,得られたデータはCO2交換プロセスの解析からCO2吸収量の年変動の解析に至るまで,利用範囲が広い。
今回は,まず”フラックス観測とはなにか?”を説明し,タワー観測で何を行っているのかを紹介する。また実際にフラックス観測で得られたデータを用い(埼玉県川越市にて観測),CO2フラックスの日変化・季節変化の様子などを示す。

最後に安比森林気象試験地での2006年のCO2フラックス観測結果(予備解析)を報告する予定である。


平成19年1月15日

森林の人為攪乱が樹木の繁殖におよぼす影響

東北支所 チーム長(天然更新担当) 柴田 銃江

森林の人為攪乱は、樹木の局所密度を変える一方で、送粉者や種子食者の数などを変化させるため、樹木の繁殖成功にも間接的に影響すると考えられている。例えば、森林の分断によって樹木が孤立化した場合、交配可能な樹木個体の減少や、送粉昆虫数の活動低下や個体数減少によって繁殖成功が低下すると懸念されている。しかし、実際にどんな樹種でどのような影響があるのかは、まだ不明な部分が多い。そこで、送粉昆虫相や分布パターンの異なるいくつかの虫媒樹種(イタヤカエデ、ハリギリ、ホオノキ)について検討した。
それぞれの樹種について、訪花昆虫を調べるとともに、局所的な樹木密度が異なる個体間で、受粉率や、虫害率、他殖率等を比較した。その結果、イタヤカエデとホオノキでは、樹木密度が高いほど受粉率が高いが、他殖率や種子サイズは低下した。これらの樹種では、樹木密度が高いと花粉制約が軽減され受粉率はあがるが、結実した種子の質は必ずしも良くないことになる。それに対して、ハリギリでは、樹木密度による受粉成功の変化はみられなかった。イタヤカエデの主な訪花者は、ハナアブやハエ類、小型ハナバチであり、ホオノキではそれらに加え甲虫類とマルハナバチも訪花していた。ハリギリではミツバチが主な訪花者だった。受粉についての樹種間の反応の違いは、訪花昆虫のうち有効な送粉者として働く昆虫の豊富さや行動特性、開花期間を反映したものと考えられる。また、イタヤカエデとホオノキでは、樹木密度が高いほど種子の虫害率や菌害率が高くなった。ハリギリでは葉の菌害を介して間接的に種子生存率が低くなった。このような密度依存的な種子死亡のため、最終的な種子充実率は、異なる樹木密度間でそれほど大きく変わらなかった。
以上の結果から、今回検討した樹種については、ある程度孤立化してもそれほど大きな負の影響はないと考えられた。逆に樹木密度が高くなった場合では、密度依存的な死亡や種子の質低下などにより繁殖成功は抑制されると予想される。このように、送粉昆虫や種子食昆虫などとの相互作用によって、樹木密度の増減による繁殖への影響は緩和されるしくみがあるとおもわれる。
しかし、この結論は3樹種の短期的な調査結果からにすぎない。繁殖の時間空間スケールや繁殖に関わる生物間相互作用のパターンは樹種によって様々である。森林の人為撹乱が、樹木の繁殖や森林の更新におよぼす影響を評価するためには、今後も様々な送粉タイプや分布特性をもつ樹種について、影響メカニズムを明らかにするとともに、繁殖成功の帰結を長期的に検討していく必要がある。


