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所属:キクラゲ科 キクラゲ属
学名:Auricularia auricula (Hooker) Underwood
生態:広葉樹の枯れ木に発生する。中国では「木耳」と呼んでいるが、その名の通りに耳の形をしている。近縁のアラゲキクラゲは、表面に密毛が生えている。
どちらも食用にされている。
キクラゲの話
キクラゲは、英語で 'Jew's Ear'(ユダの耳)と呼ばれている。その昔、キリストを裏切ったユダがニワトコの木で首を吊ったという。(ただこれは、ニワトコの葉や花に不快な臭いがあるための俗説らしい。)キクラゲは、色々な木に生えるが、ニワトコを特に好むようである。そのためかどうかわからないが、ヨーロッパでは、キクラゲをあまり食べないらしい。
中華料理では、ごく一般的な素材である。「木耳」と書くが、よくその形状を表している。他に「木蛾」と書くこともあるという。ちなみに「茸」は日本では「たけ・きのこ」を表す字だが、中国では「若草の生えるさま」を指し、きのこの意味は無い。キクラゲは、ごく普通のきのこで、形に特徴があり、乾燥すると形を長くとどめているから、日本でもかなり昔から知られていた。「キノミミ、形は人の耳に似て、色は黒い。」と倭名類聚抄(11世紀)には載っている。また中国では、斉民要術(6世紀)にキクラゲの料理法が記されている。
桑、槐、楮、楡、柳を五木と言って、有用木の代表としているが(木の種類には諸説ある)、キクラゲはこれらの木によく発生し、出たものは五木耳と呼んで薬効もあるとされた。本草綱目(1596)によれば、木耳は「気を益し、飢えず、身を軽くし、志しを強くする。穀を断ち、痔を治す」とある。さらに桑耳は婦人病に効き、槐耳は痔に良く、楡耳は「人をして飢えざらしめ」、柳耳は「胃を補し、気を理す」らしい。
ただ日本では、食用としての記事が多い。本朝食鑑(1695)には、「その色は黒くて、これを食べると(コリコリ)音がする。クラゲもそうなので、名前がついた。形は、一面は黒で、もう一面は青白色あるいは黄灰色。点紋があって厚い。もとは諸木に生えるが、今用いているのは、ニワトコに生えたものである。生・乾ともに気味は無い。ただし枯朽淡木の味で、海鏡(カガミガイ)の味は無い。人は、ただその淡味を愛するのだ。この類はやや多いが、用いるのはキクラゲだけである。」とある。
また和漢三才図会(1712)には、「六月多雨の時に採って曝して乾す。粥を煮て諸木の上に置いて草で覆うと蕈が生える。その食毒は、必ず木の性質に従うので、はっきりさせなければいけない。しかし、今売られているものの多くは雑木のものである。痔を患って、諸薬の効き目が無くても、木耳をあつものに煮て食べれる癒える。(中略)木耳は、猫の耳のようで、表面は黒灰色で細点がある。裏は灰白色で、味は薄い。あつものに入れて煮て食べたり、なますと和えて食べる。甚だ脆くて、クラゲの脆いのに似ている、それでキクラゲと名前がつけられたのだ。」とある。
各地の特産物としての利用もされたようで、日本山海名産図会(1799)には、「木耳は、樹皮に付いて生じ、淡黄色に赤色を帯びているが、採って乾かせば黒色に変る。日本ではニワトコに出るのを上品としている。」とある。甲斐国志には、「諸木の朽ちたるものより生じる。桑榎等を佳とし、有毒樹に生じたるは食べてはいけない。蕈、舞茸の類皆乾して貨物とする。諸品を雑にして乾かしたものは、雑菌といい、下品なり。」とあるので、シイタケ、キクラゲも含め、乾燥きのこを甲斐では生産していたようだ。
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