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掲載日:2023年10月16日
ブナ科の樹種には、年によってドングリの量が大きく変動する豊凶現象を示すものがあります。豊凶と樹体内の炭素・窒素・リンの樹体内貯蔵量との関係を調べたところ、豊凶を左右する元素が種によって異なることが分かりました。クマ被害拡大の一因として知られているドングリの不作を正確に予測するための手がかりとなる成果です。
ブナ科では種によって繁殖に関わる特徴が異なります。例えば、花粉についてはブナやコナラでは風によって、クリやスダジイでは花の蜜に誘われた虫によって運ばれます。また、種子の成熟は、アラカシでは開花した年に終わりますが、マテバシイでは翌年に持ち越されます。このような多様な繁殖様式を持つブナ科樹木のうち、春に開花してその年の秋に実が生るクリ、アラカシ、コナラ、ナラガシワ、イチイガシ、ブナを対象として、ドングリの豊凶と、開花と結実に利用される炭素・窒素・リンの樹体内の貯蔵量との関係を「資源収支モデル」*1) で比較しました(図)。
その結果、豊凶の変動が大きいブナでは樹体内の窒素不足がドングリの不作と関係していることが明らかになりました。コナラでは、炭素・窒素・リンのどれか1つでも不足すれば不作になると考えられました。豊凶の変動が小さい常緑樹のアラカシでは、いずれの資源量も豊凶との関係はみられませんでした。さらに、動物の捕食から果実を守る手段となる果皮について、その厚さと「総フェノール類」*2) の量との間に負の相関関係があることも分かりました。
*1) 資源収支モデル:植物は光合成などで得た「資源」を毎年の成長に使い、あまった分を貯蔵する。貯蔵量があるしきい値を超えると、その分を花や種子に振り分けて開花や結実をもたらすとする仮説。1990年代に開発された。
*2) 総フェノール類:昆虫や動物に食べられないように光合成産物から作られる被食防御化合物。タンニン類やサポニン類が含まれる。
(本研究は、Ecological Researchにおいて2023年3月に公表されました。)
図:ドングリの豊凶に及ぼす炭素(C)、窒素(N)、リン(P)の資源量の影響。
資源収支モデルでは、Rcの値が1.0より大きいとその樹体内の貯蔵量の変動によって大きな豊凶が生じ、Rcの値が1.0以下であれば豊凶の差が少なく毎年結実する。
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