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更新日:2023年4月13日

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日本木材学会ダイバーシティ推進委員会シンポジウム参加報告

テーマ「ポストコロナを踏まえた教育・研究におけるダイバーシティの取り組み」に参加して

  • 日時:2023年3月24日(金曜日)
             13時30分~15時30分
  • オンライン開催(Zoomウェビナー)
  • 主催:日本木材学会ダイバーシティ推進委員会
  • 後援:(一社)男女共同参画学協会連絡会
  • 参加者:木材改質研究領域
    (ダイバーシティ推進室併任)神原広平氏

日本木材学会ダイバーシティ推進委員会公開シンポジウム
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令和5年3月24日(金曜日)13時30分~15時00分の日程で日本木材学会ダイバーシティ推進委員会のシンポジウムがZoomによるオンライン形式で開催されました。今回は「ポストコロナを踏まえた教育・研究におけるダイバーシティの取り組み」をテーマに、東京大学先端科学技術研究センターの並木重宏氏、森林研究・整備機構森林総合研究所木材改質研究領域の前田啓氏、広島大学大学院人間社会科学研究科の木村彰孝氏の御三方が講師に招かれました。以下、簡単にご講演の概要と私の感想を紹介したいと思います。

「科学の多様性を支えるしくみについて」並木 氏

並木氏はかつて生物学の研究者をされていましたが、ご病気で車椅子生活になったことをきっかけに、現在はSTEM(Science, Technology, Engineering, Mathematics)分野における研究環境のバリアフリー化という研究に取り組まれています。STEM分野に障害をもつ学生が少ない一因として実験室が使いにくいというところがあるそうです。ご発表ではご自身で研究室内を車いすで移動する動画を示されていましたが、いわゆる実験室と呼ばれる環境がいかに健常者目線で構成されているか伝わってきました。並木氏はVRを用いてバリアフリー実験室の理想環境を繰り返し構築することで、高さが変化し蛇口に手が届く流し台や、どこからでも膝下が入る円形の実験台等を実際に作製されていました。
並木氏はこれらバリアフリー化の研究と同時にマイノリティの参加支援にも取り組まれていました。多様性は集団のパフォーマンスを高めるので、科学の発展には必要不可欠ですがまだまだ不足しているそうです。私たちが普段何気なく使っている、字幕、曲がるストロー、ウォッシュレットなどが、障害者向けに開発されたツールであり、それが今や社会全体に広がったものと知ると、多様性をもって研究開発に取り組むことの大きなメリットが窺えます。ご講演ではマイノリティの参加が阻害される一因としてアンコンシャスバイアスの存在についても解説されたのですが、その中にとても印象的な海外での研究例がありました。それは、履歴書に基づいてある人物を評価した際に、その人物が男性名であるか女性名であるかで格差が生じたというものでした。自分自身で公平性をもっていると思っていても、無意識にそのような結果を生み出しているとしたら、教育の大切さを考えさせられるとともに、研修等に繰り返し参加することで無意識下の考え方を醸成していく必要があると感じました。

「大学で実施したオンライン実験の紹介」前田 氏

前田氏は東京大学農学部在職時に新型コロナ感染症感染対策の渦中で編み出した学生実験をご紹介くださいました。大学での対面授業・実習の禁止、七都府県への緊急事態宣言発出に伴う教職員・学生の登校禁止のなか、木材物理の実験は自宅でできる?という視点に立ち、一般家庭で安全に使用可能な材料での学生実験を計画・実行されました。
まず学生に送付する試験体は、できる限り多くの樹種の木材小片を前田氏が居住する市内もしくは通信販売で調達しカッターナイフや手鋸で自ら加工、温湿度を測定したご自宅で重量測定することで準備されたそうです。受講学生数分の試験体とノギス等の器具を学生宅に送付し実施したオンライン学生実験では、常時は乾燥器を用いて収縮率を測定するところを水に含侵した膨潤率に、常時は万力を用いて圧縮たわみを測定するところを輪ゴムでの曲げたわみに、常時は熱物性を測定し温冷感を調べるところを2枚の板に交互に触れる一対比較実験に、といったように安全な方法に代替することで、受講学生に木材物理に触れてもらったということでした。前田氏は、非常時であったが受講学生・TA(ティーチングアシスタント)・教員という多様性でサポートしあいみんなで作り上げた学生実験と振り返っておられましたが、制限される行動の中でできる限り学生に寄り添った教育に取り組まれたのだと感じました。

「多様性とコロナ禍の研究、講義や実験等について」木村氏

木村氏は中学校技術の教員養成課程に携わる立場から、コロナ禍で改善・工夫した点やコロナ後の活用についてご紹介くださいました。
コロナ禍で改善・工夫した点として、中学校技術の教科書に掲載される材料の調達にはじまり、安価なマイクロスコープでの木材組織の観察、市販の瞬間冷却材を用いた木材と他材での熱伝導の理解など、オンラインを通じて各自が実施可能な体制を整備されたそうです。また、PBL(Project-Based-Learning)学習や反転学習、e-learning等の学習方法を導入されたということでした。オンラインでの実施を余儀なくされた講義等は徐々に緩和され、現在は原則対面ということでしたが、複数キャンパスにまたがる講義等はオンラインが継続されているそうです。このようなポストコロナにおけるオンライン授業の在り方として、木村氏は、オンラインの方が高い教育効果を望めると判断される授業、悪天候等で通学が危険・困難な事態や災害の発生時、配慮や支援が必要な学生への対応、などで活用したいという考えを示されました。とくに3点目については、教育現場で先生を対象に実施されているアンケートで、学習面又は行動面で著しい困難のある学生が増加している結果を解説されました。
GIGAスクール構想に伴って小中学生一人一人にPC環境が整備されることで、講義方法を柔軟に変更できオンデマンド配信等も可能になることは、学生の欠席時対応や復習素材としてのメリットだけでなく、教員の働き方にも寄与するということも述べられていました。一方で、教育の質の保証という点では不安があり、とくに教員養成という立場にある大学教育においては対面でしか理解できないこともあるので様々な手法を模索しながら進めたいと締めくくられました。普段うかがい知る機会のない教育現場におけるダイバーシティの在り方は非常に興味深く、それぞれの環境で多様な視点にたった対応が必要なのだと感じました。

木材改質研究領域 (ダイバーシティ推進室併任)神原広平

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