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園内には野生のヤマグワがたくさんありますが,若い枝や葉に白い糸のようなものが着いているのを見かけます(右写真)。カビのようでもありますが,触ると動くこともあります。動くものは,よく見ると虫から生えていることがわかります。この虫の名前はクワキジラミ(Anomoneura mori;カメムシ目キジラミ科)といいます。クワの害虫として知られ,葉が奇形になったり(蚕の)餌としての質を低下させますが,ヤマグワにとっては致命的ではありません。
この糸状の物質は虫が作り出した蝋(ロウ)で出来ていて,自分自身の体と周囲にこの糸を着けて,どこが虫体だかわからなくして身を守っています。糸で身を隠すのは幼虫(左写真)で,成虫(右写真)になると糸は出さず,その代わり翅をもっているので飛ぶことが出来ます。
クワキジラミは,セミと同様ストロー状の口で木の汁(師管液)を吸って餌にします。栄養の薄い師管液から必要量のアミノ酸を確保するため,大量の師管液を吸飲しなければなりませんが,すると糖分は過剰になってしまいます。そこで余った糖分をロウに作り替えて,身を隠す材料として利用しているのです。(し)
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