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スギの大木が埋もれた魚津埋没林の直下に存在したもう一つの埋没林

掲載日:2022年6月27日

スギ原生林を主体とする特別天然記念物「魚津埋没林」(富山県)の直下に広葉樹を主体とした別の埋没林が存在していたことが堆積物の分析で分かりました。その後に河川の流路が変化し、湿地が形成されるようになってスギ原生林が生育したと推定されます。気候変動による森林変遷の一端を示すもので、将来の森林分布を予測するためにも役立つ発見です。

研究グループは、魚津埋没林の直下から採取した堆積物に含まれる花粉と木片の種類や個数を分析しました(図)。

その結果、コナラ属アカガシ亜属(写真左)の花粉が多く、約3300~2400年前にはアカガシ亜属、コナラ亜属などからなる広葉樹林が広がっていたことが明らかになりました。また、アカガシ亜属の木片も複数発見されたことから、魚津埋没林の直下に広葉樹主体の埋没林が存在していたと考えられました。さらに、魚津埋没林の確認地点から採取した堆積物も分析したところ、スギ花粉(写真右)が多く、約1400年前にスギ原生林が広がっており、その後埋没したものが魚津埋没林であると考えられます。

魚津埋没林…スギ原生林が河川氾濫による土砂で埋まり、その後の海面上昇で海中に没し、風化せずに残ったと考えられていますが、まだ詳しい成因はわかっていません。1930年、魚津港改修の際に海底で発見され、55年に特別天然記念物に指定されました。

(本研究は、2022年3月に情報考古学において公表されました。)

写真:アカガシ亜属花粉とスギ花粉の光学顕微鏡写真

写真:堆積物から抽出されたアカガシ亜属花粉(左)とスギ花粉(右)の光学顕微鏡写真。
黒色のスケールは20μmを示す。
 

図:花粉産出割合の変化が示す魚津埋没林における森林の主要構成分類群の変遷

図:花粉産出割合の変化が示す魚津埋没林における森林の主要構成分類群の変遷。
縦軸の年代は放射性炭素測定による年代値(年前)を示し、横軸は木本花粉を100%とした場合の各分類群の産出割合を示す。おおよそ1400年前にコナラ亜属アカガシ亜属が主に優占する広葉樹林からスギ林が優占したことがわかる。各深度から出土した木片の鑑定結果を右端に示しており、アカガシ亜属が3深度から出土したことを示している。

 

  • 論文名
    特別天然記念物魚津埋没林の堆積物における花粉および磁性分析に基づく縄文時代後期以降の植生変遷
  • 著者名(所属)
    志知 幸治(四国支所)、酒井 英男(富山大学)、卜部 厚志(新潟大学)、麻柄 一志(魚津歴史民俗博物館)、能城 修一(明治大学)
  • 掲載誌
    情報考古学、27巻、11-21、日本情報考古学会、2022年3月
  • 研究推進責任者
    研究ディレクター 平田 泰雅
  • 研究担当者
    四国支所 志知 幸治

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