研究紹介 > トピックス > プレスリリース > プレスリリース 2019年 > シイタケ害虫の新たな天敵を発見 ―菌床シイタケを脅かすキノコバエをハチが退治する―
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2019年5月14日
国立研究開発法人森林研究・整備機構 森林総合研究所
ポイント
国立研究開発法人 森林研究・整備機構 森林総合研究所(以下「森林総研」)は、菌床シイタケの害虫であるナガマドキノコバエ類(以下「キノコバエ」)の天敵となる寄生バチを発見し、この寄生バチがキノコバエの増殖を抑制する高い効果をもつことを実験的に証明しました。
キノコバエは、シイタケの菌床栽培で大発生し被害をもたらす深刻な害虫です。森林総研では、天敵を利用して害虫を駆除する生物防除技術の研究に取り組んできました。今般、関東地域でキノコバエを殺す天敵を探索した結果、新種とみられる寄生バチを発見しました。生産者が実際に栽培しているハウスでは、6割を超えるキノコバエの幼虫がハチに寄生されていることもありました。森林総研の実験用栽培ハウスでキノコバエの幼虫と寄生バチを放してみると、寄生バチを放した場合にはキノコバエの幼虫数が激減し、寄生バチがキノコバエの増殖を抑制する高い効果を持つことが明らかになりました。今後は、この寄生バチを実用化する新しいキノコバエ防除法の開発を目指します。
本研究成果は、2019年3月末にBiological Control誌にオンライン公開されました。
栽培きのこ類の年間産出額は2,200億円にのぼり、木材生産とならび林業産出額の半分を占めています(平成29年林業産出額、平成31年2月20日公表)。そのなかでも、シイタケは栽培きのこ類の生産の3割を占める重要な品目です。シイタケは、近年では菌床栽培による生産が増加しています。菌床とは、おが粉と栄養剤を混ぜたものにシイタケ菌を培養したブロック状の塊です。菌床栽培では、およそ1万もの菌床を栽培ハウスのなかに並べ、菌床から発生したシイタケを収穫します(図1)。
ナガマドキノコバエ類は、幼虫が菌床やシイタケを食べて増殖し、短期間のうちに栽培ハウスのなかで大発生してしまいます。また、幼虫が付いたままシイタケが売られると異物混入という問題を引き起こす深刻な害虫です。
私たちは、自然環境に存在する天敵を使ってキノコバエなどの害虫を駆除できないかと考え、研究を進めています。天敵とは、ここでは害虫を食べたり寄生したりして殺す生物のことをいいます。本研究では、生産者が実際に栽培しているハウスでキノコバエの天敵である寄生バチを見つけ、その効果を調べました。
図1 菌床シイタケの栽培ハウスとナガマドキノコバエ類による被害
関東地域の生産者の栽培ハウスからキノコバエの幼虫を採集し、持ち帰って飼育すると、キノコバエではなくハチの成虫が出てくることに、私たちは気が付きました。群馬県のある生産者の栽培ハウスでは、最大で6割を超えるキノコバエの幼虫からハチが出てくることもありました。実験室で観察すると、ハチはキノコバエの幼虫をみつけると急いで近寄り、尾端の針を突き刺してキノコバエの幼虫の体内に卵を産みつけました(図2)。卵からかえったハチの幼虫は、キノコバエの幼虫の体を食べて発育し、ついにはキノコバエの幼虫を殺して成虫となりました。このハチが何者であるのかを詳しく調べたところ、ハエヒメバチ亜科に属する新種の寄生バチである可能性が高いと考えられました。
私たちは、森林総研にある実験用の栽培ハウスで、この寄生バチのキノコバエに対する防除効果を検証しました。まず、ひとつの実験区に30個の菌床を並べ、その上に2頭ずつ(合計60頭)キノコバエの幼虫を放しました。そして、5頭の寄生バチを放す「ハチあり区」と寄生バチを放さない「ハチなし区」をつくりました。これらの実験区を繰り返し設定し、放したキノコバエの幼虫への影響を調査した結果、ハチあり区では、ハチなし区に比べて蛹にまで成長したキノコバエの幼虫数が明らかに少ないことがわかりました。その後も観察を継続し、次世代のキノコバエの幼虫数を調べると、ハチあり区では、ハチなし区に比べてキノコバエの幼虫数が激減し、およそ98%もキノコバエの幼虫の増殖を抑制することが明らかになりました(図3)。ハチあり区で蛹の数が減少したのは、実験区内に放された寄生バチが自らキノコバエ幼虫を見つけ次々に産卵したためと私たちは考えています。キノコバエの蛹の数が減少したことで、親となるキノコバエの成虫の数が減少し、次世代のキノコバエの幼虫数の激減につながったと考えられます。これらの実験結果から、この寄生バチは、栽培ハウス内におけるキノコバエの増殖を抑制する高い効果を持つことが証明されました。
図2 ナガマドキノコバエ類の寄生バチ(左図)と寄生バチがキノコバエの幼虫の体内に卵を産みつけているところ(右図)
図3 寄生バチによるキノコバエの増殖抑制効果。寄生バチを放したハチあり区では、ハチなし区に比べて、蛹にまで成長したキノコバエの数が減少し(左図)、次世代のキノコバエの幼虫数は激減した(右図)。
最近の調査により、この寄生バチは、関東地域だけでなく中部地方や九州地方にも分布していることがわかってきました。キノコバエや寄生バチは、普段は野外に生息しており、「食う―食われる」という種間の関係を築いていると考えられます。キノコバエが増殖している栽培ハウスに寄生バチが侵入すると、栽培ハウスのなかでも種間の関係が維持され、寄生バチはキノコバエの天敵としてはたらくと考えられます。そのためには、周囲の自然環境に生息する寄生バチだけを栽培ハウスに呼び込み、寄生バチがハウス内で十分に活躍できる環境を整えることが重要です。今後は、寄生バチの自然環境における生態や寄生能力などを明らかにするとともに、寄生バチを誘引し定着させる因子および生存期間や産卵能力を向上させる餌条件などを解明し、実用的な害虫防除法の開発を目指します。
タイトル:Parasitoid wasps regulate population growth of fungus gnats genus Neoempheria Osten Sacken (Diptera: Mycetophilidae) in shiitake mushroom cultivation
著者:向井裕美・北島博
掲載誌:Biological Control、134巻15-22(2019年7月)出版予定 https://doi.org/10.1016/j.biocontrol.2019.03.016
研究費:森林総合研究所交付金プロジェクト
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