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研究情報 No.3 (Feb. 1987)

巻頭言

ごあいさつ就任に際して

支場長安永朝海

12月1日付の辞令をいただいて、元日をはさんで慌しく2か月が経過しました。まだ戸惑いと不安の中にありますが、重責を果すべく微力を尽くす所存ですので、諸先輩をはじめ関係各位の御指導、御協力を切にお願い申し上げます。

さて、林業試験場では国として行うべき研究を効率的に推進するため、関西立場を含めて過去5か年有余にわたり、今日の厳しい林業情勢に対応して、研究目標・運営・組織の見直しを行ってきました。このうち、目標につきましては、支場等地域部門は、本場専門部の専門別研究の成果を受けた地域研究に主力を注ぐこととし、当支場では、4つの地域研究問題、すなわち「都市近郊林」、「アカマツ林帯のヒノキ林造成」、「先進林業技術移転」、「竹林業」(いずれも略称)を設け、研究に着手いたしました。

また運営につきましては、全場的には研究運営要綱・細則が決められ改善が図られつつありますが、当支場ではこれと平行して、この小冊子の創刊、研究発表会の開催など新しい試みや、標本展示室の整備にも取り組んで参りました。これからの地域研究推進のためには、地域の関係者の皆様との意志疎通、相互交流がますます重要になって来るとの考え方によるものです

組織体制の見直しについては、行革審関連の国立試験研究機関の整理合理化、見直し問題、科学技術会議分科会の13号答申の動き、林政客報告等極めて流動的な諸情勢の中で、残された大きな問題となっております。

このようなことから、10年先、更には21世紀に向けての林業試験場のあり方を決める上で、大変重要な時期と考えられます。前支場長同様、皆様のお力添えを賜わりますよう重ねてお願い申し上げます。

 

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研究紹介

大きく低下している林業の採算性

黒川泰亨

育林業の収益性の低下がいちじるしい。育林投資の採算性をあらわす指標の一つに「利回り」があるが、この利回りは銀行預金の金利と同じ意味をもっている。人工林を20ha以上保有している林家について、スギ、ヒノキ、マツの育林投資の利回りを計算すれば、図-1のようになる(この中には搬出経費は含まれていない。搬出経費を差し引いた手取り収入で計算すると、利回りはもっと低くなる)。

[Figure]


図-1 育林投資の利回りの動き

わが国の代表的な樹種であるスギの場合、昭和44年当時の利回りは7.4%であったが、50年には5.1%、56年になると3.3%に低下し、さらに60年になるとついに2.6%の水準にまで下がり、育林投資の採算性は大きく低下している。

ヒノキの場合は、スギと比べて立木価格が高いために主伐収入も多く利回りも高い率を示し、その低下もスギほど大きくない。昭和60年の利回りは4.0%の水準にあり、投資の採算性は一番優れている。一方、マツの場合は、昭和44年当時の6.3%から60年には2.3%にまで低下し、もはや投資としての採算性を完全に失っている。

このように、利回りが大きく低下した理由は、木材価格が低迷しているにもかかわらず、育林費が上昇したためである。育林業が産業として成り立つためには、育林事業に投下した資金が、少なくとも預金金利なみの利回り(1月15日現在の1年定期預金の金利は3.76%)が確保できなければならない。このためには、徹底した育林コストの引き下げが求められる。

育林費の80%近くが労賃であるため、育林コストの引き下げには、労働生産性(労働量にたいする生産量の割合)を引き上げなければならない。表-1は、主要な作目について、昭和35・6年~56・7年の約20年間の労働生産性の変化を示したものであるが、農業関係での生産性の向上はいちじるしい。

稲とスギは農業と林業を代表する2大作目であるが、この二つを比較すると、稲では、この20年間に反収が27%増加し、労働投下量が64%減少して、労働生産性は3.5倍上昇している。一方、スギではha当りの収穫量の増加は期待できず、また労働投下量はわずかに13%減少したにすぎず、労働生産性の向上はきわめて小さい。

