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新たなマツ枯れ阻止技術への取り組み ―分散型線虫出現条件の解明―

2017年12月1日掲載

論文名

Artificial induction of third-stage dispersal juveniles of Bursaphelenchus xylophilus using newly established inbred lines.
(新規に確立した近交系を用いたマツノザイセンチュウ分散型第三期幼虫の人工的誘導)

著者(所属) 田中 克(東京大学)、相川 拓也(東北支所)、竹内 祐子(京都大学)、福田 健二(東京大学)、神崎 菜摘(関西支所)
掲載誌

PLoS ONE、12(10): e0187127、October 2017 DOI:10.1371/journal.pone.0187127(外部サイトへリンク)

内容紹介

マツ材線虫病(マツ枯れ)の病原体であるマツノザイセンチュウは、カミキリムシの一種、マツノマダラカミキリによって、枯死したマツから健全なマツに運ばれ、病気を起こします。この線虫には、増殖型と分散型という異なる幼虫ステージが存在し、枯死木内部で分散型が出現することにより健全なマツに被害が拡大します。分散型には第三期幼虫、第四期幼虫という二段階のステージがあります。そして、分散型第三期幼虫を経て初めてカミキリに運ばれる分散型第四期幼虫が出現します。これまで、分散型第四期に関しては多くの研究が行われ、カミキリから放出される化学物質が出現の要因となることが明らかにされています。しかし、分散型第三期が出現する要因に関しては、ほとんど実験的な情報がありませんでした。

今回の研究では、近交系とよばれる遺伝的に均質化した線虫系統を作成し、餌や添加物などの異なる条件で培養を行い、分散型第三期を人工的に誘導することを試みました。この結果、線虫からの分泌物を培地に添加するとともに、餌を少なくした条件で培養することにより、分散型第三期を誘導することが出来ました。これは、餌が少なく、線虫密度が高いという、線虫の生存に不利な環境で分散型第三期が出現することを示しています。また、複数の近交系の間で分散型の出現割合が異なっており、これは、分散型出現に関与する遺伝子数が比較的少ないことを示しています。

分散型第三期は枯死木内部でのマツノザイセンチュウ生存にとって重要なステージであると考えられています。今回の結果をもとに、分散型第三期出現に関する化学的、遺伝的要因を明らかにし、これを応用して分散型出現の抑制を図るなどの、新たな防除法の開発に役立てたいと考えています。


図:マツノザイセンチュウの生活史

図:マツノザイセンチュウの生活史
増殖サイクルでは、卵内で第一期(一齢)幼虫から第二期(二齢)幼虫に脱皮して、そのまま孵化したのち、成虫まで成長する。今回、線虫分泌物濃度の増加、餌の不足により、分散型第三期幼虫を誘導できることが分かった。分散型第三期幼虫は、カミキリムシ(右下)からの化学シグナルを受けて分散型第四期に脱皮する。写真は、増殖型第三期幼虫(左)と、分散型第三期幼虫(右上)。分散型の方が大型で、体内に脂肪を蓄え、長期生存に備えている。スケールバーは0.1mm。
1) 線虫分泌物濃度の増加、餌の不足で分散型第三期幼虫が出現。
2) 1) の条件が解消されれば、通常の増殖サイクルに復帰する
3) カミキリムシからの化学シグナルにより分散型第四期幼虫に脱皮。
4) 分散型第四期幼虫はカミキリムシに侵入して分散し、健全なマツに感染したのち、成虫に脱皮する。

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