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更新日:2023年9月22日

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理化学研究所2023年度ダイバーシティセミナー参加報告

テーマ「当事者研究から見たDEI」に参加して

  • 日時:2023年9月6日(水曜日)
     9時30分~11時
  • オンライン開催
    (Zoom Webinar)
  • 講師:熊谷晋一郎先生
    東京大学先端科学技術研究センター准教授バリアフリー支援室長
  • 主催:理化学研究所 ダイバーシティ推進室
  • 共催:理化学研究所 ダイバーシティ推進室・脳神経科学研究センター
  • 参加者:森林防災研究領域 
    (ダイバーシティ推進室併任)鈴木拓郎 氏

230906理化学研究所ダイバーシティセミナー230906riken_diversity_seminar(PDF:1,023KB)

理化学研究所の2023年ダイバーシティセミナーとして,東京大学の熊谷晋一郎先生より「当事者研究から見たDEI(Diversity, Equity, Inclusion)」と題し,さらにBelongingを加えたDEIBに関するご講演がありました。

熊谷先生は脳性麻痺という障害をお持ちの方で,東京大学医学部卒業後,小児科医としての病院勤務等を経て現職に至り,主に障害の分野のDEIBに焦点を当てた当事者研究に携われています。以下,講演の概要をご紹介します。以下では割愛しましたが,講演の中では先生のご専門の1つである自閉スペクトラム症に関して焦点を当てたお話も多くありました。実は私の息子も自閉スペクトラム症で特別支援学級に通っており,大変参考になるとともに色々考えさせられることがありましたので,私の個人的な感想も記させていただきます。

当事者研究とは

当事者研究とは新しい研究領域で,障害,病気,育児など様々な困難を自覚している本人による研究ということです。当事者とは研究される対象ではなく,研究を行う側です。

何故,当事者研究が重要なのか。それは専門家と当事者の間にアプローチのずれが生じる恐れがあるからです。以前は現在のような多様性の認識は乏しく,障害という現象を機能・形態障害(Impairments)や能力障害(Disabilities)の個人的な問題として捉え,”専門家”による個別治療という医療を必要とするという考え方でした(医学モデル)。つまり,障害者が健常者に近づけるようにするという考え方です。一方で近年は、ImpairmentsによるDisabilitiesを社会環境(Social Environments)とのミスマッチとして捉え,社会的不利軽減の手段を社会の側の環境の改善に求める”社会モデル(Social model)”という考え方になっています。このような考え方はLGBTにも応用されているそうです。

この社会モデルを適用する上で,見えやすい障害(例えば身体障害)は周囲にわかってもらいやすい(それがゆえにヘイトの感情を受けるということも稀にあるそうで,とても残念なことです)ために,社会変革の方向性が分かりやすいですが,その一方で,見えにくい障害(例えば自閉スペクトラム症などの発達障害)は周囲や本人からも理解されにくいという問題がありました。それは,経験に合った言葉「記号表現」が流通していないことが原因であり,例えば,産後うつ,セクシャルハラスメントは言葉が定義されるまでは個人的な経験や気のせいとしてやり過ごさないといけない状況もありました。当事者研究は,このようなマイナーな経験に新たな記号表現を与え,理解・共有を進めるという取り組みであるそうです。

この説明の中で,先生の研修医時代のご経験のお話がありました。健常者の同僚と同じような方法で医療ができるように自作の道具を作るなど工夫をされましたが,上手くいかず病院勤務を続けるべきか思い悩まれたそうです。しかし,その後,理解ある上司のリーダーシップや周囲から自然とサポートを受けられる環境に恵まれたことで,”健常者と同じように”という考え方が払拭され,緊張から解放されるとともに成長につながったそうです。これらのお話は社会環境側の改善の重要性を示していると思います。私の息子についても同じような経験がありました。近年は発達障害に関する理解は深まってきており,特別支援学級の整備も進んできています。先生方の理解も大きいのですが,(息子には知的障害はないため)どうしても普通学級で同じように授業を受けることを目標とされてしまうことが多く,息子には厳しい状況が続いていました。しかし,GIGAスクール構想によって環境が整備されたことや私から働きかけたこともあり,普通学級の授業を別の教室からオンラインで受ける方法を取ることで,安心して授業を受けられるようになりました。このように社会側の環境が整備され,選択肢の幅があることが大事だと思います。

なぜDEIが必要か

Dは多様性(Diversity),Eは公平(Equity),Iは包摂(Inclusion)です。D(多様性)は近年認識も深まっているかと思います。I(包摂)とは,組織のあらゆる側面に完全参加できること,組織に尊敬されるメンバーとして評価・歓迎され,自身も所属感を持てる状態を指します。DとIの違いは,「多様性とはパーティに招かれること,包摂とはダンスに誘われること」との表現があるそうです。ダンスに誘われるには,E(公平)とB(Belonging, 所属感)が重要な要素であり,これらを総合してDEIBとなります。

何故,DEIBが組織にとって必要なのか,その理由として,組織パフォーマンスの向上:多様な背景を持つメンバーからなる組織は心理的安全性が高くなり,高いパフォーマンスが発揮できる(いくつかの証拠がある),研究の共同創造:障害者は,より広範な社会問題から広範な診療,研究を行うことで,社会的格差の改善に寄与することができる,が挙げられていました。研究の共同創造については,他の分野の研究についても当てはまる部分があるかと思います。

そして,実は先生はこれらの理由の前に最初に以下のことをおっしゃいました。選択肢の幅が公平である社会にはアプリオリな価値がある,つまり,理由なしに価値があるというのが先生の立場だそうです。これには私も強く共感しました。多数派の論理のために,少数派に公平な選択肢が与えられないことはあってはならないことだと思います。私はいくつかの職場を経験していますが,森林機構はDEIBの取り組みはとても進んでいると思います。しかし,無意識のうちに不公平性が生じていることはないか,改めて見直しながらダイバーシティ推進室の一員としてDEIBの更なる実現に取り組んでいきたいと思いました。

森林防災研究領域(ダイバーシティ推進室併任)鈴木拓郎:記

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