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樹木呼吸量の将来予測には葉の呼吸速度の垂直変化や季節変化が重要

2017年6月29日掲載

論文名

Vertical and seasonal variations in temperature responses of leaf respiration in a Chamaecyparis obtusa canopy(ヒノキの林冠における葉呼吸速度の温度反応性の垂直変化と季節変化)

著者(所属)

荒木 眞岳(植物生態研究領域)、玉泉 幸一郎(九州大学農学部)、梶本 卓也(植物生態研究領域)

掲載誌

Tree Physiology、Oxford University Press、Feb 2017、DOI: 10.1093/treephys/tpx012(外部サイトへリンク)

内容紹介

植物は、光合成によって大気中の二酸化炭素を吸収する一方で、呼吸によって二酸化炭素を放出しています。したがって、樹木の呼吸のメカニズムを解明することは、森林の炭素固定機能の解明やその将来予測のために重要です。樹木の呼吸速度は短期的な温度変化に敏感に反応し、一般に温度が10度増加すると呼吸速度は約2倍になるといわれています。これまで、その温度依存性は変化しないものとされてきました。

本研究は、10年生のヒノキの葉を材料に、呼吸速度の垂直変化と季節変化を調べました。葉の呼吸速度は、樹冠の上部ほど高く、光強度や窒素濃度と高い相関を示しました。温度依存性は、冬に高くて夏に低く、平均気温と強い負の相関を示しました。すなわち、気温の季節変化に応じて呼吸の温度依存性が変化するため、葉の呼吸速度は夏季の高温期でも春や秋と同程度であることが明らかとなりました。また、葉の呼吸速度の垂直変化や季節変化は、光と気温という比較的単純なパラメータによって予測可能であることがわかりました。

これまで、多くの炭素収支予測モデルでは、呼吸速度の温度依存性は季節を通じて一定であると仮定され、樹木の呼吸量が推定されています。しかし、本研究で明らかとなった温度依存性の季節変化を考慮に入れると、夏季の高温期、さらには将来の高温環境下における呼吸量は従来の予測よりも低く見積もられることになります。本研究の成果は、森林の炭素収支モデルにおける呼吸量予測の精緻化を通じて、地球温暖化にともなう森林の炭素固定機能の将来予測に貢献します。

 

図1:葉の呼吸速度の温度反応曲線における垂直変化と季節変化の模式図

これまで、葉の呼吸速度(R)の温度(T)に対する反応曲線は一定であると仮定されている。

図2:葉の呼吸速度の温度反応曲線における垂直変化と季節変化の模式図

本研究は、葉の呼吸速度の温度反応曲線は高さや季節によって異なり、垂直方向には傾き(=温度依存性、Q10)は一定で切片(R0)が変化するのに対して、季節的には切片はほぼ一定で傾きが変化することを明らかにした。

 

図:葉の呼吸速度の温度反応曲線における垂直変化と季節変化の模式図

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