研究成果選集
森林総合研究所では、森林・林業・林産業という幅広い分野から、毎年数多くの研究成果を挙げています。
その中から、今後、利活用が期待されるテーマを選び、「研究成果選集」として、発行・掲載しています。
ここでは、「研究成果選集」から東北支所職員及び東北地方に関連した研究成果を掲載します。
平成28年版 研究成果選集 2016
平成28年版 研究成果選集 2016 を一括ダウンロード(PDF:12,222KB)
重点課題A 地域に対応した多様な森林管理技術の開発
A1 多様な施業システムに対応した森林管理技術の開発
- ここまでやれる多雪地域の再造林の低コスト化(PDF:1,565KB)
東北地域の人工林伐採後の再造林率は20 ~ 30%と低く、再造林率向上には初期造林コストの低減が不可欠です。
そこで、多雪地型の一貫作業の導入や、下刈りコストの削減に よる初期造林コストの半減を目的に研究を行いました。
その結果、伐採作業用の機械を地拵え作業に利用するとコストは通常作業の60%以下、植栽作業は70%程度に削減できることが分かりました。
また、下刈りについては、スギとカラマツともに作業回数を従来の二分の一から三分の一に削減できることを明らかにしました。
さらに、造林作業のコストを評価するコストシミュレーターを開発し、様々な作業を組み合わせたときのコスト評価をできるようにしました。
重点課題C 木材の需要拡大に向けた利用促進に係る技術の開発
C2 住宅・公共建築物等の木造・木質化に向けた高信頼・高快適化技術の開発
- 変わりゆくシロアリ生息地と寒冷地におけるシロアリ対策の必要性(PDF:1,498KB)
シロアリは、熱帯~亜熱帯原産であるにもかかわらず、長い年月を経て徐々に寒冷な気候に適応し、生息域を拡げてきています。
今回、日本各地における木造建築物へのシロアリ被害リスクを評価するため、主として2010 年以降の野外生息域と被害情報を精査して、シロアリの野外生息マップを更新しました。
その結果、これまで住宅の土台などで使用する木材に対して防蟻処理が必要とされていなかった北海道や青森県においても、シロアリの野外での生息や住宅等への被害が認められるなど、防蟻処理の必要な地域が変化していることを明らかにしました。
これらの成果は、木造建築物に対するシロアリ被害を低減するためのシロアリ予防対策に活用できます。
重点課題D 新規需要の獲得に向けた木質バイオマスの総合利用技術の開発
D1 木質バイオマスの安定供給と地域利用システムの構築
- 中小規模木質バイオマス発電施設に対する燃料供給と熱電併給事業の採算性(PDF:1,462KB)
木質バイオマス発電施設の建設が全国各地で進められています。
多くは発電規模5,000kW以上の施設ですが、規模の小さい2,000kW 未満の中小規模発電施設の導入を考えている地域もあります。
こうした中小規模施設は、発電だけでなく発電の際に発生する熱も利用しなければ事業の採算性は厳しいといわれています。
そこで、岩手県奥州市を対象に2,000kW未満の発電施設を想定して、燃料の安定供給と熱電併給事業の可能性を検討しました。
その結果、木質バイオマス資源量は奥州市単独でも賄えますが、安定的な供給のためには周辺自治体まで集荷範囲を拡大する必要があること、
発電規模500kW 程度の施設を分散すれば地域の実情に即した熱電併給事業が実現可能であると考えられました。
重点課題F 気候変動に対応した水資源保全と山地災害防止技術の開発
F2 多様な手法による森林の山地災害防止機能強化技術の開発
- 海岸林再生に向けたクロマツの通年植栽(PDF:1,253KB)
東北地方の津波被害後の海岸林の再生事業では、植栽が大面積にわたるため、作業時期を分散させることができる通年植栽が求められています。
そこで、宮城県仙台市において、クロマツの通年植栽の可能性を検討するため、厳冬期の1月を除き、2ヶ月おきに通年でクロマツコンテナ苗を植栽する試験を行いました。
その結果、いずれの植栽時期でも越冬後の生存率が98% 以上と高く、成長にも大きな問題はみられませんでした。
今後、より多くの地域で検証する必要がありますが、コンテナ苗を用いれば、クロマツは、厳寒期を除いて通年植栽できる可能性が示されました。
重点課題G 森林の生物多様性の保全と評価・管理・利用技術の開発
G1 シカ等生物による被害軽減・共存技術の開発
- 小笠原で急速に広がる樹木病害「南根腐病」の防除に向けた実態解明(PDF:1,291KB)
近年、小笠原諸島の樹木が次々に枯死しています。
これは、シマサルノコシカケというきのこによって引き起こされる病気、「南根腐病」が原因です。
調査の結果、南根腐病は小笠原諸島内の各地で発生しており宿主※範囲も広範であるものの、植生によって発生しやすさに差があることがわかりました。
病原菌の遺伝的多様性が高いことから、この菌は侵入種ではなく元々小笠原に生息していた菌であると推測されました。
近年の急激な被害拡大には何らかの環境変化が関わると考えられました。
- シカとカモシカの糞をすばやく識別(PDF:2,489KB) シカとカモシカの糞を簡単かつ迅速に識別する手法を開発しました。
糞の表面に付着している両種のDNAを検出することにより識別する方法です。
このDNA 識別法では、専門的な技術や機器を一切必要とせず、また、短時間で識別できることから、
これまでDNA の操作を行ったことがない、より現場に近い人でも容易に扱うことができます。
この糞識別法を利用することで、シカとカモシカが混在する地域においても、シカの生息状況が精確に把握できるようになります。
重点課題H 高速育種等による林木の新品種の開発
H2 林木育種の高速化及び多様なニーズに対応するための育種技術の開発
- 抵抗性クロマツで海岸防災林を再生する(PDF:1,358KB)
東日本大震災で被災した海岸周辺部では、住環境改善や営農復興のため、潮・風・飛砂への防備機能を備えた海岸防災林を再生する必要があります。
このためには耐塩性に優れるクロマツの植栽が必須であり、マツノザイセンチュウ(マツ材線虫病の病原体)に抵抗性を有することが求められますが、
東北産の抵抗性クロマツ苗木の供給量には限りがあり、再生計画の一部では、西日本等の温暖地産種苗の導入も検討されています。
そこで抵抗性クロマツについて、当研究所と県および民間との共同研究により、東北産クロマツ苗木の飛躍的な生産性向上技術と温暖地産種苗の
寒冷な東北への導入技術の開発に取り組み、海岸防災林の再生現場に苗木を大量に供給するシステムを構築しました。
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