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更新日:2023年1月4日

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今月の自然探訪

ドイツの「自然に近い森林業」 ~エコロジーとエコノミーの着地点~

森林(もり)づくりは「百年の計」と言われるように、100年先の森林の姿を見据えることが必要です。しかし、100年先の社会、そこで求められる森林の姿やその利用方法を予測することは簡単ではありません。とはいえ、この社会を持続させるためには、未来においても森林とそこから提供される様々なサービスは必要だと考えられます。

林学の発祥の地であるドイツでは針葉樹を植えて収穫する林業がいち早く行われ、ドイツ林学とともに針葉樹林業は世界中に広まりました。しかし、各地で針葉樹林業の見直しがすすんでいます。ドイツにおいても同様です。ドイツの森林を数十年前から振り返ると、災難続きでした。戦争による森林の荒廃、酸性雨による被害(1980年代)、頻発する風倒木被害(1990年代)、乾燥害とキクイムシ被害の拡大などこれまでにも度々災難にみまわれてきました。さらに今後も温暖化による森林へのストレスの高まりが危惧されています。このことは、森林が生育する間に様々な災難が起こりうり、森林には常に不確実性がつきまとうことを意味しています。

では、長期にわたる森林づくりをどうすればいいのでしょうか?その答えの1つが「自然に近い森林業」(注)です。その源流をたどるとアルフレッド・メーラーの「恒続林(こうぞくりん)」に行きつくのではないでしょうか。恒続林とは、森林を多様な生物からなる有機体と見なし、自然の道理に合わせた森林への働きかけを行いながら木材生産を目指すという林業のやり方です。モデルとなったのは中部ヨーロッパの択伐を主とした農家林経営だといわれています。メーラーは、こうした森林がもっとも健全でもっとも美しい森林で、もっとも良質な木材をもっとも多く供給するという言葉を残しています。同時にこのような森林を造るには手間がかかり、非常に難しいとも言っています。

自然に近い森林業が注目されはじめたのは、酸性雨が社会問題となり、風倒木被害が多発した1980年代から90年代にかけてでした。針葉樹によるモノカルチャー的な森林からかつてのドイツの森林の姿であった混交林へと回帰することが目指されました。具体的には皆伐(収穫の際に一度に森林を伐ってしまうこと)を避けて、伐採後は天然更新(自然の力による森林の再生)によること、化学物質を使用しないことなどです。これによってより多様性がある森林(混交林)をつくることを目指しています。さらに、様々な生き物にすみかを提供するビオトープとなる高齢樹、立ち枯れした木、倒木を森林にそのまま残すための努力も進められています。例えば、こうした措置によって減少した収入を補償するような助成策も試みられています。一見、無駄な木を残したり、収穫に年数がかかる広葉樹を増やしたりするやり方は経済的ではないように見えます。しかし、長い時間軸で見るとリスクを軽減し、想定外の出来事にも対応できる幅を広げ、結果的には経済的であるといえるのでしょう。

こうしたエコロジーとエコノミーとの折り合いをつける森づくりの考えは、持続的な社会をつくるための教訓にもなりうると思います。

(林業経営・政策研究領域 堀 靖人)

注:「自然に近い森林業」
原語では、Naturnahe Waldwirtschaftです。もともとは天然更新と適地適木を重視した「自然に近い造林(Naturnaher Waldbau)」という考え方が始まりです。その後、皆伐の回避を加えた「自然に近い林業(Naturnahe Forstwirtschaft)」が提唱されました。ドイツ語のForstとWaldは、英語のForestとWoodlandに対応すると思われます。イメージとしては混交林のようなより自然な森林をWaldと呼んでいるようです。したがって、自然に近いのはWaldであり、自然に近い森林業となったと考えられます。ちなみに、ドイツ語で森林所有者はWaldbesitzerであり、Forstbesitzerではありません。森林所有者の大部分が農家であり、農家の森林は択伐が繰り返されてきた結果、多様な樹種からなる森林となっていたことがその理由ではないかと考えられます。
 

写真1:風倒木被害(2000年)の跡地
風倒木被害(2000年)の跡地、ドイツ、バーデン・ヴュルテンベルク州
2002年7月撮影

写真2:森林内に意図的に残された枯死木
森林内に意図的に残された枯死木、ドイツ、バイエルン州
2022年10月撮影

写真3:森林内に意図的に残された倒木
森林内に意図的に残された倒木、ドイツ、バイエルン州
2022年10月撮影

写真4:モミの天然下種更新
モミの天然下種更新、モミは郷土樹種であるため、広葉樹と同様に奨励されている
ドイツ、バイエルン州 2022年10月撮影

写真5:ブナの稚樹
ブナの稚樹、ドイツ、バーデン・ヴュルテンベルク州
2012年3月撮影

写真6:キクイムシ被害森林の皆伐跡地
キクイムシ被害森林の皆伐跡地、シダが繁茂して更新がむずかしくなっている
ドイツ、ザーランド州 2022年10月撮影

写真7:キクイムシの被害を受けているトウヒ
キクイムシの被害を受けているトウヒ、中央上の白い点2つはキクイムシ幼虫
ドイツ、ザーランド州 2022年10月撮影

 

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