第4期中長期計画成果集

森林総合研究所では、5ヵ年にわたる中長期計画を策定して森林・林業・木材産業に係わる研究を推進しております。このたび第4期中長期計画（平成28年～令和2年度）で得られた主要な研究成果をとりまとめ、「第4期中長期計画成果集」として発行しました。         第4期中長期計画成果集 を一括ダウンロード（PDF：21,770KB）

 

重点課題ア 森林の多面的機能の高度発揮に向けた森林管理技術の開発

ア 森林生態系を活用した治山技術の高度化と防災・減災技術の開発

• 雪崩の流下を妨げて災害を軽減する森林のはたらき（PDF：959KB）
  森林には雪崩の流入で多数の樹木が倒壊した場合であっても、雪崩の勢いを弱めて災害を軽減する効果があることを初めて定量的に示しました。この成果は災害軽減効果の高い森林の配置や造成に役立ちます。
• 日本の森林から供給される水資源量の長期変化を予測する（PDF：828KB）
  我々の日常生活には山岳の水源から供給される水資源が欠かせません。そこで、森林を対象とした水循環モデルを構築し、山岳の主な土地利用である森林から供給される水資源量の長期的な変化を推定しました。
• 風害、冠雪害、森林火災の発生リスクを推定するモデルを開発しました（PDF：928KB）
  強風や大雪によって、樹木の根返りや幹折れが発生することがあります。また、大気や地面が乾燥すると森林火災が発生しやすくなります。気象条件に起因する森林災害の発生リスクを推定するモデルを開発しました。
• 放射性セシウムは依然として表層土壌に残っていた ―森林における長期観測と、きのこ及びきのこ原木林の利用再開の手がかり―（PDF：849KB）
  放射性セシウムが森林内でどのように動き、現在どこに存在しているのか、10年間調査しました。樹木やきのこの放射性セシウムの吸収しやすさについても調査し、シンポジウムや図書によって情報を発信してきました。

イ 気候変動の影響評価技術の高度化と適応・緩和技術の開発

• 気候変動が人工林に及ぼす影響を予測する（PDF：1,024KB）
  スギ林で、大規模な降雨の遮断実験や年輪解析を行い、既往の結果もふまえて作成したスギ林の純一次生産量を推定するシミュレーションモデルに基づき将来の気候変動がスギ人工林に及ぼす影響を予測しました。
• AIを活用して高精細な森林土壌炭素貯留量の日本地図を作成（PDF：1,545KB）
  AIを活用して高精細な森林の土壌炭素貯留量の日本地図を作成しました。この地図は国連食糧農業機関（FAO）の地球土壌有機態炭素地図の一部として公開され、気候変動モデルの基盤情報として多方面で活用されています。
• 中央アマゾン熱帯林で択伐施業の持続可能性を検証する（PDF：834KB）
  中央アマゾン熱帯林で森林への影響を最小限に抑える低インパクト択伐施業を行うと、およそ14年で残された樹木が成長して地上部バイオマスが回復し、森林の炭素蓄積量を維持しながら管理できることがわかりました。
• 途上国の環境条件にあわせた森林減少・森林劣化のモニタリング手法を開発する（PDF：960KB）
  途上国における森林減少や森林劣化による温室効果ガス排出の削減量を把握するため、地上調査とリモートセンシングによる森林炭素蓄積量の計測・検証を行い、排出削減量モニタリングの設計手順を作成しました。

ウ 生物多様性の保全等に配慮した森林管理技術の開発

• トドマツ人工林の保持伐は伐採直後の生物多様性保全に効果がある（PDF：1,001KB）
  生物多様性に配慮した伐採方法である保持伐を人工林に適用する国内初の実証実験「トドマツ人工林における保残伐施業の実証実験」を実施しました。保持伐は伐採直後の森林性種の保全に効果があることが分かりました。
• ブナは窒素を巧妙にやりくりして実をつける（PDF：833KB）
  実を成熟させるために、ブナは必要となる窒素を土壌からより多く吸い上げたり、殻斗や葉など他の器官から転流させたりすることで、窒素資源を巧妙にやりくりしていることがわかりました。
• 天敵微生物を使ってシイタケの害虫の被害を防ぐ（PDF：1,069KB）
  シイタケの栽培方法には、菌床栽培と原木栽培の2種類がありますが、どちらの栽培方法でも害虫が発生します。これらの害虫を、化学農薬ではなく、天敵微生物を使って防除する方法を確立しました。
• シカ被害対策グレードアップ術～防鹿柵をめぐる攻防戦～（PDF：1,023KB）
  防鹿柵に「シカの侵入を防ぐ」という機能を十分に発揮させるためには、植林地周辺のシカ密度を把握し、イノシシ等他の動物による柵への攻撃に耐えられる仕様と設置方法を選択する必要があることがわかりました。

