研究紹介 > 研究成果 > 研究成果 2025年紹介分 > 木材に含まれるカリウムの濃度を迅速に推定する
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掲載日:2025年5月14日
福島第一原発事故に伴う放射性セシウム汚染により、福島県におけるきのこ原木の生産は大きな打撃を受けました。ここで木材には、セシウムと同じアルカリ金属であるカリウムも含まれており、木材中のカリウムの濃度が高いほど、木材からきのこへの放射性セシウムの移行が抑えられることが知られています。この度、私たちの研究グループは、木材中のカリウムの濃度を迅速に推定する方法を開発しました。原木生産において、きのこへの放射性セシウム移行量の推定やリスク管理を行う上での、たいへん重要な基礎技術です。
従来、木材中のカリウム濃度を測定する際は、木材から切り出した木片のサンプルを、細かく粉砕し、酸で分解してから、その分解液を大型の分析機器(1)にて測定する、という複雑な手順が必要でした。ここで私たちは、より簡易な手法として、危険を伴う酸分解不要で使用でき、さらに持ち運びをすることができる、小型の蛍光X線分析装置に注目しました。森林総合研究所が保有する日本全国で採取された木材標本を活用し、代表的なきのこ原木であるコナラの辺材(2)について、切り出した木片、もしくは粉砕した木粉の状態のサンプルに対して、携帯型蛍光X線分析装置による測定を行い、カリウム濃度が推定できるかを検討しました。
その結果、携帯型蛍光X線分析装置によって得られたカリウム濃度は、従来の方法によって得られた濃度と良い線形関係を示し、カリウム濃度の推定にこの簡易な手法を適用できることが明らかになりました。測定時間については、従来の方法では、一連の手順で1週間程度かかっていましたが、サンプル1点当たり20分程度にまで短縮することができました。
また関連して、本研究では、カリウム以外の無機元素(カルシウム・ストロンチウムなど)についても、標本中の濃度の変動幅の算出や回帰式の検証を行いました。木材の化学組成に関する基礎データとしても、どうぞご活用ください。
(1)原子吸光分光光度計、誘導結合プラズマ質量分析装置(ICP-MS)など
(2)樹皮に近い部分の木材。きのこ栽培において、菌糸が伸長する部位
(本研究は、IAWA Journalにおいて2025年3月に公開されました。)
図1. 携帯型蛍光X線分析装置による測定のイメージ
図2. 携帯型蛍光X線分析装置と従来の方法によって得られたカリウム濃度の比較。点線は回帰直線を表す
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