ホーム > 研究紹介 > 刊行物 > 研究情報 1987年 > 研究情報 No.4 (May 1987)
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育林部長大山浪雄
関西支場では、国立林業試験場の新しい研究推進目標に向って、地域林業活性化のために、昭和60年度から4つの研究問題に取り組んでいる。それは、1.都市林及び都市近郊林の育成管理技術の向上、2.畿陽アカマツ林帯におけるヒノキ人工林造成技術、3.先進林業技術の後発林業地への適用、4.竹林業の改善である。
このうち、2の研究問題が設定された背景には、近畿・山陽地域に今なお約85万haのアカマツ林が存在しており、この林地の土地利用は地域林業の活性化にとって重要な課題となっている。さらに、この地帯に分布するマツ林は松くい虫の激害を受け、その被害跡地を中心にヒノキの人工造林が拡大している。しかも、それらの造林地には生長不良や病虫獣害など種々の深刻な問題も生じており、これらに対応する研究が強く要請されている。
このため、本研究問題では、研究の大課題および中課題を次のように設定し、その下に合計13の小課題を取り上げている。
幸いにも、これらの研究課題は農林水産技術会議による特別研究「低位生産地帯のマツ枯損跡地におけるヒノキ人工林育成技術の確立」として組織化され、昭和60年度から63年度まで実施することになり、現在、この特別研究の中で全面的に対応している。この特別研究では、当関西支場の他に、本場の土壌・造林・保護部および四国・九州両支場と、西日本の兵庫・岡山・広島・島根・長崎の5県が参加しており、その総合的研究成果が期待されているところである。
関西支場では、特別研究終了後は、さらに研究課題の見直しも含め、残された問題の解明に向って研究を推進することにしている。今後とも、地域研究発展のために、関係各位の一層のご支援ご協力をお願い申し上げる。
ヒノキ人工林造成対象のアカマツ林
岩水 豊
農山村の未来の担い手になる後継者の問題は、我が国の経済発展に伴う農山村の人口流出と深いかかわりがある。かつて高度成長期に都市の工業が大量の労働力を農山村地域に求めたことなどから、山村の人口は昭和35年から55年までの20年間に762万人も流出し、若・中年労働者が大挙して都市へ向けて移動した。これはつまり高度経済成長を目標に「所得倍増計画」を策定推進した池田内閣の政治の所産でもあった。
またその間に農産物や木材の貿易自由化が進められたため、生産条件の劣る山村の農業経営は漸次後退する羽目に陥った。加えて気象、道路、交通条件、医療、教育文化施設等生活環境の劣悪な山村は次第に過疎が進んでいった。
そこで政府は昭和40年に山村振興法を成立させ、過疎によって起る地域格差の是正を図るためさまざまな施策を講じてきた。その結果昭和50年代には山村の人口流出は鈍化傾向(40~45年△12.1% 50~55年△3.2%)を示すに至ったが、なお若者の流出によって自然減の進行が懸念されるので、山村の人口は長期的に減少が続くものと見られている。
ことに近年は林業不況や農産物の需給緩和等によって山村地域の農林業経営が一層困難に陥り、離農、兼業化に拍車をかけている。したがって山村地域の主幹産業である農林業が後退し、それに代る就業の場が求められないとすれば、労働人口は必然的に都市へ向けて流出することになる。
そうした背景から新卒の農林業就業者は昭和38年には全国で9万人にも昇ったが、同60年には4200人に激減しており、若者の都会志向ないし農林業離れは一向に止っていない。ことに林業部門においてはなおさらで、新卒の就業者は皆無に等しい状況にある。
とはいえ「捨てる神もあれば拾う神もある」のたとえ通り、最近は脱サラ青年による農業への新規参入や超過疎になった村へUターンして村おこしや産業おこし等に励む若者が各地に現われており、山村を見直す気運が広がっている。
そうした若者の意識動向や具体的な動きについて、これまで筆者は全国調査をもとにいくつか報告((1)「林業後継者は何を考えているか」 (2)「山の青春」)を行ってきたが、さらに全国各地の林業研究グループやUターン青年グループによる村おこし、産業おこしの様子についても目下調査を進めている。ここではそれら若者の具体的動きについて一端を紹介する。
例えば、(1)長野県南木曽町の林研グループは、山づくりの研究活動からはみ出して、町の活性化をめざして観光物産展、むらおこし学習塾、都市住民との交流会、妻篭宿における特産品即売店ほか各種のイベント企画等多彩に活動を展開中 (2)静岡県春野町の林研、西野栄男氏らは間伐材の利用を目的にログハウスを開発し、製造販売を企業として軌道に乗せ営業展開中 (3)三重県熊野市の林研は木材不況に入った57年に協同組合を結成して木材市場を開設し、3年間で軌道に乗せた。さらに「鬼の国物流協同組合」を作り、すの子の製造から魚、みかんの流通にまで手を広げ町の産業振興に一役かっている。
(4)京都市北山クラフト共同組合は都会から参入した脱サラ青年3人と地域住民が共同組合を作り、木工と丸太小屋の製造を中心にして過疎地の振興を展開中 (5)島根県匹見町匹見裏作グループは、村おこしのため若い職業人が定期的に講師を招いて木工技術を研修し、広葉樹による木工産業の確立を図るため取り組みを進めている。