重点課題イ 国産材の安定供給に向けた持続的林業システムの開発

ア 持続的かつ効率的な森林施業及び林業生産技術の開発

• 人工林の造林-保育を一連の作業としてコスト削減（PDF：1,376KB）
  低コスト林業を実現するため、育苗から下刈りまでの造林-保育技術を開発しました。
• 広葉樹資源を有効に活用し地域を支える（PDF：1,043KB）
  中山間地に分布する広葉樹林の資源量推定のための技術開発と用途に関する情報整理を行い、近畿圏に多いコナラを中心に、さまざまな径級ごとに無駄なく利用し、全体の付加価値を高める活用方策を提案しました。
• 原木の品質がわかるICTハーベスタの開発（PDF：829KB）
  丸太を生産しながら品質（曲がり、強度、密度）を自動で測る次世代ハーベスタを開発しました。丸太の品質を含めたハーベスタから得られる情報を、インターネットを介して関係者間で共有できる機能も備えています。
• 地上レーザースキャナーによる森林調査：効率的な資源量把握に向けて（PDF：1,109KB）
  森林調査を効率化するための地上型レーザースキャナーの活用方法について、胸高直径や樹高の計測精度と、この方法に固有な樹高の過小評価の補正法を明らかにし、導入の費用対効果を従来の調査法と比較しました。

イ 多様な森林資源の活用に対応した木材供給システムの開発

• 国産広葉樹の家具・内装材用途での活用に向けて（PDF：1,207KB）
  家具・内装材用の広葉樹原材料のうち約8割が海外産ですが、それを国産に転換するための対応方策を提案しました。
• 新たな森林の有効活用に向けた課題と解決策の提示（PDF：2,118KB）
  日本におけるレジャー・スポーツを中心とした「新たな森林利用」の発展状況と、それに伴う課題及び解決策を、海外との比較研究を踏まえて提示しました。
• 世界初の長期連続運転を可能にする木質バイオマスを主原料としたメタン発酵実証試験とその発酵残渣の応用（PDF：2,211KB）
  木質バイオマスを原料とする長期連続メタン発酵の実証試験を行い、安定的なメタン発酵の条件を明らかにしました。
  また発酵残渣はバイオプラスチックの原料として有効活用できることも明らかにしました。
• 蒸気タービン方式木質バイオマス熱電併給事業採算性評価ツールを開発（PDF：982KB）
  電力固定価格買取制度の下で、蒸気タービン方式の木質バイオマス発電熱電併給システムを用いた事業の採算性を評価できるツールを開発しました。

重点課題ウ 木材及び木質資源の利用技術の開発

ア 資源状況及びニーズに対応した木材の利用技術の開発及び高度化

• 樹木年輪のコア試料を自動採取する装置（スマートボーラー）を開発・商品化（PDF：946KB）
  市販のインパクトレンチの動力をギアで増幅することにより、従来人力で行われてきた成長錐コア採取を自動化しました。
   本装置により、人力に比べて1日当たり約3倍の数のコア試料を採取できるようになりました。
• 大径材の丸太段階で強度を予測し要求性能に応じた製材品を安定供給する（PDF：882KB）
  大径材から得られる大断面の製材品を国産材の利用が少ない住宅のはり・けた材や枠組壁工法用製材として利活用するために、丸太段階で製材品の強度を予測し効率的に製材・乾燥を行い安定供給する技術を開発しました。
• 国産材CLT（直交集成板）の普及に向けた技術開発（PDF：1,049KB）
  国産材CLTの普及に向けて、建築基準の改正に必要な強度データの収集、耐火性能付与技術の開発に取り組みました。
  また、製造工程の効率化、製品仕様の標準化による製造コスト低減への道筋を示しました。
• 国産材を活用してツーバイフォー建築を強くする（PDF：926KB）
  ツーバイフォー（枠組壁工法）建築にスギ等の国産材を利用するための技術開発を行い、建物の耐震性能を確保するとともに広い空間を実現できる壁やはり（梁）の部材の開発を行いました。