育林は、自然力に多く依存し、期間も長いため、労働生産性の向上を期待することはむずかしいという意見もあるが、生産性の向上の努力をおこたると、労賃の上昇した分がそのまま育林コストを押し上げ、ますます採算性を低下させることになる。

スギの場合、植栽から伐採までの50年間に必要とする労働量の平均は188人日であるが、このうち下刈に必要とする労働量の平均は80人日であり、労働量全体の43%を占めている。このため、下刈労働の節約技術の開発と施業方法の改善がこれからの重要な課題となり、目下研究がすすめられている複層林施業も、下刈労働を節約するものとして意義が大きいといえる。

 

表-1 主要作目の収穫量と労働時間の変化
作目 単位 収穫量および単位当り労働時間
昭和35,36年 昭和56,57年 増減率 (%)
水稲 収穫量 kg/10アール 376 476 26.6
労働時間 時間/10アール 170 62 ▲63.5
小麦 収穫量 kg/10アール 220 304 38.2
労働時間 時間/10アール 106 15 ▲85.8
ミカン 収穫量 kg/10アール 1,950 2,350 20.5
労働時間 時間/10アール 407 172 ▲57.7
酪農 生乳生産量 kg/頭 4,350 5,832 34.1

注) ▲は減少を示す。

少数の線虫でマツは枯れる!

マツノザイセンチュウの少数接種と枯損の発生

峰尾一彦

これまでマツノザイセンチュウ病の被害機構を明らかにする線虫接種試験は、千あるいは万単位の濃縮した線虫浮遊液を人為的に付けた傷に塗布する方法によって行われてきた。多くの場合は人工培地で増殖させた線虫を用いるため、浮遊液中には成虫のほか2-4齢の幼虫が含まれる。幼虫を齢期別に分離することは難かしいために齢期によってマツに与える影響に相違があるか否かは不明である。またマツ枯れに必要な最少線虫数も明らかにされていなかった。

一方、自然条件下では、線虫は耐久型幼虫(分散型4期幼虫)に変身してマツノマダラカミキリによって枯死したマツから健全なマッヘ連ばれ、カミキリの後食(食害)部から樹体内へ侵入する。飼育に用いたカミキリの餌木や後食させた枝から分離される線虫は平均数10頭であることから、マツの枯死はこの程度の数の線虫で発生しているものと推定されている。

このため、25~30℃の室内で鉢植えの4年生クロマツに雌雄5対の線虫を接種してみた。これによると1ヵ月後の調査結果では、生傷接種区、樹脂滲出防止のために火傷を加えた接種区ともに約半数の接種木が枯死・萎凋の症状を呈し(図-1)、これら接種木から多数の線虫が再分離された。また外見上健全で樹脂滲出が正常な接種木からも線虫が再分離された。一方、夏の自然条件下で3年生クロマツを用いて、カミキリから分離した耐久型幼虫10頭を接種し、7日毎に4回にわたって接種木5本づつを解体して、接種部、隣接部の線虫を調査した。接種後の日が経つにつれて分離線虫数が増加し(図-2)、14日目に樹体内で孵化した幼虫が分離され、21日目に樹脂滲出異常木が認められた。接種1ヵ月後に接種木地上部の線虫数を調べた結果、4本から分離された線虫数は接種頭数の30~100倍に増加していた(表-1)。

以上の結果から少数接種であっても、線虫は樹体内へ侵入すれば増殖し、マツの異常な樹脂滲出を起こしたり、マツを枯死させることが明らかになった。

[Figure: マツノザイセンチュウの生活史]


(参考) マツノザイセンチュウの生活史

 

 

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図-1 培養線虫接種1カ月後の枯死・萎凋木の発生状況 (10頭接種)

 

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図-2 耐久型幼虫接種後7日毎の接種部(黒丸実線)・隣接部(三角点線)からの線虫検出状況 (10頭接種)
注) 調査木5本の平均

