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酸素安定同位体はさまざまな植物の移動評価に利用できる

2016年10月13日掲載

論文名

Negative correlationbetween altitudes and oxygen isotope ratios of seeds: exploring itsapplicability to assess vertical seed dispersal. (標高と種子の酸素安定同位体比の負の相関:その垂直種子散布への適用可能性を探る)

著者(所属)

直江 将司(森林植生研究領域)、陀安 一郎(総合地球環境学研究所)、正木 隆(森林植生研究領域)、小池 伸介(東京農工大学)

掲載誌

Ecology and Evolution、Wiley、September2016、DOI:10.1002/ece3.2380(外部サイトへリンク)

内容紹介

標高の高い場所では生産される種子の酸素安定同位体比注)が小さくなることを利用して、散布された種子の親木の標高を特定する手法を開発しました(下記の図を参照)。しかしながら、その手法はカスミザクラのみを対象に開発されたものであり、汎用性は確かめられていませんでした。

そこで私たちは先行研究の手法の汎用性を検証するため、カスミザクラに加え、ヤマザクラ、ウワミズザクラ、サルナシを対象に、標高と種子の酸素安定同位体比の関係を調べました。その結果、高標高で種子の酸素安定同位体比が小さくなる関係が得られました。またサルナシは他の樹種と近縁関係に無いことから(サクラ3種はバラ科でサルナシはマタタビ科)、系統に関係なくこの手法が利用できることが示されました。

この結果は、酸素安定同位体を用いた標高方向の種子散布評価が様々な植物で広く利用可能であることを示しています。本手法を利用することで、植物の移動の実態が明らかになっていくと期待されます。

 

注)安定同位体比:原子核内の陽子の数が同じで中性子の数が異なる原子のことを同位体、そのうち環境中に安定して存在するもののことを安定同位体といいます。同じ元素の安定同位体であっても、それぞれ性質が少しだけ異なります。その結果、環境によって物質に含まれる安定同位体の割合が異なります。今回の手法は、種子に含まれる酸素の安定同位体比が標高によって異なることを利用して、標高方向の種子散布を評価します。降水の酸素安定同位体比は気温や降水量、高度効果などによって高標高ほど低くなることが知られており、降水を取り込んだ植物の種子の酸素安定同位体比も高標高ほど低くなったと予想されます。

 

 標高と種子の酸素安定同位体比との関係

図:標高と種子の酸素安定同位体比との関係。

 イメージのような検量線が得られれば、散布種子の同位体比から親木の標高が求まります。そして、「種子が散布された標高」と「親木の標高」から、種子の移動した標高差(標高方向の種子散布距離)が求まります。

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