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屋久島暖温帯雨林の樹木種の成長と生存のトレード・オフは個体サイズや気候イベントで変化

掲載日:2023年11月1日

多様性の高い屋久島の暖温帯雨林(写真)に共存する45樹種において、種の形質(形態的・生理的特徴)が成長と生存のトレード・オフ1) に及ぼす効果は、樹木個体のサイズや気候イベントの頻度や強度といった環境条件によって左右されることがわかりました。この結果は、森林の動態を予測するためには、樹木センサスの長期データに環境条件の空間的・時間的な変動を取り入れることの重要性を示すものです。

共存する樹種間における成長と生存のトレード・オフは森林の樹木種多様性維持機構における重要な決定要因の一つであることが知られています。しかし、成長と生存のトレード・オフが種の形質や樹木の個体サイズや気候イベントとどのように関連しているかについては未解明の課題でした。そこで、多様性の高い屋久島の暖温帯雨林に設置された4ヘクタールの永久調査区における23年間の樹木センサス2) 記録に基づき、解析、検討しました。その結果、形質が成長と生存およびそのトレード・オフに及ぼす効果は個体サイズや気候イベント(強風の頻度、乾燥強度)といった環境条件に応じて異なっており(図)、形質を介した成長と生存のトレード・オフが環境条件に左右されることがわかりました。

1) 成長と生存のトレード・オフ:一方に投資すれば、他方を犠牲にせざるを得ない状況をトレード・オフと呼ぶ。森林では、共存する樹種間で成長と生存のトレード・オフが種の生活史戦略の違いと関連すると考えられている。例えば、共存する樹種には、資源が乏しい環境下で成長は遅いが生存率が高い種から、資源が豊富な環境下で成長は早いが生存率が低い種まで、様々な種が存在する。

2) 樹木センサス:森林の構造や動態を把握するために、一定の区画内の決められたサイズ以上の樹木を標識し、樹種、幹の直径などを繰り返し記録する調査が一般的であり、毎木調査とも呼ばれる。

本研究は、Journal of Ecologyにおいて2023年6月にオンライン公開されました。)

 

写真:屋久島の暖温帯雨林に設置された永久調査区
写真:多様性の高い屋久島の暖温帯雨林に設置された4ヘクタールの永久調査区

 

図:樹木個体の年間生存率と個体サイズの関係
図:樹木個体の年間生存率と個体サイズ(胸高直径)の関係は樹種特異的な形質(本図では材の形質について例示)に左右され、さらに調査期間によって変化することが明らかになった。1996-2003は強風が吹いた日数が他の2期間よりも少なくさらに他の2期間よりも湿潤だった。こういった気候イベントが、形質が生存率に与える効果の、調査期間による違いをもたらしたと考えられる。(掲載論文(DOI:10.1111/1365-2745.14146)の図2k-mを改変)

 

  • 論文名
    The trait-mediated trade-off between growth and survival depends on tree sizes and environmental conditions (形質を介した成長と生存のドレード・オフは樹木のサイズと環境条件によって変化する)
  • 著者名(所属)
    飯田 佳子(生物多様性・気候変動研究拠点)、新山 馨(森林植生研究領域)、相場 慎一郎(北海道大学)、黒川 紘子(森林植生研究領域)、近藤 駿太郎(横浜国立大学)、向井 真那(山梨大学)、森 章(東京大学)、齊藤 哲(企画部)、Yi SUN(国立台湾大学)、梅木 清(千葉大学)
  • 掲載誌
    Journal of Ecology、B.E.S. 2023年6月 DOI:10.1111/1365-2745.14146(外部サイトへリンク)
  • 研究推進責任者
    研究ディレクター 正木 隆
  • 研究担当者
    生物多様性・気候変動研究拠点 飯田 佳子

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