令和7年版 研究成果選集 2025

森林総合研究所では、森林・林業・林産業という幅広い分野から、毎年数多くの研究成果を挙げています。その中から、今後、利活用が期待されるテーマを選び、このたび「令和7年版 研究成果集 2025」として発行、掲載しています。         令和7年版 研究成果選集 2025を一括ダウンロード（PDF：9,277KB）

 

重点課題1 環境変動下での森林の多面的機能の発揮に向けた研究開発

ア 気候変動影響の緩和及び適応に向けた研究開発

• 高解像度森林炭素シミュレーターの開発と日本の森林管理の将来推定（PDF：657KB）
  日本の森林の炭素蓄積量を約100 mグリッドで推定するモデルを作成し炭素蓄積量の変化を予測した結果、森林・林業基本計画の計画量の10倍程度の伐採をしても適切な更新により炭素蓄積が維持されることが分かりました。
• 気候変動の林業への影響を予測して適応策の効果を明らかに（PDF：485KB）
  気候変動に適応したスギ人工林の管理のため、今後予測される伐採率と再造林率、温暖化の影響をもとに、将来の純生態系生産量を推定し、炭素蓄積、山地災害リスク、生物多様性を重視した適応策の効果を明らかにしました。

イ 森林生物の多様性と機能解明に基づく持続可能性に資する研究開発

• 十和田・八甲田の森はどう変わったのか？ 〜80年間の植生変化を探る〜（PDF：492KB）
  山岳域の長期的な植生変化を知るため、1930年代作成の十和田・八甲田地域の植生図を2010年代のものと比較しました。その結果、亜高山帯の針葉樹林から人里近くの雑木林に至る広い範囲で、植生の変化が明らかになりました。
• トドマツの枝の形態や変形しにくさは、その由来する地域によって異なる（PDF：388KB）
  北海道の主要な造林樹種であるトドマツの成木の枝を調べたところ、その形態や変形しにくさを示す「曲げ剛性」が元々生育していた地域によって異なることが分かりました。
• 春に少なく夏に多いニホンモモンガの子の数（PDF：527KB）
  リスの仲間であるニホンモモンガは、夏には乳頭の数に見合った数の子を産むものの、春の子の数はそれよりも少ないことが分かりました。このような子の数の季節的な違いは他のリスにはない珍しい特徴です。

ウ 森林保全と防災・減災に向けた研究開発

• 大雨時の森林斜面土層内の空気圧上昇を現地観測から明らかに（PDF：620KB）
  森林に降った雨が湧水として流出するプロセスについて、土層内の空気の動きに着目し現地観測を行ったところ、大雨時に地下水位の上昇にともなって土層内の空気圧が上昇する場合があることが明らかとなりました。

• 流木被害軽減のための流木捕捉計画立案の支援技術の開発（PDF：648KB）
  流木災害被害を軽減するために、土石流と共に流下する流木の渓流内の堆積量と治山ダムによる捕捉量を数値シミュレーションで予測し、効果的な流木捕捉計画を立案するための支援技術を開発しました。

重点課題2 森林資源の活用による循環型社会の実現と山村振興に資する研究開発

ア 林産物の安定供給と多様な森林空間利用の促進に資する研究開発

• 全面機械地拵えでトドマツの下刈り回数を大幅に削減（PDF：568KB）
  トドマツの造林地で大型機械による全面地拵(じごしら)えを行った結果、ササの再生が抑制され、下刈り1回でも苗木は良好に育ちました。従来の筋状施業に比べ、地拵え＋下刈りの費用を最大40%削減できることが分かりました。
• ロボット技術を活用して荷台への丸太積載を無人で行うことに成功（PDF：511KB）
  レーザー計測技術や人工知能（AI）による画像処理技術、ロボット制御技術を統合し、丸太を荷台に自動で積載する制御システムを開発しました。本技術は木材生産作業の省力化や安全性向上に貢献します。
• 東京23区の住民で過去1年間に森林を訪れたのは3人に1人 —森林空間利用を促すには—（PDF：684KB）
  東京23区の住民アンケートから、過去1年間に森林を訪れたのは3人に1人にとどまり、森林への訪問を促すには、アクセスの改善、身近な自然とのふれあい、魅力的なプログラムの提案が重要であることが示されました。
• 民有林林道の厳しい維持管理実態とそれを克服するための方策（PDF：448KB）
  市町村が民有林林道を維持管理する上で、予算の確保、路線の見回り、住民の高齢化が課題であり、維持管理の効率化には路線データのデジタル化や地理情報システム（GIS）との連携が必要であることが分かりました。

