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更新日:2023年6月1日

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今月の自然探訪

オオメシマコブの絶滅危機

オオメシマコブは「サルノコシカケ」と俗称されるような、木にはえる硬質きのこの一種です。長い間、このきのこは熱帯地方を中心に広く分布し、国内では小笠原諸島と高知県に離れて分布するものと考えられていました。ところが、DNAや形態的な特徴などを詳しく比較した結果、小笠原諸島と高知県に分布するものは別の種類であること、さらにこれらは海外に分布する種類とも異なり、共にまだ学名のない新種であることがわかりました。従来「オオメシマコブ」と呼ばれていたきのこには2種類が含まれていたことになりますが、この名前は小笠原に分布するものに対して付けられたものですので、小笠原産のものが狭義のオオメシマコブということになります(写真1)。

オオメシマコブは世界中で小笠原諸島にしか分布していないきのこです。さらに、このきのこはオガサワラグワという樹にしか生えないことが知られています。オガサワラグワは小笠原諸島だけに天然分布する樹木の一種で、元々は島内の湿潤な地域では広く分布していたようです。ところが、オガサワラグワの材は建材や家具などとして重用されたことから、明治期以降大量に伐採されてしまいました。さらに薪として用いるために、本来小笠原諸島には分布していなかったアカギという樹が沖縄から持ち込まれました。繁殖力の強いアカギは、小笠原諸島のあちらこちらで爆発的に増えてしまいました。こうした地域では、オガサワラグワをはじめとした原生の樹の多くは、アカギに追いやられて、あまり見られなくなってしまいました(写真2)。こうしたことから、オガサワラグワは絶滅の危険性が高い絶滅危惧種に指定されています。

オオメシマコブは、オガサワラグワの生きた大木に寄生して、幹の中心付近(心材と呼ばれている部分)を腐らせますが、このことが原因でその樹が枯れたり弱ったりすることはありません。ただし、何十年という年月を経て広い範囲の心材部分が腐った老齢木は、強風などで倒れたり折れたりすることがあります。老齢木が倒れると林内には光の届く範囲が生まれ、そこでは新たな世代の樹木の成長を促します。

最近では、オオメシマコブの子実体はなかなか見つかりません。見つかる子実体の多くは、数十年前に伐採されたオガサワラグワの大きな切株に発生しています。こうした切株は決まって心材部分が腐って空洞になっています(写真3)。これは、樹が伐採されるまで心材を腐らせていたオオメシマコブが、伐採の後も切株の中で数十年間に渡り生きながらえてきたことがうかがわれます。これらの切株はいずれ完全に腐ってなくなってしまうでしょう。オガサワラグワの大木が数少なくなった今、オオメシマコブも絶滅の危機に瀕しています。

(研究ディレクター 服部 力)

写真1 オガサワラグワの枯木に生えたオオメシマコブ
写真1 オガサワラグワの枯木に生えたオオメシマコブ

写真2 見渡す限りの高木がほとんどアカギになってしまった林
写真2 見渡す限りの高木がほとんどアカギになってしまった林(小笠原諸島母島)

写真3 オガサワラグワの古い切株。
写真3 オガサワラグワの古い切株。中央部が腐って空洞になっている。

 

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