表-1 耐久型幼虫接種1カ月後の地上各部からの線虫検出状況 (10頭接種)
調査木No. 1 2 3 4 5
樹脂滲出状況 + + - - -
幹部高さ (cm) 31~ 7 90 17 73 24
21~30 16 23 16 57 64
11~20 13 13 40 12 286
接種部 (10) 0 0 72 112 713
枝部 1年枝 0 70 3 57 6
2年枝 0 13 23 0 0
36 223 171 311 1093

連載

森の仲間

ノウサギ

ノウサギ Lepus brachyurusは本州、四国、九州およびそれらの属島に分布する中型の草食獣で、古くから農林業などの害獣の一つとして問題視されてきた。

ノウサギ属はウサギ類の中で最も繁栄した仲間といえる。この仲間は開けた草原地の生活に適応し、ふつう巣穴は持たず単独生活で、行動圏は数ha~数10ha、種によっては300ha以上におよぶ。捕食動物の危険に対して、発見されにくい体色や習性、早期に探知できる耳や優れた走行能力を進化させた。食性は多種類の植物を摂食でき、糞食という特殊な栄養摂取法も持っている。

本種の繁殖期間は早春~秋の間であるが、温暖地方ではこれより長い。妊娠期間は平均45日、平均産児数は1.6頭、1年に数回出産する。幼獣は有毛、開眼状態で生まれ、生後早くから運動能力がある。成長は速く、生後1年までに成獣になり繁殖が可能である。

本種の食害防除が困難である理由の一つは、生息密度は低いが行動力と警戒心の強さなどの本種の特徴が働いているためと思われる。

(山田 文)

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サクラのてんぐ巣病

病源菌 Taphrina wiesneri (RATH.) MIX

本病は、公園や並木のサクラに普通にみられる病気であり、世界的に分布し、サクラの名所が荒廃する原因の一つである。

はじめ枝の一部がこぶ状にふくれ、そこから不定枝が叢生していわゆるてんぐ巣となる。冬落葉時(写真)には小枝がほうきの様にむらがっている様子がよくわかる。病枝では健全枝より早く開葉するが、普通蕾はつかず、ソメイヨシノなど花が先に咲く種類では開花期に病巣部だけ葉をつけているのが目立つ。病巣部は漸次折れたり枯れたりする。激害木では樹勢が衰え、また枯れた病枝からは腐朽が入り、一層衰退が進む。病原菌は病枝中で越冬し、開葉と共に葉に進展する。病葉は黒くしおれ、その裏に胞子が形成され伝染する。

サクラの種類によって発病程度に著しい差違がある。ソメイヨシノ・コヒガンザクラは極めて弱く、エドヒガン・オオシマザクラは強い。防除法としては、病巣を枝の膨らみの下から切除し、あとにチオファネートメチル剤を塗布する。同時に樹勢の回復を図るようにする。

(山田 利)

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おしらせ

関西林試協の各部会終る

関西林試協(関西地区林業試験研究機関連絡協議会)の下部組織の各専門部会は、下記のように61年度の総会を終了しました。それぞれの総会の中では部会活動の経過の報告と今後の活動計画が討議されました。この中で、育林部会と立地部会は第1日目は別々に会合を行い、第2日目は両部会が合同で会合が行われ、今後もこの方法で総会を運営することを決めました。

特産部会(シイタケ) 9月18・19日 岡山県林試
〃(マツの菌根菌) 10月28~30日 福井県下
育苗部会 9月25・26日 京都市内
経営部会 10月29・30日 徳島県下
林業機械部会 10月29・30日 愛媛県下
育林部会 1月21・22日 関西支場
立地部会
保護部会 1月29・30日 大津市内
育種部会 2月4日 鳥取市内

関西林試協総会の開催きまる

昭和62年度の関西林試協の総会は滋賀県森林センターのお世話により、6月5日(金曜日)に大津市内で開かれることがほぼ決まりました。

(長谷川)