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更新日:2018年3月30日

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今月の自然探訪

森香る春

長く厳しい冬の寒さの終わりと共に、森の中には温かな日差しが戻ってきます。薫風という言葉もありますが、実際に空気の温もりに誘われるように、森の中には様々な春の香りが漂い始めます。熱帯植物の温室の中のような香りのイソプレン、レモンのような柑橘系の香りのリモネン、松ヤニのように針葉樹らしい香りのα-ピネン等、様々な香りが森の中にあります。これらの森の香りはフィトンチッドとも総称され、古くから森林浴を通じて多くの人々に親しまれています。

近年、この森の香りは地球環境にも大きく関わる重要な物質としても注目されつつあります。森の香りの多くは酸化されやすい物質で、日中の大気中だと短いものは数分から数十分で酸化物となります。これらの酸化物は微粒子となり、その一部が雲の凝結核として雲を増やし、雨を降らせ、地球温暖化に対しては日傘のような冷却効果をもたらすと考えられています。また、これらの森の香り起源の微粒子は太陽の光を散乱させ、直射日光が届きにくい森の下層の葉にも散乱した光を多く当てるようにすることで、森は自らの光合成量(CO2吸収量)も高めているのではないかと考えられています。森の香りは、私達の体だけでなく地球の健康も支える重要な物質という観点から、様々な研究が進められているところです。

花と同様、森の葉にも強い香りのあるもの、あまり無いものがあります。針葉樹の多くは針葉の内部に樹脂の通り道があり、ここに貯まった香り成分が気孔を通じて放出されるため、針葉樹らしい香りを放出します。一般に針葉の香りの放出量は、気温の上昇に伴って指数関数的に増加することから、盛夏(7~8月)がそのピークとなります。しかし、北海道から沖縄県までの全国6か所の森林内タワーで概ね毎月行っている森の香りの定期観測の結果によると、そのうち3か所の森林(写真1、写真2、写真3)ではなぜか4~5月にも香り成分の濃度が上昇しており、現在、この原因究明を進めています。

あるアカマツ林では、4月の地表面に強い香りの放出源が点在したことが確認されています。春の森の中には、針葉以外にも地表、樹幹、生殖器官(花)等のどこかに一時的に森の香りを高めている強い放出源が存在している可能性が考えられます。春の森の香りの放出源の探索は、森の香りの年間放出量を高精度に推定する上で重要な研究テーマとなっています。

(森林防災研究領域 深山 貴文)

写真1: 4月の富士吉田森林気象試験地のアカマツ林(山梨県)
写真1: 4月の富士吉田森林気象試験地のアカマツ林(山梨県)

 

写真2: 5月の鹿北流域試験地のスギ・ヒノキ林(熊本県)
写真2: 5月の鹿北流域試験地のスギ・ヒノキ林(熊本県)

写真3: 5月の山城水文試験地のコナラ・アカマツ林(京都府)
写真3: 5月の山城水文試験地のコナラ・アカマツ林(京都府)

 

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