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野生きのこ・山菜の放射性セシウム濃度は種や採取地に影響される

2022年3月25日掲載

論文名

Effects of species and geo-information on the 137Cs concentrations in edible wild mushrooms and plants collected by residents after the Fukushima nuclear accident  (福島原発事故後に採取された野生きのこ・山菜のセシウム137濃度におよぼす種や地理情報の影響)

著者(所属)

小松 雅史(きのこ・森林微生物研究領域)、橋本 昌司(立地環境研究領域)、松浦 俊也(東北支所)

掲載誌

Scientific Reports、11、22470 2021年11月 DOI:10.1038/s41598-021-01816-z(外部サイトへリンク)

内容紹介

2011年3月の福島第一原発事故から10年が経過しましたが、野生きのこや山菜の放射性セシウム濃度が依然高い地域も残されており、広い範囲で出荷制限がされるなどその影響は続いています。また放射性セシウム濃度が高い野生きのこや山菜を自家消費することによる内部被ばくの懸念もあることから、種や採取地点による濃度の違いを把握することは重要です。

そこで筆者らは福島県川内村が行った、地域居住者が採取し持ち込んだ野生きのこや山菜の放射能測定検査の結果に着目しました。村が実施した検査結果を提供してもらい、種、採取日、採取地が放射性セシウム(セシウム137)濃度に及ぼす影響を解析しました。その結果、野生きのこの種ごとの濃度傾向は既往研究の濃度傾向と高い相関を示し、種の濃度特性は採取地によらず共通であること、また山菜の濃度傾向も野生きのこと同様に種によって100倍程度ばらつくことがわかりました。さらに時間経過による濃度変化傾向を見ると、増加傾向にある種、減少傾向にある種など、種によって増減の傾向が異なることが分かりました(図)。村内の小字の位置情報を考慮したモデルを用いて解析した結果は、位置情報を考慮しない場合より濃度の誤差が40%減少していました。このことから、詳細な位置情報を含めることにより、濃度の推定精度が向上することがわかりました。

こうした結果は、今後の野生きのこ・山菜の出荷制限を検討する際に参考となることに加え、地域内でこれらの食品を自家利用する際にも役立ちます。また、自らが採取した試料の検査結果を採取者にフィードバックすることで、採取活動の励みになることが期待されます。

(本研究は、2021年11月にScientific Reportsにおいてオンライン公表されました。)

 

図:きのこ・山菜の区分ごとに示した種の濃度特性値(左)とセシウム137濃度の年変化率(右)
図:(左)きのこ・山菜の区分ごとに示した種の濃度特性値(正規化セシウム137濃度)。
グラフでは、きのこを菌根菌(樹木と共生するきのこ)と腐生菌(枯れ木や落ち葉を分解するきのこ)の2つの区分に分けて表示しています。正規化セシウム137濃度とは、きのこや山菜の放射性セシウム137濃度(Bq/kg)を、採取した地点における面積あたりのセシウム137沈着量(Bq/m2)で割った値であり、種ごとのセシウム137の吸いやすさを表します。同一区分内でも種ごとに正規化セシウム137濃度に差はありますが、菌根菌は腐生菌よりも高い傾向があります。また、山菜はきのこよりも正規化セシウム137濃度が低い傾向があります。ただし、コシアブラは山菜のなかでも特別に高い値を示しました。

(右)セシウム137濃度の年変化率。
年変化率が1よりも大きい種は濃度が増加する傾向があり、1より小さい種は減少する傾向があることを示しています。菌根菌には増加傾向のものと減少傾向のものの両方が含まれており、特にコウタケの濃度は顕著に増加傾向であることが示されました。一方、腐生菌や山菜の放射性セシウム濃度は減少傾向にあることを示しています。

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【研究担当者】
森林総合研究所 きのこ・森林微生物研究領域 小松 雅史
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