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フタバガキ科植物の遺伝的交流から種の進化を探る

2013年4月1日掲載

論文名  Nuclear and chloroplast DNA phylogeography reveals Pleistocene divergence and subsequent secondary contact of two genetic lineages of the tropical rainforest tree species Shorea leprosula (Dipterocarpaceae) in South-East Asia.(核と葉緑体DNAで明らかになった東南アジアの熱帯雨林のフタバガキ科Shorea leprosulaの二つの系統の更新世での遺伝的分化とその後の二次的接触)
著者(所属)

大谷 雅人(森林総合研究所)、近藤 俊明(広島大学)、谷 尚樹(国際農研センター)、上野 真義(森林総合研究所)、LEONG S. LEE(マレーシア森林研)、KEVIN K. S. NG(マレーシア森林研)、 NORWATI MUHAMMAD(マレーシア森林研)、 REINER FINKELDEY(ゲッチンゲン大学)、MOHAMAD NA’IEM(ガジャマダ大学)、 SAPTO INDRIOKO(ガジャマダ大学)、 上谷 浩一(愛媛大学)、 原田 光(愛媛大学)、BIBIAN DIWAY(サラワク森林研究センター)、 EYEN KHOO(サバ森林研究センター)、 川村 健介(広島大学)、津村 義彦(森林総合研究所)

掲載誌 Molecular Ecology, Blackwell Publishing Ltd.  DOI: 10.1111/mec.12243(外部サイトへリンク)
内容紹介

歴史的な気候変動に伴って氷河期が数万年〜数十万年の周期で訪れ、氷河期になると海水面が下降し、浅い海が陸地化します。東南アジアでは氷河期ごとに、ボルネオ島、スマトラ島、ジャワ島などがマレー半島とともに大陸(スンダ大陸)となり、これに伴って生物相も分布拡大や縮小を繰り返してきました。一般的に、別々の島に孤立すると、生物は異なる進化の道をたどり、DNAのタイプが分かれ、最終的には別々の種に進化すると考えられます。そのため、広域に分布する樹木のDNAの変異を調べることにより、どのような分布変化がいつの時代に起きたかを推定でき、森林の遺伝子資源の保全や種苗の移動のガイドラインを作成することが可能になります。

そこで、東南アジアに広く分布するフタバガキ科のShorea leprosulaという樹種を対象にして、分布域全体から研究材料を収集し、DNAを分析しました。その結果、ボルネオ島の集団は他の集団であるスマトラ島やマレー半島の集団とは遺伝的に大きく異なっていることが明らかになりました。また、この二つの系統が分かれたのは今から9万年〜28万年前と推定されました。このことは、最終氷河期(約2万年前頃)にスンダ大陸が形成され陸続きになった際にも、これらの二つの系統はあまり混じり合わなかったことを示します。その原因は明らかではありませんが、動物種でも同様の結果が報告されており、二つの地域の個体群は古い時代に分かれたままということは間違いないと考えられます。この結果は、東南アジアの樹木の遺伝子資源保全のためのガイドラインの作成に活用されることが期待されます。

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