イ 生物特性を活用した防除技術ときのこ等微生物利用技術の開発

• 人の生活圏で発生するナラ枯れを市民活動で防除（PDF：1,221KB）
  公園や緑地など、人の生活圏で発生するナラ枯れの防除に取り組む市民活動を支援するため、市民が実行可能な防除技術を開発するとともに、埼玉と茨城のモデル地域で防除活動を実践し、今後の課題を抽出しました。
• 植栽試験地での国産白トリュフの交配様式と由来を明らかにしました（PDF：372KB）
  植栽試験地で発生した国産白トリュフの遺伝子解析を行い、子実体発生には異なる交配型遺伝子をもつ2株の交配が必要なこと、子実体の「両親」はいずれも接種に用いた菌体由来であることが分かりました。

ウ 木材利用技術の高度化と需要拡大に向けた研究開発

• はかりを使わず音で木材の質量を知る —桟積み平角モデルへの応用—（PDF：529KB）
  木材の強度特性の非破壊的測定に必要な質量測定を省略する振動試験方法を先行研究で開発しました。本研究ではこの方法を用いて天然乾燥過程の桟積み状態のまま平角の質量を推定することができました。

• 枠組壁工法構造用製材の品質管理がハンマーによる打撃で可能に（PDF：408KB）
  枠組壁工法構造用製材の品質管理では、強制的に木材に曲げ荷重を加えて曲げ性能を調べる方法を採用しています。これを、ハンマーで木材を打撃した際に生じる振動を測定する方法で代替できることが分かりました。

エ 木質新素材と木質バイオマスエネルギーの社会実装拡大に向けた研究開発

• 里山広葉樹から微細なセルロースを製造し塗料に応用（PDF：295KB）
  里山広葉樹から得られる繊維長が短めで細いパルプを原料とし、セルロースナノファイバー（CNF）よりも製造コストを削減した方法で微細なセルロース繊維を製造し、木材用塗料へ応用する技術を開発しました。
• 環境情報と空間解析でヤナギ超短伐期施業の適地を地図化する（PDF：484KB）
  早生樹で、燃料用木質バイオマスとして注目されるヤナギを用いた超短伐期施業に適した場所を、植生図等の環境情報と空間解析を組み合わせて地図化する手法を開発しました。ヤナギ実証生産の推進に貢献する成果です。

重点課題3 多様な森林の造成・保全と持続的資源利用に貢献する林木育種

ア 林木育種基盤の充実による多様な優良品種の開発

• スギの実生苗とさし木苗の植栽後のメリットとデメリットは植栽環境によって異なる（PDF：511KB）
  スギは地域によりさし木苗または実生苗を用いて林業が行われてきましたが、それらの特性の比較は十分なされてきませんでした。さし木苗と実生苗の生存や成長、幹の真っすぐさの指標である通直性の違いを明らかにしました。
• スギの気候変動適応に向けた耐乾性品種の開発（PDF：416KB）
  気候変動による干害リスクに対応するため、スギの耐乾性の評価方法を開発し、全国の第1世代精英樹の中から耐乾性に優れた4品種を開発しました。

イ 林木育種技術の高度化・拡張と特定母樹等の普及強化

• LiDAR搭載UAVによる樹高測定の効率化・高精度化と壮齢期までの樹高の遺伝的評価の手法開発（PDF：356KB）
  林木育種において重要な形質である樹高について、測定コストの課題を克服するために、LiDAR搭載UAVによる樹高計測の精度検証と従来の測定データを結合して樹高の系統評価を行う手法の開発を行いました。

• 今後の再造林に役立つ「エリートツリー特性表（関東育種基本区・スギ）」を公表（PDF：789KB）
  関東育種基本区で開発したスギエリートツリー（特定母樹）の特性表を作成しました。特性表では、地域の多様なニーズに応える一助として、目的に応じた特定母樹を組み合わせた採種園パッケージを提示しました。