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プレスリリース


2017年12月6日

国立研究開発法人 森林研究・整備機構 森林総合研究所
地方独立行政法人 北海道立総合研究機構 森林研究本部 林産試験場

木質バイオマスを用いた発電・熱電併給事業の採算性評価ツールを開発―簡単な入力で熱利用を考慮した事業評価が可能に―

ポイント

  • 木質バイオマスを用いた熱電併給事業の採算性を評価できます。
  • 原料の種類・消費量・購入単価、熱利用の条件などの簡単な入力で、蒸気タービン方式の木質バイオマス熱電併給事業に関する採算性を評価できます。
  • 中大規模の木質バイオマス発電に加え、各地域の原料・熱利用事情に合わせた、比較的小規模な熱電併給事業の検討などに活用いただけます。

概要

国立研究開発法人 森林研究・整備機構 森林総合研究所(以下「森林総研」という)は、地方独立行政法人 北海道立総合研究機構 森林研究本部 林産試験場(以下「道総研林産試」という)と共同で、「木質バイオマスを用いた発電・熱電併給事業の採算性評価ツール」を開発しました。なお、ツールは以下の手順にて無償配布しております。
1)下記のホームページから、アンケート用のワードファイルを入手していただき、
http://www.ffpri.affrc.go.jp/database/hatsuden/hatsuden.html
2)アンケートにお答えの上、hatsuden@ffpri.affrc.go.jpにファイル添付等で送付いただきますと、プログラムファイルとマニュアルをメール配信いたします。

2012年7月に再生可能エネルギーの固定価格買取制度(FIT)が始まり、未利用の林地残材や間伐材等を燃料とする発電所が多数稼働しています。これらのほとんどは、発電のみを行うものであり、エネルギー利用効率(発電効率)は25%前後にとどまっています。それに対し、電力と同時に熱も販売する熱電併給事業は、エネルギー利用効率が高く、FITの調達価格の見直しが実施されたこともあり、小規模でも事業性を高めることができます。森林総研は木質バイオマス発電事業の採算性評価ツール(以下「評価ツール」)を開発し、平成27年10月より無償公開を始めていますが、評価ツールは熱電併給(CHPまたはコージェネレーション)事業には対応していませんでした。そこで、道総研林産試と共同で、市販の熱収支計算ソフトを援用しつつ、損益計算に係る関係式の改良を行い、蒸気タービンを用いた熱電併給事業の採算性評価ツール(以下「CHP評価ツール」)を開発しました。原料の条件、蒸気の抽気条件、熱の販売単価などを様々に変えることによって、電力だけでなく熱(蒸気や温水)の供給を行う事業の採算性を簡便に評価できるようになりました。各地域の原料・熱利用事情に合わせた、比較的小規模な熱電併給事業の検討に活用されることが期待されます。

背景

2012年7月に始まったFITでは、木質バイオマス発電が固定価格買い取りの対象となり、間伐材等の未利用材を燃料とする木質バイオマス発電施設が全国各地で稼働を始めています。ただし、ほとんどの施設は発電だけを行っているため、熱効率(発電効率)は25%前後と低くなっています。これに対して、電力と同時に熱を利用する熱電併給は、小規模でもエネルギー利用効率が高いことから、経済性を高めることができ、農山村地域のエネルギー自給向上につながると考えられます。FITにおいても、発電出力2000kW未満の施設からの電力買い取り価格が引き上げられ、その普及を後押ししていますが、熱電併給事業の採算性を評価するツールがないため、事業の検討を円滑に行えない状況にありました。