平成18年12月11日

断片化した森林における昆虫相の評価 -在来種と一時滞在種を区別することの重要性-

東北支所 生物被害研究グループ長 磯野 昌弘

里山の森林は、農地化や宅地化により、連続した大きな森林から小さな断片へと変化してきた。こうした環境では、もともと里山に棲んでいる種に加えて、周辺環境から侵入してきたと思われる一時滞在者が見いだされる。前者は、縮小しつつある環境の中で、かろうじて生き延びている生き物であり、保全すべき対象といえるだろう。一方、後者は、本来の里山の生物相を攪乱する負の要因としてとらえるべきものといえる。従って、断片化のすすむ里山環境においては、在来種と一時滞在種を区別した評価が必要となる。こうした生物相の質的評価法を、環境指標生物として有望視されているオサムシ科甲虫に適用してみた。まず、在来種と一時滞在種を区別するために、里山とその周辺にみられるさまざまな環境における地表性甲虫の生息状況を調べ、それぞれの種が、本来、どうゆう環境に生息しているかを推定した。そして、これにもとづき、断片化した森林の昆虫相が、どのような要素から構成されているかを調べた。これにより、従来の評価法ではわからなかった里山生物がおかれている現状、すなわち、断片化した森林における、1)在来種の衰退と、2)周辺環境からの頻繁な侵入という現状が浮かびあがってきた。質を加味した生物相評価の視点は、景観のモザイク化が進行する中で、今後ますます重要となっていくだろう。


平成18年11月27日

森林の衰退現象

東北支所 研究調整監 赤間 亮夫

1980年代に、酸性雨により、森林が衰退しているのではないのか、という懸念が広まって以来、わが国でも林野庁、環境省などのプロジェクトとして、各地の衰退森林に関する調査・研究が行われてきた。今回は、関東平野、奥日光、大台ヶ原、九州山地、およびスロバキアにおける森林衰退の状況を写真で紹介するとともに、樹木の養分に関わる側面からの研究の一端を紹介する。


平成18年7月27日

バイカル湖周辺地域における気候急変期の植生変化

東北支所 森林環境研究グループ 志知 幸治

約12,900-11,500年前に北大西洋地域を中心としてヤンガードライアスと呼ばれる気候の寒冷化イベントが起きた。このヤンガードライアスの影響はシベリア内陸部でも認められ、例えば、バイカル湖湖底堆積物中の珪藻や全有機炭素含有量の減少にあらわれている。しかし、これまでのバイカル湖周辺地域の花粉分析結果からは、その影響をはっきりと読みとることはできない。
バイカル湖周辺地域においてヤンガードライアス期の植生変化があったかどうかを明らかにするために、バイカル湖東岸に位置するコトケリ湖の湖底堆積物(KTK1コア)とバイカル湖湖底堆積物(Ver99G12コア)の花粉分析を行った。KTK1コアはバイカル湖湖岸地域の植生の状態を、Ver99G12コアはその堆積物の主な供給源であるセレンガ川流域の植生の状態を、それぞれ反映していると考えられる。花粉分析の結果、KTK1コアではヤンガードライアスに相当する時期に約5%のヨモギ属花粉の増加がみられ、草本植生の拡大が示唆された。一方、Ver99G12コアでは、同時期に約10%のヨモギ属花粉の増加がみられたが、堆積物中の花粉含有量がその前後の時期の約10分の1に減少したことから、この時期におけるセレンガ川流域の植被の減少が示唆された。
ヤンガードライアスの影響はどちらの地域においても認められたが、バイカル湖湖岸地域よりもセレンガ川流域の方が大きくあらわれていた。バイカル湖湖岸地域では、バイカル湖によって気候変化が緩和されたのかもしれない。


