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熱帯林の土壌の炭素と窒素の動きには異なる要因が関与 -安定同位体分析から明らかに-

掲載日:2023年12月11日

熱帯林では、有機物が土壌に蓄積する過程において、有機物を構成する炭素と窒素の動きに強く影響する要因がそれぞれ異なることを、炭素・窒素の安定同位体比*) 分析から明らかにしました。土壌の有機物は地球温暖化を緩和する炭素蓄積にかかわる重要な要因であり、本成果は東南アジアにおいて炭素蓄積のより高い森林造成の目標を定める知見となります。

熱帯地域では、落葉落枝、枯死した材や根など植物由来の炭素は土壌有機物として地中に長く留まり地球温暖化を緩和する、極めて重要な地域資源です。熱帯には通年で雨が多い地域と乾季のある地域があり、それぞれ熱帯雨林と熱帯季節林と呼ばれる森林が分布しています。今回、乾季を含む熱帯地域で土壌有機物が蓄積する過程に関わる要因とその働きを明らかにするため、その骨格である炭素と窒素の動きを解析しました。さらにそれぞれの安定同位体比の土壌中の変化が、各元素の循環速度や分解段階の指標となることに着目し、土壌有機物蓄積にかかわる関連因子と、土壌の炭素・窒素安定同位体比との関係を検討しました。

カンボジアの8地域の森林から得た落葉と深さ別の土壌試料の炭素・窒素安定同位体比を分析した結果、炭素については森林の生体の大きさや、地表の枯死植物体の分解度など主に植物に由来する要因が関わっており、温帯などの他地域の森林と似た傾向を示しました。一方窒素については乾季の常緑・落葉性という森林タイプ、降水量の違い、主に鉄やアルミの酸化物からなる土壌鉱物組成など、乾季を含む熱帯地域に特徴的な要因が関わっていました。さらに両者に共通して土壌酸度(pH)が重要であることが分かりました(図1)。このように土壌有機物の蓄積過程で、炭素と窒素では異なる要因が働くことが示されました。今回の知見は、熱帯林の土壌有機物が蓄積する過程に関わる多くの要因を、炭素・窒素に分けることで、各々の森林でどの要因が土壌有機物の蓄積を規定するか、理解するための基礎情報として有効です。それにより、熱帯での人工林造成の際、対象地域の関連因子の把握を通じて、土壌有機物をためる目標水準を適切に設定し、温暖化緩和に役立つ森づくりをサポートします。

*) 安定同位体比:原子番号(陽子数)が同じで質量(陽子数+中性子数)が異なる「同位体」のうち、放射性崩壊せず一定の比率で自然界に存在するものを「安定同位体」と呼びます。その比率は土壌有機物の由来となる植物種の違いや、土壌有機物を生成する環境によって変化することから、本研究ではこれを利用して土壌有機物の蓄積した過程を推定しました。今回は炭素と窒素の安定同位体(12Cと13C、および14Nと15N)の比率を調べています。

本研究は、Plant and Soilにおいて、2023年5月に公開されました。)

図1:熱帯林の土壌有機物を構成する炭素と窒素の動きに関わる要因
図1:熱帯林の土壌有機物を構成する炭素と窒素の動きに関わる要因
炭素(青色)と窒素(橙色)の安定同位体比の土壌中の変化が、それぞれの元素の循環速度と分解段階の指標となる。プラスは正の要因、マイナスは負の要因を示す。この中で土壌酸度が炭素と窒素に共通して作用する。

 

  • 論文名
    Patterns of δ13C and δ15N in soil profiles under seasonally dry evergreen and deciduous tropical forests(季節熱帯の常緑・落葉林の土壌プロファイルにおけるδ13C とδ15N のパターン)
  • 著者名(所属)
    鳥山 淳平(九州支所)、今矢 明宏(立地環境研究領域)、小田 あゆみ(信州大学)、森 大喜(九州支所)、HAK Mao(カンボジア環境省)
  • 掲載誌
    Plant and Soil、489、681-696、2023年5月 DOI:10.1007/s11104-023-06055-x(外部サイトへリンク)
  • 研究推進責任者
    研究ディレクター 平井 敬三
  • 研究担当者
    九州支所 鳥山 淳平

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