森林総合研究所について > 国際連携 > 共同研究 > 凍土融解深の異なる永久凍土林における地下部炭素動態の定量評価と制御要因の解明
更新日:2022年10月25日
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アラスカ大学フェアバンクス校国際北極圏研究センター
2016~2022年度 JSPS科研費
野口 享太郎(東北支所)
北方林の炭素蓄積量は、温帯林と熱帯林の合計に匹敵すると言われていますが、北方林面積のうち20%以上は永久凍土地帯にあります。永久凍土林は、莫大な量の炭素を土壌中に凍結した状態で蓄積していますが、大気からの熱が伝わりやすい林床有機物層~表層土壌では、生物活動による炭素の動きが活発と考えられています。一方、温暖化などの気候変動により凍土の融解が進み、永久凍土林が温室効果ガスの放出源になることが懸念されています。しかし、これらの永久凍土林の炭素動態には不明な点が多いことから、これを定量的に明らかにする必要があります。
凍土融解深の異なるアラスカ内陸部のクロトウヒ林において、植物生産、土壌呼吸などの生物活動による炭素動態を定量的に評価し、土壌温度などの環境パラメータとの比較により、その制御要因について解明することを目的とします。
凍土融解深の異なるアラスカ内陸部のクロトウヒ林を調査地とし、炭素流入のパラメータとしてリターフォール生産量、細根生産量、林床植生生産量を明らかにする。炭素放出のパラメータについては、地下部からの二酸化炭素放出量(土壌呼吸量)を明らかにする。また、環境要因のパラメータとして、凍土融解深、土壌温度、土壌水分、土壌養分条件について明らかにする。これらにより、凍土融解深の変化による地下部炭素動態の変化について定量的に評価するとともに、凍土融解深の変化が地下部炭素動態を変化させる仕組みについて明らかにします。
アラスカ大学カリブーポーカークリーク試験地の北東向き斜面上に分布するクロトウヒ林において(図1)、凍土融解深の大きい斜面上部から、凍土融解深の小さい斜面下部まで3か所の林分の落葉量と細根成長量を比較しました。その結果、落葉量が斜面上部ほど大きかったのに対し、細根成長量は斜面下部ほど大きく、斜面下部プロットでは、細根成長量が落葉量の約4倍にもなることが分かりました(図2)。また、斜面上部では新たに成長した細根の約8割がクロトウヒの細根だったのに対し、斜面下部では約7割がツツジ科低木など下層植生の細根でした(図2、図3)。本研究により、凍土融解深の小さい永久凍土クロトウヒ林では、特に下層植生の細根が地下部への炭素の供給に重要な役割を担うことが明らかになりました。
図1:本研究で調査した永凍土上のクロトウヒ林。斜面下部ではクロトウヒの地上部サイズが斜面上部と比べて小さい。Noguchi et al. (2021) Front. Plant Sci. 12: 769710を改変。
図2:クロトウヒおよび下層植生の落葉量と細根成長量(1年間の値)。斜面下部に行くほど落葉量は減少し、逆に細根成長量は増加する。また、斜面下部では下層植生の細根成長量がクロトウヒよりも大きくなる。Noguchi et al. (2021) Front. Plant Sci. 12: 769710より作図。
図3:永久凍土林でよく見られるツツジ科低木(青矢印、イソツツジ Rhododendron tomentosum (Ledum palustre);黄矢印、コケモモ Vaccinium vitis-idaea)
本研究で得られた成果は、気候変動下における永久凍土林の動態や炭素収支の変化に関する将来予測に役立ちます。
Kyotaro Noguchi, Yojiro Matsuura, Tomoaki Morishita, Jumpei Toriyama, Yongwon Kim (2021) Fine root growth of black spruce trees and understory plants in a permafrost forest along a north-facing slope in Interior Alaska. Frontiers in Plant Science 12: 769710
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