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更新日:2017年12月28日

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今月の自然探訪

冬の厳しい環境に耐える常緑針葉樹

日本の亜高山帯や高山帯には、広葉樹よりも寒さに強い、シラビソやオオシラビソ(亜高山帯)、ハイマツ(高山帯)といった、常緑針葉樹が分布しています。亜高山帯や高山帯は、年間を通して低地よりも気温が低いため、冬が来るのが早く、春の雪解けも遅いです。そのため、そこに生育する樹木にとっては、旺盛に成長できる期間が低地の樹木よりもとても短くなっています。たとえば、亜高山帯に属する長野県の縞枯山では、そこに生育するシラビソやオオシラビソが芽吹くのは、ようやく温かくなってきた7月に入ってからです。

落葉樹と異なり、常緑樹は枝に葉を着けたまま越冬します。亜高山帯や高山帯では、冬の環境がとても厳しく、ここに生育する常緑針葉樹は、冬に北からの季節風による強い風雪や低温(−20℃を下回る)にさらされます。例えば縞枯山では、冬に入ると少しずつ木に雪が積もっていき、冬の真っ只中になると木全体がすっかり雪に覆われます(写真1の左と中)。雪に埋もれることで、枝葉は強い風雪や低温をしのぐことができます(雪の中は意外に暖かいのです)。春が近づくと、木に積もった雪が少しずつ溶け、枝から落ちていきます(写真1の右)。

春といっても縞枯山ではまだまだ寒い日が続きます。春、日射により日中は気温が高まり、凍っていた枝葉が溶けますが、夜になると気温はまた氷点下に戻ります。つまり、1日のうちで、枝葉が溶けたり凍ったりを繰り返しています。私達の日常で、水が凍ると小さな気泡がたくさん出てきて、氷が白く見えることがありますよね。それと同じで、枝葉の中の水が通る管(仮道管)が凍るとき、その中の水から気泡が出てきます。一部の針葉樹では、春先の気温変化によって枝葉が凍ったり溶けたりを繰り返しているうちに、仮道管の中の気泡がどんどん拡大し、仮道管を塞いで水が通らなくなってしまうことがあります(写真2)。春先に、針葉樹は北風(寒さ)と太陽(暖かさ)のダブルパンチを受けているわけです。

しかし最近の研究から、これらの一部の針葉樹では、春先にいったん枝葉の中の仮道管が気泡で詰まっても、7月の芽吹きの時期までにその仮道管に再び水が入ってくることで詰まりが解消されることがわかってきました。短い夏の間に成長するために、冬のストレスの履歴を残さないこのしくみは、常緑針葉樹が冬の環境が厳しい亜高山帯や高山帯で生育するために身につけた知恵(機能)なのでしょう。

(植物生態研究領域 小笠 真由美)

写真1:縞枯山のシラビソ・オオシラビソ林
写真1:縞枯山のシラビソ・オオシラビソ林。

 

写真2:シラビソの枝の横断面
写真2:シラビソの枝の横断面。この枝では大半の仮道管は水で満たされていますが、矢印で示すように、ところどころ、中が空っぽになっている仮道管が見られます。

 

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