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2021年5月21日掲載
論文名 |
Seasonal variations in carbon dioxide exchange fluxes at a taiga–tundra boundary ecosystem in Northeastern Siberia(北東シベリアのタイガ・ツンドラ境界域におけるCO2フラックスの季節変動) |
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著者(所属) |
鄭 峻介(森林管理研究領域)、両角 友喜(北海道大学)、小谷 亜由美(名古屋大学)、鷹野 真也・杉本 敦子(北海道大学)、宮崎 真(株式会社ソニック)、新宮原 諒(名古屋大学)、Rong Fan(北海道大学)、Roman Petrov・Egor Starostin(ロシア科学アカデミー寒冷圏生物学研究所)、Ruslan Shakhmatov・Aleksandr Nogovitcyn(北海道大学)、Trofim Maximov(ロシア科学アカデミー寒冷圏生物学研究所) |
掲載誌 |
Polar Science 2021年2月 DOI:10.1016/j.polar.2021.100644(外部サイトへリンク) |
内容紹介 |
北極域では、地球温暖化による気温上昇率が全球平均の2~3倍大きく、陸域生態系への大きな影響が危惧されています。しかし、その立地環境からアクセスが困難であり、観測研究が限られているため、生態系の現状や温暖化の影響は明らかになっていません。本研究では、とりわけ観測の空白地帯となっている、北東ロシアの永久凍土上のタイガ・ツンドラ注1)境界域を対象として、生態系CO2収支の季節変化と気象条件との関係を調べました。森林微気象学的手法注2)を用いて(写真1)、生態系が春から秋にかけて大気から吸収する正味のCO2量(光合成による吸収量-呼吸による放出量)を計測した結果、39.4(20.2-60.1)gCm-2と見積もられ、凍土表層の土壌が融解している春から秋までの期間、本生態系がCO2の吸収源として機能していることが明らかとなりました。また、春先の土壌融解が早く、夏から秋にかけての光合成有効放射量注3)が高い(雲が少なく晴れた日が多い)年に、正味のCO2吸収量が増加することも分かりました(図1)。温暖化がさらに進行すると正味のCO2吸収量は増加することが予測され、温暖化に対する負のフィードバック効果注4)も期待されます。本成果は、これまでの観測空白域を埋め、地球規模での温室効果ガスの動態を把握する上での重要な知見となることが期待されます。
注1) 永久凍土とは、2年間以上にわたって温度0℃以下の土壌や地盤で、シベリア、グリーンランド、アラスカ、カナダ北部などに広く分布する。タイガとは、ユーラシア大陸、北アメリカ大陸の北部(亜寒帯)に発達する針葉樹林のことである。ツンドラとは北極海沿岸の寒帯地域に広がる、コケや草、矮性のヤナギなど丈の低い植物が優占する生態系のことである。 注2) 森林微気象学的手法:森林生態系と大気間のCO2移動量を、森林上空のCO2濃度と風速から推定する手法 注3) 光合成有効放射量:太陽光のうち、植物が光合成に利用する光の量 注4) 負のフィードバック効果:何らかの原因で、ある変化が起きたとき、その変化を弱める作用がはたらくこと
(本研究は、Polar Scienceにおいて、2021年2月にオンライン公表されました。)
写真1:タイガ・ツンドラ境界域でのCO2フラックス観測の風景
図1:正味のCO2吸収量に対する気象要素の季節ごとの影響。 春から夏の地温が高く、夏から秋の光合成有効放射量が高い(雲が少なく晴れた日が多い)と正味のCO2吸収量が大きくなることが分かる。本図では、正味のCO2吸収量への影響が統計的に有意であった季節の気象要素のみプロットしている。 |
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