研究紹介 > 研究成果 > 研究成果 2021年紹介分 > 太い幹の内部でミネラルが半径方向に移動する実態を立木の実験で解明
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2021年5月11日掲載
論文名 |
In planta analysis of the radial movement of minerals from inside to outside in the trunks of standing Japanese cedar (Cryptomeria japonica D. Don) trees at the cellular level(スギ立木樹幹の内側から外側へのミネラル放射方向移動の細胞レベルの植物内解析) |
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著者(所属) |
黒田 克史(木材加工・特性研究領域)、山根 健一(森林総研非常勤職員)、伊藤 優子(立地環境研究領域) |
掲載誌 |
Forests, 12, 251, February 2021 DOI:10.3390/f12020251(外部サイトへリンク) |
内容紹介 |
ミネラルは土壌から水とともに吸収され、樹木全体に運搬されます。幹の半径方向(注1)にも輸送されると言われていますが、太い幹の場合は実験が難しいため実態は解明されていませんでした。そこで私たちは立木の状態をできるだけ維持する方法でスギの太い幹の半径方向のミネラル移動を細胞レベルで調べました(図)。 セシウム(注2)を辺材の外側に注入すると、生きている放射柔細胞内を通る早い移動と細胞壁や仮道管内を通る遅い拡散移動により、心材まで移動することが前報*の実験で分かりました。では逆方向の動きはどうでしょうか。辺材の内側に注入したセシウムは辺材の外側に移動しました。ところが、心材に注入したセシウムは辺材には移動しませんでした。 ミネラルは辺材内ではどちらの方向にも移動できるので、樹木はミネラルを辺材内の生きた細胞に貯めて春の成長に利用します。一方、心材にはなぜか高濃度のミネラルが含まれますが(注3)、辺材と心材の間の移動が心材方向への一方通行であることが原因と考えられます。心材形成は植物の中で樹木だけに見られる現象で、長寿命のために必要と考えられています。今後この一方通行のメカニズムなど謎が多い心材の形成機構を解明できれば、樹木が高く・太く・永く成長できる秘訣に迫れそうです。 この研究のきっかけは原発事故で放射能汚染された樹木の調査でした。なぜ、樹木の中まで汚染されるのか?今回の成果が、そのメカニズムの解明と森林域の放射能汚染の将来予測に役立つことを期待しています。
*前報 Radial Movement of Minerals in the Trunks of Standing Japanese Cedar (Cryptomeria japonica D. Don) Trees in Summer by Tracer Analysis Forests, 11, 562, 2020 DOI:10.3390/f11050562(外部サイトへリンク)
(注)語句説明 1.半径方向:幹の中央部(心材)と樹皮を結ぶ方向(図(c)参照)。心材は、中央の濃色の部分ですべて死んだ細胞で出来ており、辺材は、心材を取り囲む淡色の部分で生きた細胞が存在します(図(d)参照)。 2.セシウム:アルカリ金属元素の一つ。ミネラルの移動部位を追跡する標識として、放射性ではないセシウムを用いました。 3.心材の成分:心材は高濃度のミネラルと心材成分と呼ばれる化学成分を含みます。成分の種類や濃度は樹種により異なるため樹種特有の色や匂いになります。材の腐りにくさもこれらの成分のおかげです。
(本研究は、Forestsにおいて2021年2月にオンライン公表されました。)
図:立木の状態をできるだけ維持した実験
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