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平成25年2月5日

 

広葉樹をマツタケの宿主にすることに成功

森林総合研究所は、針葉樹のマツ類以外の樹木をマツタケの宿主とすることに成功しました。マツタケは、宿主である針葉樹のマツの根に感染し、共生関係を結ぶことでその根から栄養をもらって生育します。このため、マツタケ栽培化試験ではこれまでアカマツが宿主に用いられてきましたが、栽培化は成功していません。私たちは、「マツタケはマツ類の樹木としか共生しないのか?」、「アカマツよりも容易に共生する樹木はないのか?」などの疑問を持ち、実験室内で培養がしやすい樹木で宿主になる植物を探した結果、熱帯産の広葉樹セドロが適していることがわかりました。本発見は、マツタケ栽培化研究に全く新しいアプローチを開拓したもので、今後も栽培化に向けた研究を継続していきます。

研究の背景

マツタケはマツ類の根から栄養をもらって生育します。木材を分解して生育するシイタケなどとは違い、生きている樹木の根に共生することが必要です。菌糸はマツの根の表面を被って共生し、「菌根」と呼ばれる共生器官を作って生きています。マツタケは、この菌根から林地に菌糸を広げ「シロ」と呼ばれる塊状の菌糸の集団をつくり、そこから子実体(きのこ)を発生させます。このような条件を人工的に作り出すことは難しいため、これまでマツタケの栽培はできませんでした。一方、マツタケを生産していた里山は、手入れ不足やマツ材線虫病の発生などにより衰退が進み、国産マツタケの生産量は激減しています。このような現状から、マツタケの人工栽培化の技術が根強く望まれています。

これまで、本来の宿主植物であるアカマツを用いたマツタケ栽培が試みられてきましたが、成功しませんでした。私たちは、「マツタケはマツ類の樹木にしか共生しないのか?」、「アカマツよりも容易に共生する樹木はないのか?」などの疑問を持ち、実験室内で培養がしやすい樹木で宿主になる植物を探しました。

研究の成果

実験室内で培養しやすい樹木を対象に調べたところ、熱帯産のセドロ(Cedrela odorata)がマツタケの宿主に適していることがわかりました。セドロは中南米に生育する広葉樹で、高級木材として利用されるマホガニーと同じセンダン科の樹木です。今回、セドロの無菌苗を宿主に用いてマツタケ菌根とシロの形成に成功しました。セドロ-マツタケ菌糸でできたシロは、アカマツ-マツタケ菌糸のシロと同様の菌糸塊で、マツタケのシロ独特の芳香を発します(図1)。菌との共生が成立したセドロは、良好に成長しました(図2)。本成果は、マツタケが広葉樹を宿主にできることを実証した、初めての報告です。また、マツ類は亜寒帯から温帯の植物ですが、マツタケが熱帯の植物と共生できるという点も新たな発見の一つです。

セドロの苗を使った主な理由は、実験室内で培養しやすく、容易に無菌苗を作ることができるためです。また、同じ親に由来するクローン苗を容易に使えるため、実験結果の再現性が高いのです。培地には、マツタケが好む花崗岩土壌(山砂)に最低限の栄養源を添加したものを用いました。この培地で、他の微生物がいない状態で約4ヶ月、一緒に培養し、シロを形成させることができました。  


図1:マツタケ菌が根に共生したセドロ-マツタケ感染苗の形態

 図1:マツタケ菌が根に共生したセドロ-マツタケ感染苗の形態 (大きな画像はこちら)(JPG:82KB)

 


 

図2:シロの形成に伴うセドロの成長量の変化

  図2:シロの形成に伴うセドロの成長量の比較
 セドロの無菌苗にマツタケ菌糸を接種し4ヶ月培養すると、無接種区に比べてセドロの成長量は顕著に増大しました。

今後の予定・期待

本成果は、マツタケは自然界で共生するマツ類以外の樹種でも宿主となる可能性があることを示し、マツ類以外の樹種を用いてもマツタケの栽培化の可能性があることを示唆しています。ただちにセドロからマツタケができるわけではありませんが、今後はさらに栽培化に最適な国内産樹種を見いだし、マツタケ栽培化研究に新たな道を切り開きたいと考えています。

詳しくは下記の公表論文をご覧ください。
Hitoshi Murata, Akiyoshi Yamada, Tsuyoshi Maruyama, Naoki Endo, Kohei Yamamoto, Tatsuro Ohira, Tomoko Shimokawa
    Root endophyte interaction between ectomycorrhizal basidiomycete Tricholoma matsutake and arbuscular mycorrhizal tree Cedrela odorata, allowing in vitro synthesis of rhizospheric ‘shiro.
   
MycorrhizaDOI:10.1007/s00572-012-0466-7(外部サイトへリンク)

用語の解説

宿主:菌類などの寄生または共生の対象となる生物

菌根:植物(樹木)で見られる菌類との共生形態。菌類の菌糸が植物の根の内部に侵入し共生する。マツタケなどきのこの菌根菌は、菌糸が根の内部に侵入するだけでなく、根の表面も被う。

シロ:菌糸の塊状の集落。

セドロ:学名でCedrela odorataといい、熱帯樹木マホガニーと同じセンダン科の広葉樹。野外では内生菌根を形成する。 

 

 

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