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カンボジアの森林減少で困窮する天然樹脂採取住民の分布予測

掲載日:2023年8月28日

森林減少や違法伐採の影響を受けやすい天然樹脂採取世帯の分布を予測する手法を開発しました。この方法は特定地域にとどまらず、森林減少・劣化による生活困窮住民の救済や違法伐採の予防が早急に必要な地域選定にも活用できます。

カンボジアにはフタバガキ科1) 樹木から採れる天然樹脂を含む非木材林産物(NTFPs)2) の採取で生計を維持する住民が多くいますが、森林減少や違法伐採にさらされています。今回、プレイロング野生生物保護区3) 周辺(図1)に住む404世帯を対象に、2014年と2016年の職業、NTFPs採取の場所と種類、採取しやすさの変化とその原因などを調査しました。調査データを一般化線形混合モデル4) とクリギング5) の手法で解析することで、森林減少や違法択伐の影響を受けた世帯が存在する確率が高い村の分布図(図2)や今後NTFPsを持続的に採取するため森林管理を優先すべき地域の予測図が作成できました。モデル解析からは、2014年に天然樹脂を採集していた世帯の割合が高い村ほど、また保護区に近い村ほど、影響を受けた世帯が存在する確率が高いことがわかりました。

この地域での森林減少と違法伐採に起因する天然樹脂からの収入激減は、それを補う住民の新たな違法伐採や農地転用による森林減少・劣化の悪循環につながります。こうした悪循環を断ち切るため、天然樹脂採取世帯に対する早急な救済措置や違法伐採予防策が必要で、この成果は基礎となる世帯の分布把握に役立ちます。

1) フタバガキ科(Dipterocarpaceae):多くの種類の高木で構成されているフタバガキ科の樹木は、東南アジアを中心に分布し木材や樹脂を生産することで知られています。

2) 非木材林産物(Non-timber forest products, NTFPs):木材以外の林産物であり、食用、燃料利用、薬用、衣料・染料、工作用など幅広い目的に利用されている林産物の総称です。

3) プレイロング野生生物保護区(Prey Lang Wildlife Sanctuary):2016年に設立されたKampong Thom州、Stung Treng州、Kratie州、Preah Vihear州の4州にまたがる431,683haの野生生物保護区。同保護区内およびその周辺では、森林減少や森林劣化による温室効果ガスの排出を削減し、地球規模の気候変動を緩和するためのプロジェクトであるREDD+(レッドプラス)プロジェクトも実施されています(図1)。保護区内での地元住民が生計を維持するためのNTFPsの採取は、行政当局の事前同意があり、採取による生物多様性への影響が考慮されていることを条件に合法とされています。

4) 一般化線形混合モデル(Generalized Linear Mixed Model):連続的な数値だけでなくカテゴリカルな情報からなる応答変数にも対応できる統計モデルであり、観察データが複数の場所や条件に分かれており、それらのグループがデータのばらつきや相関に影響を与える場合にも適用されます。

5) クリギング(Kriging):空間上の近い地点同士は一般に相関が強いという特性を利用し、サンプル地点での既知の値に基づいて未観測地点の値を推定する地球統計学的な手法です。

(本研究は、Land Use Policyにおいて2023年8月にオンライン公表されました。)

 

図1:調査地とプレイロング野生生物保護区の位置

 ※ 図をクリックすると拡大画像が開きます(PDF:607KB)

図1:調査地とプレイロング野生生物保護区の位置

図2:森林減少の位置と影響を受けた世帯が存在すると予測された村・集落の分布
 ※ 図をクリックすると拡大画像が開きます(PDF:762KB)

図2:2014–2016年間に発生した森林減少の位置と、その間に天然樹脂採取において森林減少や違法伐採の影響を受けた世帯が存在すると予測された村/集落の分布(円の大きさは、予測確率の高さを示す)

 

  • 論文名
    Where do people vulnerable to deforestation live? Triaging forest conservation interventions for sustainable non-timber forest products(森林減少に脆弱な人々はどこに住んでいるのか?サステイナブルな非木材林産物のための森林保全策の優先順位付け)
  • 著者名(所属)
    江原 誠(生物多様性・気候変動研究拠点)、松浦 俊也(東北支所)、GONG Hao(筑波大学)、SOKH Heng(カンボジア森林局)、LENG Chivin(カンボジア環境省)、CHOEUNG Hong Narith・SEM Rida(カンボジア森林局)、野村 久子(九州大学)、津山 幾太郎(北海道支所)、松井 哲哉(生物多様性・気候変動研究拠点)、百村 帝彦(九州大学)
  • 掲載誌
    Land Use Policy, 131, 106637, 2023年8月 DOI:10.1016/j.landusepol.2023.106637(外部サイトへリンク)
  • 研究推進責任者
    研究ディレクター 平井 敬三
  • 研究担当者
    生物多様性・気候変動研究拠点 江原 誠

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