平成18年7月13日

有機物分解過程における近赤外吸収特性の経時変化および成分分析への近赤外スペクトルの応用

東北支所 森林環境研究グループ 小野 賢二

森林地上部の植生から森林土壌への有機物供給、蓄積プロセスには、気地温、土壌水分などの立地環境、分解者生物相などとともに、リター自身の化学的性質が律速要因として影響を与えることが知られている。それ故に、これまで、Bergらや京大森林生態研のグループによって、熱心に研究が進められ有機物分解過程に関わる律速要因の詳細が明らかにされてきた。従来、有機物成分の定量は、JIS(日本工業規格)やTAPPI(紙パルプ協会(カナダ))が定めている近似的逐次抽出法に則って、分析がされてきたが、これらの方法は、大変煩雑で、時間がかかるものであった。
一方で、可視、赤外領域では、分光学が発展し、光の吸収と物質の構造や性質との関連が明らかにされ、成分分析、物質の定量法に応用、実用化されている。近赤外領域においても1960年代以降、USDA(アメリカ農務省)のNorrisらがその有効性を示し、近赤外分光分析法が一般的な分析法への発展を遂げた。有機物を形作っているそれぞれ分子は近赤外光のうちある特定の波長の光を吸収する性質を持っており、それ故、分光スペクトルは、有機物の成分、性質を調べる上で、有効なツールとなる。
そこで、本研究では、広葉樹(ブナ)と針葉樹(アカマツ)の落葉を用いて分解試験を行い、その過程において、各リターの近赤外吸収特性および有機物の成分組成がどのように変化するか、調べた。また、近赤外吸収スペクトルと有機物の成分組成の関係を調べ、成分分析、定量法への近赤外スペクトルの応用、実用性について検討を行った。


平成18年6月15日

自然公園のゆくえ-地方分権化における新たな自然公園像を求めて-

東北支所 森林資源管理研究グループ長 八巻 一成

自然公園は日本における自然保護制度の中核を担ってきた。また自然公園は、観光、レクリエーションなどを通して人々が自然と親しむ機会を提供することも目的としている。そのため、自然保護か利用かで数多くの論争が行われてきた。近年の地方税財源改革(三位一体改革)の中で、自然公園行政に対する国と地方の役割が見直されたが、それによってさらに新たな問題が生じつつある。そこで今回は、自然公園のこれまでの役割を簡単に辿りながら、自然公園で現在起こりつつある新たな課題について整理する。さらに、地方分権の時代における新たな自然公園像を求めて、欧米の自然公園の動向を踏まえながら、その方向性を探る。


平成18年6月1日

野ネズミとドングリとの関係をとらえ直す-アカネズミのタンニン克服メカニズムの解明-

東北支所 生物多様性研究グループ 島田 卓哉

コナラ属樹木の種子(堅果,ドングリ)は,大型であり,生産量が多く,また腐りにくいという特質を持つために,森林の動物にとって重要な餌資源となっている.しかし,ミズナラなどの一部の堅果は,堅果中にタンニンが10%近い高濃度で含まれている.これまでタンニンは穏やかに作用する消化阻害物質と見なされていたため,堅果は高濃度でタンニンが含まれているにも係わらず,良い餌である信じられてきた.しかし,私たちは,堅果中のタンニンには強い毒性があり,堅果の摂食はアカネズミに強い負の効果をもたらすことを発見した.その一方で,アカネズミが秋から冬の食料として堅果に強く依存していることもまた事実であり,野外ではアカネズミは何らかの生理的・行動的なタンニンに対する防御機構を有しているのではないかと考えられる. 今回の発表では,タンニンの機能,堅果の栄養成分,そして堅果の豊凶と野ネズミの個体群動態との関連に関するレビューから話を始め,最近明らかになった唾液及び腸内細菌の働きによるアカネズミのタンニン防御メカニズムについて話題提供をしたい.


平成18年5月23日

世界遺産に登録されれば,環境は良くなるか?

岩手大学 農学部 助教授 柴崎 茂光

報告者柴崎茂光は、本年3月に岩手大学農学部地域マネジメント学講座に赴任した。世界自然遺産地域(特に鹿児島県屋久島)を対象に、地域資源管理体系の現状把握および住民参加型の新たな管理体系構築に向けた研究活動を主に進めている。今回は屋久島を事例として、世界遺産登録前後で地域資源管理体系がどのように変化してきたかについて報告する。

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お問い合わせ

所属課室:東北支所 担当者名:育林技術研究グループ 齋藤 智之、森林環境研究グループ 阿部 俊夫

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