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スギ雄花形成の機構解明と抑制技術の高度化に関する研究

1. 課題の名称

スギ雄花形成の機構解明と抑制技術の高度化に関する研究

2. 研究期間

2006~2008年度

3. 責任者

篠原健司(生物工学研究領域長)

4. 研究の背景

スギ花粉症対策を求める国民の要望は年々増加しています。林業分野でのスギ花粉症対策は、花粉発生源を減少させることです。本研究では、雄花形成と気象要因の相互関係、花成制御遺伝子の単離と機能解明、薬剤処理後の雄花形成制御機構を解明し、雄花形成に関わる基礎的知見を集積しました。また、都市部に影響を及ぼす花粉発生源の特定、森林管理による抑制技術の高度化、雄性不稔スギを利用した精英樹の改良や雄性不稔スギのデータベースの構築、糸状菌を用いた花粉飛散抑制技術の開発を進め、雄花形成の抑制技術の高度化を図りました。これにより、効率的なスギ花粉発生源の対策が図れ、都市部に飛散するスギ花粉量の抑制が期待されます。

5. 達成された成果の概要

  1. スギ試験林で精密な気象観測結果と気象台の気象データとの比較解析を行い、スギ林内における気象環境予測モデルを作成し、スギ個体の正味生産量推計モデルと豊凶モデルを組み合わせた普遍的な雄花生産量の推定法を開発しました(図1)。
  2. スギ花成制御関連遺伝子を単離し、それらの発現特性を解明し、一部の花成制御関連遺伝子の機能解明を進めました。
  3. トリネキサパックエチルによるスギの着花抑制効果を検証し、その作用機序を解明しました。
  4. スギの雄花開花予測モデルを改良し、花粉飛散予報モデルの精度を向上させ、都市部に影響を及ぼす花粉発生源を特定する手法を開発しましたので、効率的な花粉発生源対策が推進できます(図2)。
  5. 雄花生産量の多いスギ林の伐期の短縮と雄性不稔スギや広葉樹等への樹種転換が、雄花生産量の削減には最も効果的であることを明らかにし、花粉発生源対策のための森林管理指針を作成しました。
  6. 雄性不稔遺伝子をヘテロ型で保有する精英樹同士の交配家系や、9都県それぞれの精英樹と新たなタイプの雄性不稔スギとの交配家系を育成しました。青森県の精英樹の中から雄性不稔スギ1クローンを選抜しました。雄性不稔スギ(図3)のデータベースの構築を進めました(表1)。
  7. スギ黒点病菌が人工的に雄花を枯死させる最適な菌類であることを明らかにし、この糸状菌を用いた花粉飛散抑制技術を開発しました。

[図1:スギ林内の気象環境予測モデルと正味生産量推計モデル、豊凶モデルを組み合わせて導き出された雄花配分コストと雄花生産量]
図1 スギ林内の気象環境予測モデルと正味生産量推計モデル、豊凶モデルを組み合わせて導き出された雄花配分コストと雄花生産量(千葉県木更津市)

[図2:首都圏人口集中域の花粉暴露影響度に及ぼす花粉発生源の寄与度と花粉発生源対策]
図2 首都圏人口集中域の花粉暴露影響度に及ぼす花粉発生源の寄与度と花粉発生源対策

[図3:雄性不稔スギ(富山不稔1号)の雄花内部]
図3 雄性不稔スギ(富山不稔1号)の雄花内部

表1 雄性不稔スギのデータベース
個体名 発現ステージ 遺伝様式 遺伝子座名 自然交配の発芽率(%) 発根率
富山不稔1号 四分子期 核遺伝子型(aa ms-1 30 8
富山不稔3号 一核期(後期)     11 97
新大不稔1号 一核期(前期) 核遺伝子型(bb ms-2 35 100
新大不稔3号 四分子期 核遺伝子型(aa ms-1 37 88
新大不稔5号 一核期(後期) 核遺伝子型(cc ms-3 24 86
新大不稔8号 成熟期 核遺伝子型(dd ms-4 48 97
福島不稔1号 四分子期 核遺伝子型(aa ms-1 26 100
福島不稔2号 四分子期 核遺伝子型(aa ms-1 33 90
福島不稔3号 成熟期     28 90
神奈川不稔1号 四分子期 核遺伝子型(aa) ms-1 38 78
青森不稔1号 成熟期     60 90

6. 成果の活用

  1. 雄花生産量の予測法は、林野庁の「スギ花粉発生源調査事業」や東京都の「時間単位の花粉飛散予報事業」に利用されました。
  2. 花粉発生源の特定法は林野庁でも利用され、効率的な花粉発生源対策に貢献できます。
  3. 花粉発生源対策のための森林管理指針は、公開講演等で紹介されています。
  4. 作出された雄性不稔スギは両親ともに精英樹であることから、成長や材質に優れており実用的と考えられます。雄性不稔スギのデータベースは、それぞれの地域に適した実用的な雄性不稔スギの早期開発に役立ちます。