今月の自然探訪

更新日:2024年5月1日

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今月の自然探訪

ロシア北東部のタイガ・ツンドラ生態系と大規模洪水

北極圏に位置するロシア連邦サハ共和国北東部のインディギルカ川流域のチョクルダフ村周辺(図1)には、タイガ林(亜寒帯に発達する針葉樹林)とツンドラ生態系(寒帯地域に広がる、コケや草、矮性のヤナギなど丈の低い植物が優占する生態系)の移行帯がひろがっています。そこは、ツンドラ生態系に近い景観を示しますが、窪地やより頻繁に攪乱される場所にカンバ、ヤナギ、ハンノキなどの低木が混ざり、さらには、高木であるカラマツが比較的高い地形の場所にわずかに生育しています(写真1)。

チョクルダフ村周辺は、標高が低く、北極海の河口からほとんど高低差がありません。そのため、洪水時に河川から水が氾濫する低地帯です。2017年の春から夏にかけて、チョクルダフ村周辺で大規模洪水が発生し、流域の多くの場所で植生が水没しました(写真2)。

2017年の夏、筆者は現地調査のためにチョクルダフ村を訪れていました。滞在していた村の宿舎から観測サイトまで、河川をボートで移動するのですが(写真3)、観測サイトが水没しており、見つけるのに大変苦労した記憶があります。観測サイトに設置していた「CO2フラックス観測タワー」と、それに電力を供給する「風力発電機」の上部が、かろうじて水面の上に出ていたため、幸いにも何とか観測サイトを発見することができました(写真4)。

大規模洪水の翌年2018年には、チョクルダフ村周辺の至る所で枯死した樹木(本流域の優占樹種であるカラマツ)や洪水で運ばれた泥によりダメージを受けた下層植生(ブルーベリー類やチョウノスケソウなど)が観測されました。

2017年の大規模洪水は当地の社会にも甚大な被害を及ぼしました。現地の漁師・住民の方々の話では2017年は河川漁業が不漁だったようです。また、大規模洪水そのものの影響ではありませんが、その要因となった前年冬季の豪雪により、近隣の空港において航空機の離着陸障害が頻繁に起きたようです。チョクルダフ村とサハ共和国の首都であるヤクーツクを結ぶ飛行機に障害が起きたことで、人々や物資の移動が制限され、街の商店においては野菜や果物の食料品が品薄になりました。ロシア北東部の環境とそこで生活する人々の暮らしは、地球温暖化や極端な気象現象の規模と頻度の増加により、近年大きく変わりつつあるように思われます。

 

(北海道支所 鄭 峻介)

 

図1:インディギルカ川流域とチョクルダフ村
図1:インディギルカ川流域とチョクルダフ村
【右図:Tei et al (2019)を改変】

写真1:チョクルダフ村周辺の観測サイト
写真1:チョクルダフ村周辺の観測サイト
(撮影 新宮原 諒 名古屋大学 現在:農研機構)

写真2:大規模洪水により植生が水没している様子
写真2:大規模洪水により植生が水没している様子

写真3:移動中のボートから撮影したチョクルダ村の街並み
写真3:移動中のボートから撮影したチョクルダ村の街並み

写真4:水没により発見が困難であった観測サイト
写真4:水没により発見が困難であった観測サイト。
写真中央部に「CO2フラックス観測タワー」とそれに電力を供給する
「風力発電機」の上部がかろうじて確認できる。

 

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