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更新日:2012年8月24日

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猿ヶ森ヒバ埋没林の形成における人為的影響

研究問題名: X.多雪・寒冷地帯の森林保全技術及び林業経営技術の体系化

東北支所 土壌研究室 岡本 透・池田 重人・相澤 州平

背景と目的

本州北東部の太平洋側には冷温帯二次林が広範囲に広がっている。これらの二次林の成立には,過去の土地利用をはじめとする人為撹乱が強く影響していると考えられる。過去数百年における土地利用形態は,古記録などにより推定することが可能である。しかし,さらに長期間にわたる過去の土地利用形態を復元するには,土壌の年代測定を含む土壌分析が必要とされる。本課題では,東北地方北部の二次林下で土壌調査を行い,その土壌特性と生成過程,植生との関係を把握し,森林の動態と人為撹乱との関係を明らかにした。

成果

下北半島北東部の青森県下北郡東通村には,砂丘砂や泥土に覆われたヒバ(ヒノキアスナロ)の埋没林が各所に認められる(図1,写真1)。人為撹乱がその成立にどのように関わっているかを明らかにするため,砂丘砂中に認められた過去の地表面を示す埋没腐植層の年代測定と考古遺跡の分布調査を行った。14C年代測定と白頭山苫小牧火山灰(約千年前に噴出した)から得られた埋没腐植層の年代から,調査地域に分布する砂丘の形成期が,約5000年前以降,約2500年前以降,約1000年前以降,約600年前以降,約100年前以降の5回あったことが明らかとなった。一方,埋没林の形成期は,約2600〜2000年前,約1000〜850年前,約500年前,および現代の4回である。このように,砂丘の形成期の年代とヒバ埋没林の年代とがほぼ一致するため,ヒバ埋没林は砂丘砂の移動によって形成されたと推定された。約2600〜2000年前のヒバ埋没林は,その年代と分布から約3000〜2000年前の海面変動にともなう砂丘砂の移動によって形成されたと推定された。一方,約1000年前以降では,調査地域周辺には約700〜500年前の年代を示す製鉄遺跡が数多く分布し,江戸時代後半にも南部藩などによって製鉄が試みられている(図2)。このため,砂鉄を採取するための砂丘の掘り崩しや,製鉄用の木炭を得るための沿岸部における森林伐採といった人為撹乱によって,砂丘砂の移動が生じたと推定した。これらの砂丘砂の移動により,約1000〜850年前,約500年前,現代の年代を示すヒバ埋没林がそれぞれ形成された。以上の結果から,この地域では,製鉄活動など人為撹乱が活発になることで植生が破壊され,砂丘砂の移動が起こって集落は衰退し,その後,植生がある程度回復すると,再び人為撹乱が活発になる,というサイクルが繰り返されてきたと推定した。

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写真1 猿ヶ森ヒバ埋没林

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図1 調査地点の位置図

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図2 調査地点で得られた約1000年前以降の14C年代値
(注:影の部分は14C年代から推定される埋没林の形成期を示す)
●:埋没泥炭・埋没腐植層,▼:ヒバ・アカマツ埋没木,■:考古遺跡から出土した炭・骨

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