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シカはスギの苗木をどの高さまで食べられるか

2019年9月17日掲載

論文名

植栽したスギ大苗に対するシカ食害痕の高さ分布は斜面傾斜に影響される

著者(所属)

野宮 治人(九州支所)、山川 博美(森林植生研究領域)、重永 英年(植物生態研究領域)、伊藤 哲・平田 令子(宮崎大学)、園田 清隆(大分森林管理署、現在は福岡森林管理署)

掲載誌

日本森林学会誌、101巻4号、139-144、日本森林学会、2019年8月 DOI:10.4005/jjfs.101.139(外部サイトへリンク)

内容紹介

戦後に植えたスギ・ヒノキが成長し、全国的に伐採の時期を迎えています。伐採後には、木材資源の循環利用を目的としてスギ・ヒノキを再度植栽しますが、獣害、とりわけシカによる食害が大きな問題となっています。このため植栽地を柵で囲ってシカが入らないよう対策を施しますが、柵の設置と維持管理に多額の費用がかかります。そこでシカの被害を受けない背丈の大きな苗を使う「大苗植栽」という方法が検討されています。ここで問題になるのは「苗がどのくらい大きければ十分なのか」ということです。

今回、平均160cmという大きなスギの苗木を植栽したところ、シカは緩斜面の場合100cm前後の高さにある枝先を最も多く食べていることがわかりました。しかし、急傾斜地になると食害される高さは高くなり、傾斜45°では150cm前後となりました。

シカの食害を回避するために大苗植栽をする場合、平坦地では苗木の高さが120cm以上あることが望ましく、また急傾斜地ではさらに大きな苗木が必要になると言えます。これまで定性的だった食害高やその斜面傾斜との関係を示すことができたことは、今後のシカ被害対策に有用な知見となります。

(本研究は2019年8月に日本森林学会誌に公表されました。)

 

図1:平坦な場所に植栽したスギの着葉分布とシカ食痕の高さ分布

図1:平坦な場所に植栽したスギの着葉分布とシカ食痕の高さ分布
着葉分布(緑)は平均160cmのスギ大苗を平坦な場所(斜面傾斜5°以下)に植栽してから1年後の分布です。食痕の高さを1年間測定し、着葉個体あたりに何個の食痕を確認できたかを高さ別に示しました(赤)。100cm前後に食痕が集中していました。
注)100cm以下の小さな苗は、成長に重要な主軸先端が多く食べられています。

図2:斜面傾斜角度が大きくなるとシカ食痕の高さも高くなる

図2:斜面傾斜角度が大きくなるとシカ食痕の高さも高くなる
図中の丸印は平均値、バーは標準偏差。30°を超える急傾斜地では、食痕が斜面上側(緑)と斜面下側(茶)に分かれ、斜面上側で食痕の高さが高くなりました。

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