イ 未利用木質資源の有用物質への変換及び利用技術の開発

• スギから製造したセルロースナノファイバーを用いた木の美しさを長く維持する塗料の開発（PDF：1,092KB）
  スギから、木材用塗料への配合に適したセルロースナノファイバー（CNF）を製造する技術開発を行いました。このCNFを配合した、木製品の美しさを長持ちさせる下塗り用の塗料を、「CNFシーラー」として実用化しました。
• 森林資源由来の高性能プラスチック代替素材「改質リグニン」の開発（PDF：1,169KB）
  森林資源を活用した化成品素材を創りだす検討を進め、スギ材から「改質リグニン」という新素材の開発に成功し、有効利用が困難といわれたリグニンの工業材料化への道筋を見出しました。
• 竹の効果的な利用法（PDF：942KB）
  放置竹林として問題になっている「竹」は、適切な管理を行うための大量消費に繋がる効果的な利用法が求められています。そこで環境に配慮した技術を活用し、竹から高付加価値素材を製造する方法を開発しました。

重点課題エ 森林生物の利用技術の高度化と林木育種による多様な品種開発及び育種基盤技術の強化

ア 生物機能の解明による森林資源の新たな有効活用技術の高度化

• DNA分析によって無花粉スギの原因となる遺伝子(MS1)を特定しました（PDF：1,816KB）
  花粉発生源対策に有効な無花粉スギを高精度で選抜するには、無花粉を引き起こす原因遺伝子の特定が必要です。雄花で働く遺伝子の発現解析や連鎖地図の作成、DNA配列の探索によってMS1遺伝子を特定しました。
• 裸子植物と被子植物の光合成のしくみは異なる（PDF：1,021KB）
  これまで、光合成の代謝のしくみは、裸子植物である針葉樹と被子植物である広葉樹とで違いはないとされてきました。
  今回の研究により、両者に違いがあることがわかりました。
• 地球温暖化に適応したシイタケ品種の開発（PDF：1,084KB）
  地球温暖化が進行する中、多くの山村・中山間地域で基幹産業となっているシイタケ生産を、将来にわたり安定的に維持していくため、従来よりも高温環境で発生することが期待される有望菌株を選抜しました。
• 国産トリュフの栽培を目指す（PDF：1,157KB）
  トリュフは、樹木の根に共生して生育するきのこです。その人工栽培に向けて、トリュフ発生地の環境を参考に土壌環境を整えた圃場にて、トリュフ菌を共生させた苗木を植栽し、菌の定着に成功しました。

イ 多様な優良品種等の開発と育種基盤技術の強化

• 気候変動適応のための育種技術の開発（PDF：761KB）
  地球規模で生じている気候変動に対応するために、乾燥等の環境下で成長を維持できるスギ系統を選抜する技術を開発し、その技術を用いて気候変動に適応するスギ品種の育種に向けた育種素材を選抜しました。
• 土を使わずスギを発根させる「エアざし」技術の実用化にむけて（PDF：1,148KB）
  土を使わずに発根させることができる「エアざし」の実用化にむけて、さしつけ環境に適した散水パターンの推定方法を明らかにするとともに、エアざしを活用したスギさし木コンテナ苗の生産マニュアルを公開しました。
• 期待される新たな造林樹種コウヨウザン ―国内林分からの優良系統選抜―（PDF：1,298KB）
  成長がスギよりも早いことなどが期待されているコウヨウザンについて、国内で成林した林分から優良系統を55系統選抜しました。これらは日本の気候に適した優良系統として、今後の活用が期待されます。
• アフリカにおけるメリア第二世代の選抜（PDF：807KB）
  ケニアなど東アフリカ地域の郷土樹種であるメリアについて、育種研究の結果、開始からわずか7年で成長や幹の通直性、耐病性に優れるなどの特性を備えた優良な第二世代系統を選抜することができました。
• マツ材線虫病に対する抵抗性の遺伝領域を明らかにする（PDF：888KB）
  マツ材線虫病は日本だけでなく世界的にも深刻な森林被害をもたらしている病虫害です。今回、DNA解析を行うことで、世界で初めてマツ材線虫病抵抗性に関わる遺伝領域を明らかにしました。