内容

FITでは、未利用材を燃料とする発電所が全国で30ヵ所以上稼働を開始していますが、そのほとんどが発電のみを行っているため、熱効率(発電効率)は25%前後にとどまっています。これに対して、電力と同時に熱を利用する熱電併給を行えば、最大80%前後の熱効率を実現することができます。
蒸気タービンを用いた熱電併給プラントは、ボイラーで生産した蒸気をタービンに投入する工程までは発電プラントと同じですが、熱利用のために低圧の蒸気を一定量タービンから抜き取るので発電量が低下します。発電量の低下による収入の減少と熱利用による収入の増加を推計するには、ボイラー主蒸気の条件、抽気量、復水器の真空度などに関する計算式が必要となります。そこで、森林総研の「評価ツール」と、市販の熱収支計算ソフトを組み込んだ道総研林産試の「木質バイオマス発電・熱電併給事業評価シミュレーター」を融合することによってCHP評価ツールを開発しました。図1に、そのツールの画面を示します。市販の表計算ソフトMicrosoft Excelを用いており、詳細な条件設定が簡単に行えるようになりました。入力項目には、初期値が入力されていますが、任意の値に変更可能で、ユーザーの想定する発電事業を再現できます。採算性の評価期間は最大40年間で、燃料価格やFIT買取価格の変動に対応した試算も可能です。

木質バイオマスを用いた発電・熱電併給事業の採算性評価ツールの概要の図

図1 木質バイオマスを用いた発電・熱電併給事業の採算性評価ツールの概要

今後の展開

本ツールは、木質バイオマス発電事業を検討されている事業者や自治体の意思決定に資する情報を提供します。既存の木質バイオマス発電事業においても、燃料の種類・組み合わせの変更や価格上昇、FIT期間20年間終了後の売電価格の変動などによる影響を評価できます。

論文

タイトル:木質バイオマスを用いた熱電併給事業の成立条件

著者:久保山裕史、古俣寛隆、柳田高志

掲載誌:日本森林学会誌、99巻6号(2017年)掲載予定

研究費:予算:森林総合研究所交付金プロジェクト「木質バイオマス発電事業の安定的な拡大手法の開発(H27-29)」など

共同研究機関

地方独立行政法人 北海道立総合研究機構 森林研究本部 林産試験場

用語解説

1.再生可能エネルギーの固定価格買取制度(Feed-in Tariff、FIT)
再生可能エネルギーによる発電は、石炭やガス火力発電と比較してコストが高く、このことが普及の妨げの一因となっています。これに対して国は、再生可能エネルギーで発電した電気を、採算のとれる価格で電力会社が一定期間買い取り、その費用を電気の利用者から賦課金という形で集めるというしくみを導入しました。新規の事業者は、長期に渡って収入の予測ができ、事業計画が立てやすくなったため、再生可能エネルギーの供給が拡大しています。

2.熱電併給プラント
電気だけでなく熱も有効活用する発電施設です。発電だけを行う場合の排熱は、利用しづらい低温水となって出てくるため、冷却塔を用いて大気中に捨てており、熱効率は25%前後にとどまります。これに対して、熱電併給プラントでは、大気圧(0.1MPa、約1気圧)以上の蒸気をタービンの途中から抜き取るので、発電量はその分低下しますが、0.6Mpaの蒸気をクリーニング工場や木材乾燥に利用したり、0.1MPaの蒸気を取り出して熱交換によって80℃前後の温水を利用するなどして、熱効率を80%前後に高めることも可能です。

 

 

お問い合わせ先

研究推進責任者:
国立研究開発法人 森林研究・整備機構 森林総合研究所 研究ディレクター 堀 靖人

研究担当者:
国立研究開発法人 森林研究・整備機構 森林総合研究所 林業経営・政策研究領域 林業システム研究室長 久保山 裕史
地方独立行政法人 北海道立総合研究機構 森林研究本部 林産試験場 利用部 資源・システムG 古俣 寛隆

広報担当者:
森林総合研究所 広報普及科広報係 Tel:029-829-8372 E-mail:kouho@ffpri.affrc.go.jp
林産試験場 企業支援部 普及連携グループ Tel:0166-75-3621 E-mail:rinsan-rpt@ml.hro.or.jp

 

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お問い合わせ

所属課室:企画部広報普及科広報係

〒305-8687 茨城県つくば市松の里1

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