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更新日:2022年7月1日
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育種場では、成長が良かったり、花粉が少なかったり、病虫害に強かったりなどといった社会の要請に応じた樹木を開発していて、そのための様々な試験研究をしています。 しかし、これだけで終わらないのが育種場。ここで開発した品種を生産の現場へ繋げるところまでやります。それが今回、6回目のテーマ「原種の配布」です。スギのお話です。
林業用の苗木について、育種場が品種を改良し、これを県が採種園(種子生産のために作られた圃場)に植えて種子生産を行い、この種子で民間の苗畑業者が苗木を育てて います、と、“はじまりは「たね」でした”の回で話しました。 この採種園ですが、求められる優れた品種が開発されたら、それを沢山植えて種子を生産すればいいん だ、と思いますよね?・・・でも、話はそんな単純ではないんです。 採種園には、様々な系統の苗木を植える必要があるのです(※1)。 このため育種場では、同じ目的の品種で も、多くの系統を開発しています。そして、新たに開発した系統は全て育種場内に植えてあります。原種園といいます【写真1】。原種園では全ての木に対してタイピング(DNA 鑑定)をしていて、一本一本の身元調査(両親の判定)が終わっています。
県は、地域の実情、どのような森を作っていきたいのかを考え(例えば「成長が良い」とか「積雪に強い」など)、採種園の造成・改良計画を作ります。これに従い育種場は系統ごとに必要な本数の原種(穂木)を配布するのです(東北各県は穂木での配布の要望が多く、県ではこれをさし木して苗木を育成し、採種園に植栽しています)【写真2】。
東北育種場が担当する6県(青森県、岩手県、宮城県、秋田県、山形県、新潟県)の要望を取りまとめると、令和4年の春は、およそ100系統、4,000本程度の穂木を原種園から採取し【写真3】、各県に配布しました(毎年大体このぐらいかな)。この過程で系統が混ざらないよう慎重に管理しなければなりません(ここで間違えたら、元も子もない)。
大事なことは“トレーサビリティ”
育種場では採取する親木の情報をきちんと穂木に紐付けし、間違いのない原種を県に配布し、県は採種園設計図(※2)に従い植栽する、これにより地域の実情に合った採種園ができるのです。育種場での採穂から配布までの系統管理、今まで全て手作業(紙と鉛筆)で行っていたのですが、作業の効率化とヒューマンエラーをなくすため、【写真4~8】のようにデジタル化を進めています。はじめは取っつき難いが、慣れればこれがなかなかの優れもの。まだ改良の余地はあるようですが期待大の相棒です! トレーサビリティのデジタル化は、林木育種センター全体の重要なテーマ。全国で取り組んでいます。(※3)
開発した原種を正確に配布する、原種配布は春の大きな仕事です。
そーなんです、育種場は「研究開発の成果を社会に繋げる!」ことも大事な使命のひとつ、一味違う機関なのです。
※1:例えば、「成長が良い」という特徴を持ったスギAという品種を開発。だからといってスギAだけで採種園を作れば良いわけではなく、スギAの親とは違う色々な親から「成長が良い」という特徴を持ったスギBやスギCや・・・を開発して、これら色々な系統を混ぜて採種園を作らなければなりません。これは近親交配により繁殖力や成長度合などが低下すること(近交弱勢)を避ける必要があるためなのです。遺伝的な多様性を保った採種園です。
※2:採種園の中で、どのようにスギA、スギB、スギC・・・を植えるのか(配置)、これも注意が必要で、同じ系統のものが隣り合わずに、様々な組み合わせになるようしなければなりません。このためには、少なくとも9系統、できれば25系統以上の、例えば「成長が良い」という苗木が必要となります。
※3:林木育種事業は、気候や樹種の分布等を基に全国を5つに区分した基本単位である育種基本区を、林木育種センター本所と4つの育種場が分担して実施しています。このうち東北育種場は東北育種基本区(青森県、岩手県、宮城県、秋田県、山形県、新潟県)を担当。
【写真1】スギ原種園 |
【写真2】穂木(荒穂) |
【写真3】採穂の様子 |
【写真4】QRコード |
【写真5】系統毎に一袋 |
【写真6】タグ付き荒穂 |
【写真7】分配作業 |
【写真8】QRコードで再確認 |
【写真9】梱包 |
【おまけ】花粉症の人にはdangerous! |
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