研究紹介 > トピックス > プレスリリース > プレスリリース 2017年 > 福島第一原発事故後の森林内の放射性セシウムの動態を解明―5年間で樹木の葉や幹から土壌表層へ移動―
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2017年9月20日
国立研究開発法人 森林研究・整備機構 森林総合研究所
ポイント
国立研究開発法人 森林研究・整備機構 森林総合研究所は、福島県及び茨城県において、汚染程度の異なる9つの森林を対象に、葉、枝、樹皮、幹材、落葉層、鉱質土壌の放射性セシウムの濃度と蓄積量を調べました。その結果、森林内の放射性セシウムは、事故直後には樹木に多く付着していましたが、時間の経過とともに樹木から土壌に移動し、その多くは深さ5センチ以内の表層土壌にとどまっていることが明らかになりました。今回の研究結果は、福島原発事故後の森林内の放射性セシウムの動きを網羅的、長期的に解明した初めての成果であり、世界的にも貴重なデータです。今後この成果は、被災地の森林管理手法の検討や放射性物質の長期動態予測モデルの開発に利用されることが期待されます。 本研究成果は、2017年8月15日にScientific Reports誌でオンライン公開されました。
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福島原発事故によって森林内にもたらされた放射性物質は、森林整備の停滞や特用林産物の出荷制限、林業従事者の被ばくリスク上昇など様々な問題を引き起こしました。これらの問題の解決のためには、まず森林内における放射性セシウムの分布、濃度等の経年変化を把握することが重要となります。しかし、原発事故直後から数年間にわたり森林内の放射性セシウムの動態を網羅的かつ長期的に調査したデータは、我が国はもとよりチェルノブイリ原発事故においても得られていません。
福島県川内村、大玉村、只見町、茨城県筑波山のスギ林、ヒノキ林、コナラ林、アカマツ林の9林分に2011年8月に調査地を設けて、樹木の葉、枝、樹皮、幹材、それと落葉層や鉱質土壌に存在する放射性セシウムの濃度と蓄積量の変化を調べた結果(図1)、事故後5年間の森林内の放射性セシウムの分布と経年変化は、以下の通りでした。
このように、福島原発事故で森林にもたらされた放射性セシウムは時間の経過とともに樹木から土壌へ移動し、その多くは土壌の表層付近にとどまっていることが明らかになりました。
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図2 樹木の各部位の放射性セシウム濃度の経年変化 |
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図3 森林内のの放射性セシウム蓄積量の分布の経年変化 |
本研究は、2011年の福島原発事故後に森林内で放射性セシウムがどのように移動しているのかを明らかにしたものです。得られた知見は、今後の森林管理に利用されることが期待されます。また、森林内の放射性セシウムの移動を予測するモデルの構築や精度向上に活かされ、それによって特用林産物の出荷制限解除時期の推定、林業従事者や森林利用者の被ばく低減にも役立つと期待されます。放射性セシウム(セシウム137)の半減期は30年と長いため、引き続き森林内における放射性セシウムの観測を続けていくことが重要です。
タイトル:Temporal changes in the radiocesium distribution in forests over the five years after the Fukushima Daiichi Nuclear Power Plant accident(福島第一原発事故後5年間における森林内の放射性セシウム分布の経年変化)
著 者:今村直広(森林総合研究所(以下同じ)震災復興・放射性物質研究拠点PD)・小松雅史(きのこ・森林微生物研究領域)・大橋伸太(木材加工・特性研究領域)・橋本昌司(立地環境研究領域)・梶本卓也(東北支所)・金子真司(震災復興・放射性物質研究拠点)・高野勉(企画部)
掲 載 誌:Scientific Reports、7巻8179(2017年8月)(外部サイトへリンク)
研究費:林野庁受託事業「森林内における放射性物質実態把握調査事業(H24–28)」、森林総合研究所交付金プロジェクト「森林・林業・木材における放射線影響に関する基礎的研究」
お問い合わせ先 |
研究推進責任者:森林総合研究所 研究ディレクター 大丸 裕武 研究担当者:森林総合研究所 震災復興・放射性物質研究拠点 拠点長 金子真司 広報担当者:森林総合研究所 広報普及科 広報係 Tel:029-829-8372 E-mail:kouho@ffpri.affrc.go.jp |
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