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多摩森林科学園のサクラ保存林は、サクラの名木や栽培品種の最大級のコレクションで、貴重な遺伝的資源です。しかし、江戸時代にさかのぼる伝統的な栽培品種は、異名同種や同名異種など多くの混乱を抱えています。そこで、形態調査や文献調査、遺伝子分析などから、正確な識別を手法の確立に取り組んでいます。また、適切な管理手法について検討し、サクラ類の保全と将来の活用を目指す研究を進めています。
都市近郊の落葉広葉樹二次林は、古くはいわゆる里山林として薪炭生産や農業利用のために維持されてきましたが、最近ではその目的を失い放置されています。都市近郊林を健全に保全していくために森林の分布や植物の多様性を明らかにし、管理法の違いによる植生変化などについて研究を進めています。
多摩森林科学園では1960年代から現在まで哺乳類の研究が継続され、7目14科20種もの多様な哺乳類が生息することが分かりました。また、周辺の市街地や森林環境の変化に伴い、哺乳類の生息状況も変わってきたことが分かりました。かつて身近に見られたムササビやニホンリスは分布が後退しています。ビデオカメラ付き巣箱によってムササビの繁殖生態を調べたところ、300日にも及ぶ長い子育て期間を必要とするため、メスが良い条件で繁殖できる環境を保全することが、個体群を維持するうえで重要であることが分かりました。都市近郊では希少になってしまったムササビについて学んでいただくために、園内にムササビスポットやパンフレットを用意しました。
近年、全国各地でイノシシ、シカの分布拡大が報告されるようになってきました。これらの動物が市街地に出没する問題も生じています。多摩森林科学園では、都市近郊林におけるイノシシ、シカ対策を考えるため、「都市近郊における獣害防除システムの開発」についての研究を実施しました。また、都市近郊に生息するイノシシの生態や管理について学んでいただくために、イノシシスポットやパンフレットを用意しました。
都市近郊では特定外来生物も大きな問題です。クリハラリス(タイワンリス)は、元々日本国内に生息していた動物ではなく、ペットや動物園での飼育のために輸入されていた個体が逃げ出して野生化し、各地で大きな問題を引き起こしています。特に分布域が最も広い神奈川県内においては、分布拡大を抑え封じ込めを行うことが喫緊の課題となっています。そこで、研究者だけではなく行政関係者、学校、NPOなどのメンバーが集まって、広く市民からもクリハラリスの生息情報を収集・共有化し、効果的な捕獲対策につなげるため、「クリハラリス情報ネット」を組織化しました。現在、クリハラリスの分布の最新情報を集めています。クリハラリスを見た、声を聞いたといった情報をぜひお寄せください。
都市に近接する森林は、人間生活の影響を受けながら奥山とは異なる独特の生物相を維持してきました。都市域に残された森林がもつ生物保全の場としての機能を明らかにするために、都市域に生息する昆虫が生息環境の変化にともなってどのように変わってきているかについて、調査を続けています。
森林と共存した持続可能な社会の実現に貢献する人材育成を目指し、学校などが森林環境教育に取り組むための学習プログラムや教材の開発、林業分野を支える人材を育成するための教育方法の開発など、森林科学における諸分野の研究成果を活用する方策の研究を行っています。
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