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絶滅危惧・希少植物の保全には防鹿柵設置に追加の保全策が必要

2020年12月21日掲載

論文名

Conservation of endangered and rare plants requires strategies additional to deer-proof fencing for conservation of subalpine plant diversity (シカ食害下の亜高山帯・半自然草原での絶滅危惧および希少植物の保全には防鹿柵設置に追加の保全策が必要)

著者(所属)

小山 明日香(生物多様性研究拠点)、内田 圭(東京大学)、尾関 雅章(長野県環境保全研究所)、岩崎 貴也(神奈川大学)、中濵 直之(兵庫県立大学 兼 兵庫県立人と自然の博物館)、須賀 丈(長野県環境保全研究所)

掲載誌

Applied Vegetation Science DOI:10.1111/avsc.12553(外部サイトへリンク)

内容紹介

現在シカの食害による生態系への被害が全国で問題になっており、防鹿柵の設置による生物多様性保全が森林を中心に進められています。近年では多様な絶滅危惧種が生息する高山・亜高山帯草原にもシカが分布を拡大しつつあり、そこでの防鹿柵による生物多様性保全の有効性を検証する必要があります。

防鹿柵設置は柵内の生物群集をシカ食害から守る「目の粗いフィルター」による保全策ですが、費用や人員確保の面から草原全域への適用は困難です。一方、広域にまばらに生育する絶滅危惧植物や希少植物は必ずしもたくさんの植物種が生育している場所にいっしょに分布しているとは限らないため、防鹿柵だけではこれらの種を保全できない可能性があります。

そこで、長野県霧ヶ峰の亜高山帯草原(写真)に設置された5つの防鹿柵エリアに12の柵内・柵外プロットを設定し、柵内外で植物の種数や花序数を比較しました。その結果、柵内の方が柵外よりも植物種数、開花植物種数および総花序数が多いことがわかり、柵設置による植物種多様性の全体的な保全効果が示されました。一方、絶滅危惧・希少植物に着目すると、出現確率が柵内で高かったのは数種(43種中3種)のみで、柵によるそれらの保全効果はほとんど検出されませんでした。

霧ヶ峰の防鹿柵は日本有数の総設置面積(27ha)ですが、それでも草原全体の1%以下の面積しか囲んでいません。しかも、本成果が示したように絶滅危惧・希少植物の保全機能は高くありません。シカ食害下にある亜高山帯草原において豊富な絶滅危惧・希少種を保全するには、より「目の細かいフィルター」による追加の保全策を柵外に適用する必要があります。

目の粗いフィルターによるアプローチ(coarse-filter approach)とは、景観内の代表的な生態系や生物群集を保護区の設置などにより維持・保全することで、そこでの生物多様性の大半が保全されることを期待する保全策の考え方です。それに対し目の細かいフィルターによるアプローチ(fine-filter approach)は、特定の保全対象への個別の保全策を指します。

 

(本研究は2020年12月に Applied Vegetation Science で公表されました。)

 

写真:長野県霧ヶ峰高原に設置された電気防鹿柵

写真:長野県霧ヶ峰高原に設置された電気防鹿柵(上)および生育する植物種の例(下)

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