今月の自然探訪
更新日:2023年12月1日
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日本列島には活発な活動をする火山が数多く分布しています。平穏な火山は私たちにとって観光資源として身近な存在ですが、ひとたび大規模な火山噴火が発生すると火山周辺では爆風や火砕流、巨石から火山灰など様々な噴出物により、人的な被害や生活インフラ、農業等への被害など大きな災害となります。特に火口周辺の森林は土砂に埋もれる等して多くが枯損して広大な荒廃地が生じます。
火山噴火による災害の特徴として、噴火が直接に及ぼす被害だけでなく、噴火で荒廃した斜面では土壌浸食や土石流等の土砂災害が頻繁に発生します。特に細粒の火山灰が大量に積もった荒廃地では、雨は地中にあまり浸透せずに地表を流れ下ります(写真1)。地中に比べ地表を流れる水は速度が速く短時間で河川に水が集中し、洪水流出となります。同時に地表を流れる水は、緩く積もった火山灰など地表の土砂を盛んに浸食して流すため、河川に集まる土砂の量も急速に増加します。その結果、森林が消失した荒廃斜面では大量の水と土砂が混じって土石流が発生し易くなり、少しの雨であっても簡単に繰り返し発生して、それは噴火活動が落ち着いた後でも長く続きます。
荒廃した斜面の土砂災害を軽減するには、荒廃斜面を植生で被覆することが効果的です。噴火活動中ではなかなか難しいですが、ある程度火山活動が落ち着くと、荒廃地にも植生が侵入し始めます。植生が荒廃地を被覆すると、地中に雨が良く浸透し地表の水流が減少すると共に、土砂を植物の被覆で押さえるため浸食される土砂も減少します。これらのため、植生の回復は土石流の減少に効果的です。しかしながら一般に火山噴出物は植物にとっての栄養が貧弱で、また植物の種子などは多くが遠方の森林から来るため、火山荒廃地の植生回復には時間が必要です。このため被害軽減対策として人為的に植生の回復を進める緑化が行われます。広大な火山荒廃地の緑化ではヘリコプターなど空中から種子や肥料を散布することなども行われます。特に近年では外来種の扱いなど遺伝資源を考慮して慎重に行う緑化など工夫もされています。
緑化も植生回復には有効ですが、自然界にはこうした荒廃地を好む植物もあります。九州の火山地域で見られるミヤマキリシマもその1つです。例えば2014年に噴火した鹿児島県と宮崎県の県境付近に位置する新燃岳の周辺では、噴火により火山灰が堆積し多くの植物が枯損しましたが、ミヤマキリシマはその中でもいち早く葉をつけて花を咲かせていました(写真2)。ミヤマキリシマは他の高木などが侵入してくるとなかなか成長出来ませんが、噴火後の荒廃した斜面ではいち早く回復し、その結果として土砂災害の軽減にも寄与します。
きれいな花を咲かせるミヤマキリシマの群生地を見ることがあれば、そこに至るまでの火山活動といった、ダイナミックな地球の活動にも思いをはせるとまた違った趣を感じられるかもしれません。
(森林防災研究領域 浅野 志穂)
写真1:火山灰が堆積した斜面では雨が染み込まずに地上を流れている
写真2:火山灰が堆積した荒廃地の中でもいち早く花を咲かせたミヤマキリシマ
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