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年報第44号 研究資料

六万山スギ収穫試験地の林分構造と成長

田中邦宏・田中 亘・奥 敬一(森林資源管理研究グループ)・近藤洋史(九州支所森林資源管理研究グループ)

1. 試験地の概要

当試験地は、多雪地域のスギ人工林の成長量、収穫量およびその他の統計量を収集するとともに林分構造の推移を解明することを目的として、1962年度に設定された。試験地の所在は石川県石川郡白峰村字六万山国有林55林班る小班であり、近畿中国森林管理局石川森林管理署の管内となっている。試験地は0.20haの標準地で、スギ一斉人工林、標高930~970m、平均傾斜約20゜の南西向き斜面である。基岩は古生界の角閃安山岩であり、土壌型はBD(d)である。本試験地の北に約20km離れた標高180mの鳥越地域気象観測所における最近10冬期の平均最深積雪深は89.1cmであった。本試験地の標高を考えると、この試験地の平均最深積雪深は鳥越観測所の値より大きいと推測され、典型的な多雪地帯と考えられる。本試験地の履歴を以下に示す。

1947年7月 新植(3,000本/ha) 1967年9月 第2回調査(20年生)、間伐
1948年7月 補植( 300本/ha) 1972年9月 第3回調査(25年生)、間伐
1948、1950~1954年 下刈り(各年1回) 1977年9月 第4回調査(30年生)、間伐
1956年9月 ツル切り 1982年9月 第5回調査(35年生)、間伐
1957年5月 枝払い 1987年9月 第6回調査(40年生)、間伐
1957年11月 除伐 1992年9月 第7回調査(45年生)、間伐
1958年5月 倒木起こし 1997年10月 第8回調査(50年生)、間伐
1962年5月 試験地設定、第1回調査(15年生)  

収穫試験地の調査計画によると、2002年度には、本試験地の定期調査を実施することとなっていたため、10月に第9回調査(55年生)を行った。調査内容は、胸高直径・樹高・枝下高・寺崎式樹幹級区分の毎木調査である。

2. 調査結果と考察

今回の調査までの林分成長経過を図-1から6に示した。本試験地における多くの残存木では「根元曲がり」や「やにさがり(積雪の沈降圧による枝の蛇行)」など、雪圧害の影響と思われる状況が観察された。

図-1では、胸高直径と樹高の成長過程を示した。胸高直径・樹高とも標準的な伐期齢である45年生を超えても成長を継続していた。今回の調査における残存木の林分平均胸高直径は33.7cm(標準偏差8.9cm)、同じく林分平均樹高23.4m(標準偏差4.7m)であった。林分の平均胸高直径に対する樹高の比である形状比は、雪害・風害に対する危険度の指標として有効であるといわれている。本試験地の今回の調査における形状比は、69.4であった。

立木本数の経年変化(図-2)では、林齢30年生付近で間伐による大きな本数減少が見られるが、この15年間は本数も安定している。今後、樹冠の競争が始まれば、枯死する立木がでてくると考えられる

幹材積成長量(図-3)では、近年、急激な成長が見られる。通常、胸高直径や樹高、幹材積といった成長因子は、単調増加でS字型のグラフであるシグモイド型の曲線になるといわれている。しかし、当試験地のこれら成長因子の成長曲線は単純増加を示している。すなわち、標準的な伐期齢を過ぎても旺盛に成長していると考えられる。

図-4には幹材積の各調査期間における平均連年成長量およびその成長率を示した。図-4から、幹材積成長にあわせて、平均連年成長量およびその成長率の成長もよくなっていると思われる。

図-5には相対幹距を表した。相対幹距とは、林木の平均樹幹距離(平均幹距)と林分の上層木の平均樹高との比であり、林分密度の尺度として用いられる。ここで、今回の解析において残存木はすべて上層木とした。今回の調査結果から相対幹距は約13%となっているので、西沢によると本試験地は弱度間伐区に区分される。西沢による国有林スギ収穫表調製に用いられた林分において、中庸度の間伐区の相対幹距は約17%であると述べている。本試験地を中庸度間伐区にするには、相対幹距で4%程度の間伐が、今後、必要であろう。

図-6には、今回の調査から得られた胸高直径データを基に、2cmを階級区分とするhaあたりの胸高直径分布を示した。この図より、胸高直径分布が12cmから54cmというように、胸高直径階で42cmもの幅があることが明らかになった。このように直径階が広くなっているのは、これまでの間伐の影響と思われる。また、残存木1,090本/haのうち、30cm階級に含まれる本数が最も多く、115本/ha存在している。また、直径階30cmから40cmの間に含まれる立木は575本/haであり、全立木の52.8%がこの直径階に含まれていた。

現在、短伐期一斉皆伐施業から伐期を長期化する施業に移行しつつある。しかし、この長伐期に応じた林分の情報というのは、これまで体系的に収集されていないので、不足している。本調査地の資料は、多雪地帯における高齢人工林の施業指針の基礎資料になっていくと思われる。

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図-1 直径および樹高の経年変化
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図-2 立木本数の経年変化
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図-3 幹材積の経年変化
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図-4 連年成長量および成長率の経年変化
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図-5 林分密度(相対幹距)の経年変化
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図-6 直径分布