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クロマツは細根の分布を変えて滞水ストレスを回避する

2021年5月11日掲載

論文名

Different Waterlogging Depths Affect Spatial Distribution of Fine Root Growth for Pinus thunbergii Seedlings(クロマツ苗木の細根成長の空間分布は滞水の深さに応じて変化する)

著者(所属)

藤田 早紀(東京大学)、野口 享太郎(東北支所)、丹下 健(東京大学)

掲載誌

Frontiers in Plant Science, 12, 614764, March 2021 DOI:10.3389/fpls.2021.614764(外部サイトへリンク)

内容紹介

斜面崩壊の防止や津波災害の軽減など、樹木根系の持つ防災・減災機能が注目されています。そのため、震災後の海岸林における再植林では、根系を発達させるために盛土にクロマツ苗木を植栽してきました。しかし、重機の走行に伴う締め固めにより、排水不良で滞水する盛土が一部で見られ、苗木の成長に対する影響が懸念されています。

そこで本研究では、水位の異なる滞水に対するクロマツ苗木の応答について調べました(写真)。ポットに植えたクロマツ苗木を、1) 排水の良い状態(通常区)、2) 根系の下半分が水に浸かった状態(部分滞水区)、3) 根系全体が水に浸かった状態(全滞水区)で2ヶ月間にわたり生育させた結果、全滞水区では根の成長が通常区の20%まで低下しました。一方、部分滞水区における根の成長は、滞水したポットの下半分では通常区の50%まで低下しましたが、滞水の無い上半分では3.5倍に増加しました(図1)。また、これらの苗木による吸水量を測定した結果、全滞水区では通常区の10%以下まで低下しましたが、部分滞水区では、一時は通常区の50%まで低下した吸水量が、8週間後には通常区と同程度まで回復しました(図2)。

これらの結果は、根の一部が水の外に出ていれば、クロマツの苗木は根の分布を変化させることにより生育できることを示唆しており、滞水しやすい場所にクロマツ苗木を植栽する場合には、水位を下げる処置をとることが重要と考えられます。

(本研究は、Frontiers in Plant Scienceにおいて2021年3月にオンライン公表されました。)

 

写真1:全滞水区と部分滞水区の水位について

写真:全滞水区と部分滞水区の水位について(写真は部分滞水区のポット)。全滞水区ではポットの排水口をゴム栓でふさぎ、水位を地表面に維持してポット全体を滞水させた(赤線)。部分滞水区では排水口に接続したホースの先端から水をオーバーフローさせることにより、ポットの下半分のみを滞水させた(黄色線)。


図1:滞水処理期間中に成長した根の量

図1:滞水処理期間中に成長した根の量。各処理区の左側の棒がポット上部、右側の棒がポット下部における根の成長量を示す。処理により滞水した部分のデータを水色で示した。滞水した部分の根の成長は通常区と比べて著しく抑制されたが、部分滞水区では、滞水していないポットの上部で根の成長量が増加した。異なるアルファベットは、ポット上部、下部のそれぞれにおいて、処理区間で有意な差があることを示す。

 

図2:クロマツ苗木の吸水量に対する滞水処理の影響

図2:クロマツ苗木の吸水量に対する滞水処理の影響。全滞水区における吸水量は通常区の10%以下に低下した。部分滞水区では、滞水処理を開始して4週間後に通常区の50%まで低下した吸水量が8週間後には回復した。異なるアルファベットは、各測定時において処理区間に有意な差があることを示す。

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