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アカボシゴマダラは、日本では奄美諸島だけにすむ憧れの珍種だった。ところが1995年には埼玉県で、98年以降神奈川県で奄美の亜種(固有亜種)とは異なる特徴を持った、中国大陸亜種が採集されている。95年に埼玉県で発生したものは間もなく消滅したが、神奈川県で発見されたものはその後分布を拡大し、2010年までに東京都や埼玉県の平野部を手中にし、最先端は千葉県、山梨県や北関東の一部にまで達している。飛び離れて西日本でも確認されている。
関東に中国大陸亜種が飛来することは考えられず、意図的な放チョウまたは飼育個体の逃げ出しがきっかけであることは疑いない。西日本の記録は、二次的な放チョウや交通機関への便乗などが疑われる。
同じ食樹を利用するオオムラサキやゴマダラチョウに対する影響が懸念されているが、もし再び人為が働いて関東で発生しているものが奄美に放たれたら、両亜種が交雑してしまう可能性が高い。
昆虫の亜種は、地理的に隔離され長い年月を経て分化した集団である。ヒトは、生物が歩んできた歴史を簡単に壊すことができる。しかし、それは許されてはならない行為だ。人為的な外来種を、もうこれ以上増やしてはならない。奄美亜種は、レッドデータリストで準絶滅危惧にランクされている。科学園記録種。(た)
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