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掲載日:2023年12月1日
スギの花粉形成に関係すると予想された遺伝子(CjACOS5遺伝子)をゲノム編集技術で壊した結果、花粉を作らない無花粉スギになりました(写真)。CjACOS5遺伝子が花粉の形成に必要なことが明らかになり、人工的にスギを無花粉化できる技術の開発につながる発見です。
スギ花粉症対策の一つとして、無花粉スギ品種の開発や植林が期待されています。一方、花粉の形成に関する遺伝子が色々な植物で見つかっており、スギのCjACOS5遺伝子もその一つと予想されました。そこで、近年動物や植物のゲノム編集に広く使われているCRISPR/Cas9(クリスパー・キャスナイン)法1) を用いてCjACOS5遺伝子を壊してみることにしました。
CjACOS5遺伝子のDNA2) を切断するためのCRISPR/Cas9ベクター3) を設計してスギの細胞に導入し、遺伝子組換えスギを作りました。この細胞ではCRISPR/Cas9タンパク質複合体が作られてCjACOS5遺伝子が切断されると予想されましたが(図)、実際にCjACOS5遺伝子に欠失変異4) が起こっていることが確認され、目論見通りCjACOS5遺伝子が壊れた(=CjACOS5遺伝子が編集された)ゲノム編集スギとなっていました。このゲノム編集スギの細胞を不定胚に誘導し、それを苗木の大きさまで育てた後、3年間毎年雄花を咲かせ5) 、いずれの年も無花粉であることを確認しました。
1) CRISPR/Cas9(クリスパー・キャスナイン):ガイドRNAとCas9タンパク質が組み合わされた複合体で、ガイドRNAによく似たDNAに結合してDNAを切断する。切断されたDNAには変異が起こる。ガイドRNAを上手く設計することにより、狙ったDNAのみを切断することができる。
2) DNA:遺伝子の本体となる化学物質であり、DNAの成分である塩基(A・G・C・T)の並び方(配列)で、遺伝子の機能や性質(遺伝情報)が決まる。一方、RNAは塩基(A・G・C・U)から成るDNAに類似の化学物質である。
3) CRISPR/Cas9ベクター:ガイドRNAやCas9タンパク質の遺伝子を載せた遺伝子組換え用のDNA。スギの細胞に入れると、細胞内のDNAの中に組み込まれ(遺伝子組換え)、ガイドRNAやCas9タンパク質を作り出す。
4) 変異:DNAの配列が変化すること。DNAの塩基の一部が無くなる(欠失変異)、別の塩基が入り込む(挿入変異)、違う塩基に置き換わる(置換変異)など色々な変異の種類がある。
5) スギの細胞にCRISPR/Cas9ベクターを導入し、2年後には樹高約20cmのゲノム編集スギの苗が出来た。スギの幼苗は花が咲かないので、強制的に雄花を咲かせるため、7月~8月に植物ホルモンのジベレリンを散布すると、翌年1月には雄花が着花する。
(本研究は、Scientific Reportsにおいて2023年7月に公開されました。)
写真:普通のスギとCjACOS5遺伝子を壊したゲノム編集スギとの比較
普通のスギの雄花(左上)には花粉が詰まっています。顕微鏡で見ると球形の花粉が見えます(右上、赤紫色に染色)。ゲノム編集スギの雄花には花粉が無く(左下)、顕微鏡下でも花粉は見当たりません(右下)。
図:研究の概要
CjACOS5遺伝子を切断するために、CRISPR/Cas9タンパク質複合体の遺伝子を持った遺伝子組換えスギを作りました。CRISPR/Cas9によってCjACOS5遺伝子が壊れた遺伝子組換えスギ(ゲノム編集スギ)は無花粉になりました。この結果はCjACOS5遺伝子が花粉を作るために必要であることを示しています。
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