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更新日:2019年5月7日

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今月の自然探訪

宝川森林理水試験地、雪溶けの季節

2019年(平成31年)3月下旬の夕刻、5人の研究者を乗せた車が、つくばから圏央道、関越道を経て、水上インターを下り、さらに北東へと進んでいきます。行く先には秘湯で名高い ―矛盾した言い回しですが― 宝川温泉があります。温泉宿の建屋から向こうには舗装道はなく、まさに隠れ家の雰囲気です。しかし、我々の目的地はここではありません、「宝川森林理水試験地」です。この日は温泉宿の手前にあるリーズナブルな民宿に泊まって、翌日の観測作業に備えます。

冬から春にかけて「宝川森林理水試験地」に行くには、川沿いの林道を少なくとも1時間、前日に降雪があって大ラッセルになってしまうと3、4時間も歩かなくてはなりません。準備万端、しっかりと鋭気を養って、民宿を出発します。

「宝川森林理水試験地」は、首都圏の水がめである利根川の源流域の試験地として、1937年(昭和12年)から、降水量と森林から流れ出る水量を測定し続けています(http://www2.ffpri.affrc.go.jp/labs/fwdb/sites/takaragawa.htm)。“平成”を経て“令和”の御代になっても、測定を絶やすわけにはいきません。めいめいリュックに観測のための道具を詰めて、歩を進めます。使命感が、決して若いとはいえない我々の足を動かします。

行程の3分の1ほどのところ、雪が林道を斜めに大きく覆っていました。スノーシューの金属刃をきかせながら、ストックをしっかりついて慎重に切り抜けます。例年に比べてかなりの暖冬・少雪年だったとはいえ、上越の山沿いは甘くありません。

とはいえ、もうすぐ春です。雪溶け水が集まって、川になって、長靴を濡らして流れていきます(写真1)。頭の中では、「春一番」※1と「おお牧場はみどり」※2が交互に流れます。流れ込む先の宝川では集まった雪溶け水がごうごうと音を立てて流れ、怖いくらいです。3分の2ほど歩いたところにあるトンネルの中の氷筍は、既に小さくなっていました(写真2)。

さらに川沿いを歩いていくと、ひときわ丸い、フォトジェニックな巨岩が川の中に現れます(写真3)。2月には雪がキノコの傘のように岩にかぶっていましたが、この日は白いベレー帽になっており、ここにも春が見え隠れしています。こっそり「玉子岩」と呼んでいたこの岩は、実は「地球岩」としてGoogleでも検索できることを、今回同行者から教わりました。玉子と地球ではかなり違いますが、コロンブスあたりに接点があるかも…と思ったりします。

この日は、雪に足を取られることも少なく、かなり順調に試験地に着きました。2月よりも、初沢(しょざわ:流域面積117.9ha)の堰堤から流れ出る水は多く、本流(1905.7ha)の水路の流れも速いです:上記リンクにもこの季節の写真があります。皆、最小限の言葉とアイコンタクトで持ち場を確認し、ある者は水位を、ある者は積雪深を、またある者は気温を測り、記録データを回収していきます。ちなみにこの日の昼前に、気象観測露場※3で測定した気温は3.6℃、積雪深は4回測定の平均値で101.5cmでした。気がつくと花びらではなく雪が舞っており、露場に設置した雨量計の降雪測定用アダプター(写真4)は、もう少し外さないで様子をみることにしました。

やはり「山の春はまだ浅い」と実感しながらの観測作業になりました。

(森林防災研究領域 清水 貴範)


※1 作詞・作曲:穂口雄右、歌唱:キャンディーズ

※2 チェコ民謡、日本語作詞:中田羽後

※3 降雨量、温度・湿度、日射量などを測定するための開けた場所

写真1:林道の脇から流れ来る雪溶け水
写真1:林道の脇から流れ来る雪溶け水

写真2:溶けて小さくなったトンネル内の氷筍
写真2:溶けて小さくなったトンネル内の氷筍(右は接写:澤野真治氏提供)

写真3:平成31年3月下旬の「地球岩」
写真3:平成31年3月下旬の「地球岩」(右上は同年2月上旬の様子)

写真4:降雪測定用アダプターが付いた雨量計
写真4:降雪測定用アダプター(=黒い筒)が付いた雨量計
アダプターの内部には雪を溶かすための不凍液が充填されている

 

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