(6)大分県大山町キノコセンターは、イスラエルキブツで学んだ矢幡欣治氏を中心に、キノコ栽培やイチゴのメリクロン等による農林産物の工業生産化をめざして研究と実践を展開中等、Uターン組ないし村に踏みとどまって村おこしや産業振興に積極的に取り組んでいる頼もしい若者集団の活動事例は枚挙にいとまがなく、当世山村の若者は、都会を志向して流出する人が多い反面、「出たくない」というけなげな若者も全体の4割近くを占めており(36.7%若者意向調査)、山村の未来は必ずしも悲観することはないというのが、この問題にアプローチして得た筆者の印象である。
高知県大川村「木星会」の木工品
小林忠一
1986年の消防白書によると、最近10年間における全国の林野火災の発生件数と焼失面積は、年平均値で4,878件、4,965haとなっており、本年の1月~5月上旬の発生件数は、平年同期間の3倍弱と頻発している。当支場管内には瀬戸内海に面したわが国でも有数な林野火災多発地域があり、これら火災の発生および拡大防止、跡地の保全、森林植生の早期復旧などは重要かつ緊急な課題である。したがって、関西支場では1985年度に設定された研究課題「都市近郊林の防災的管理技術の向上」の中で、防火・耐火林の構造と配置について研究を進めている。
ここでは、常緑樹種の生葉について、含水率と発炎性の関係、また、いろいろな杯分の地表堆積物について燃え方を調べたので紹介する。
生葉の含水率(水分の絶乾重量に対する百分率)と、電気炉内温度を500℃に設定し発炎するまでの時間を測った(図-1)。この図で、含水率が高いほど発炎が遅れ、燃えにくい傾向があること、及び、マツ類が燃えやすく、サンゴジュ、ヤツデ、マサキ、サザンカ、ヤマモモ、メラノキシロンアカシア、ヒサカキなどが燃えにくい樹種であることがわかる。
つぎに12の林分について、地表堆積物の試料(1×1m区画)を採取し乾燥後重量を測り、その直後屋内のコンクリート床上で着火し、全体に火がまわって消えるまでの時間や、廃残量(着火せず残った量)などを測定した(図-2)。これによると、地表堆積物量は、テーダマツ林分が最も多く、次いでクロマツ、アカマツ、マツ雑木、スギ林分などが比較的多く、ヒノキ、フサアカシア林分が少ない。燃焼時間(100g当り)は、マツ類、タケ、マツ雑木、クヌギ林分などが短かく火勢が強い。一方、ヒノキ、ウバメガシ、ヤマモモ、フサアカシア林分は燃え方が遅く火勢も弱いことがわかった。燃えにくく焼け残る比率が高いのは、ヒノキ、フサアカシア、アラカシなどの林分で、マツ類、マツ雑木、クヌギ、タケなどの林分が燃えやすい。
これらの調査により、マツ類の林分は、地表堆積物量が多く、かつ火勢が強く燃え広がりやすい特性など、林分別の地表堆積物の燃えやすさに関する知見が得られた。
昭和59年度、支場構内に治山実験室が新築され、人工降雨装置と実験土槽が設けられたので紹介する。
降雨装置は1.5×5mのもの2基が床面4.5mに設置され、10~250mm/時の範囲で任意の波形の雨を降らせることができる。実験土槽(写真)は、幅0.8m長さ4mのものが2台あり、雨水の浸透状況が詳しく測定できる。また、土槽には車輪が付けられており、無降雨時の蒸発による土中水分移動測定、植生生育の影響調査などの目的に応じて、屋外へ土槽を引き出すことができる。
現在までに、斜面内に排水暗渠を設けた場合、雨水の浸透状況、地下水面変化などがどのように変わるのかを調べる実験を行ってきた。その結果、暗渠は雨水をすばやく排水させることにより、地下水面の上昇を抑制する効果があることが確かめられた。
(谷 誠)
チャドクガ(Euproctis pseudoconspersa Strand)はツバキ・サザンカ・チャの害虫としてよく知られ、時には木を丸裸にするほど発生する。葉の裏側で黄色い幼虫が頭をならべて群生し、葉を食害する。幼虫初期は葉肉だけを食べ表皮を残すので、被害葉は白くすけて見える。のちには葉全体を食べる。
1年に2回発生する。卵塊で越冬し、4月中旬にふ化する。幼虫は4~6月と7~9月に現れ、地表に降りて蛹化する。成虫は6~7月と10~11月に現れる。
幼虫の体表には顕微鏡サイズの微細な毒針毛が無数に分布しており、触るとかぶれる。この毒針毛は繭、蛹、成虫および産下された卵塊にまでうけつがれる。ドクガ(E. subflava Bremer)と比較して毒性は弱いが、茶畑や庭木などに多発して人間との接触が多い本種の方が衛生害虫としての実害が大きいといわれる。
雌成虫があまり移動しないため、同じ場所で連年発生することが多い。前年発生した場所では、若齢幼虫の食害による変色被害葉を見つけて、葉裏に群生する幼虫をふみつぶすか、薬剤を散布する。ピレトリン・DDVP・ティプテレックス・スミチオンなどがよく効く。
(伊藤賢介)
5月6日、支場構内において、京都市立下鳥羽小学校6年生の4学級、148人の児童の野外授業が行われた。これは、6年生の理科学習「草むらや林の植物」を実地に学び、「緑の果す役割を体感させたい」との学校側の申し入れに支場が全面協力するかたちで実現した。
晴天に恵まれた当日は、樹木園で育林・保護両部長から、植物、森林、動物の説明を受け、会議室で日本や世界の森林についてのビデオをみた。実験林では若手研究者の協力により、林内の温度や照度と植物の関係について体験的に学習した。後日、子供たちからお礼や新たな質問など30数通の手紙が寄せられた。
(長谷川)
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