研究紹介 > トピックス > プレスリリース > プレスリリース 2020年 > 日本固有の鳥が1種増える!? ―海洋島で独自に進化を遂げた希少種オガサワラカワラヒワ―
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2020年5月27日
公益財団法人 山階鳥類研究所
国立研究開発法人 森林研究・整備機構 森林総合研究所
ポイント
公益財団法人山階鳥類研究所は、森林総合研究所、国立科学博物館らとの共同研究で、カワラヒワの亜種とされてきたオガサワラカワラヒワが独立種であることを発見しました。日本の固有種の鳥はこれまで10種しか確認されていませんでしたが、今回の発見はこれが1種増えることを意味します。
カワラヒワは庭や公園にもいる身近な小鳥で、これまで8亜種に分類されていました。この鳥のDNAを分析したところ、小笠原諸島に生息するオガサワラカワラヒワが他の亜種とは約106万年前に分岐した古い系統であることがわかりました。さらに、小さな体に大きな嘴という独自の形態を持っていることから、私たちは、この鳥をカワラヒワの亜種ではなく、独立種オガサワラカワラヒワとすることを提唱しました。
オガサワラカワラヒワは小笠原諸島の母島の属島と火山列島の森林でしか繁殖しておらず、絶滅危惧IA類に指定されています。近年この鳥は激減して絶滅リスクが非常に高まっており、その原因は、ネズミ類などの外来種による捕食と考えられています。この鳥が地球上から永遠に消えてしまわないよう、早急な保全対策の実施が不可欠です。
本研究成果は、2020年5月27日付けでZoological Science誌のオンライン版にて公開されます。
カワラヒワ(学名Chloris sinica)は東アジアを中心に分布するスズメ目の小鳥で、8亜種が認められています(図1)。その生態は詳しく研究されていますが、全亜種を対象としたDNA配列や形態の違いを調べた研究はありません。そこで、日本、ロシア、韓国のカワラヒワの試料に基づき分子系統解析を行うとともに、山階鳥類研究所所蔵の学術標本を用いて亜種間の形態の違いを分析しました。
本研究で調べた亜種の1つであるオガサワラカワラヒワ(図2)は、戦前は小笠原諸島の島に広く分布していましたが、現在は母島属島と、火山列島の南硫黄島の森林でしか繁殖していません。個体数は過去約20年の間に激減して現在では400個体以下と推定されており、絶滅の危険性が極めて高くなっています。減少の主要因はネズミ類やノネコなど外来生物の捕食と考えられます。この亜種は、環境省により絶滅危惧IA類および希少野生動植物種に指定されています。
図1. カワラヒワの亜種の繁殖分布域の分布図
図2. オガサワラカワラヒワ(オス成鳥)
DNA分析では57個体のミトコンドリアDNAの一部の配列(2,339塩基)を解読しました。そのデータを元に亜種や近縁種間の系統関係を明らかにするとともに、各亜種がいつ他の亜種から分かれたのかという年代推定を行いました。
形態の解析では、114個体のオスの標本を用いて、翼の長さや嘴の長さや幅など9部位を計測し、亜種間の違いを統計学的な手法を用いて解析しました。
1)分子系統解析の結果、亜種オガサワラカワラヒワのグループとそれ以外の亜種のグループに分かれました(図3)。この2つのグループが分岐したのは、約106万年前にまで遡ることも分かりました。この分岐年代はカワラヒワの近縁種である、キバラカワラヒワとズグロカワラヒワ間の分岐年代と比べて、約1.8倍も古いことも明らかとなりました。
2)外部形態の解析では、亜種オオカワラヒワが最も体サイズが大きい一方で、亜種オガサワラカワラヒワは他のどの亜種と比べても一番小さな体に一番長い嘴を持つことが分かりました。
3)これらの解析の結果から分類を再検討したところ、オガサワラカワラヒワは他の亜種と比べて進化的に独自の特徴を持つことから、カワラヒワと別種の独立種オガサワラカワラヒワ (英名Ogasawara Greenfinch、学名Chloris kittlitzi)、とすることを提唱しました。
図3. オガサワラカワラヒワとカワラヒワ亜種との系統関係(ミトコンドリアDNA チトクロムb領域に基づく)
身近な生き物でもまだよく分かっていない事は沢山ありますが、カワラヒワもその例に漏れません。本土から遠い島嶼に分布する亜種が、外見は似ていても実は別種であったという発見は、身近な鳥類を対象とする研究において大きな発見だと言えます。
日本列島ではこれまで633種の鳥類種が記録されています。そのうち、国内に分布が限られる日本固有種で現在も生き残っているものは10種しかいません。本研究の成果に基づき、オガサワラカワラヒワを独立種とすることは、小笠原固有種が増えることに加え、日本固有種が1種新たに加わることを意味します。
この発見は、日本の固有鳥類相がどのように現在の分布域に生息するようになったのかといった成立機構の解明に関する研究において、一つのヒントを与える研究と言えます。また、この新しい分類の提案は、日本鳥学会が出版する日本鳥類目録やその他図鑑等の出版物にも影響を与えることでしょう。さらに、世界自然遺産地域である小笠原諸島の自然の価値をさらに高める成果と言えます。
小笠原の固有種であるということは、島の環境でこの鳥が独自の進化を遂げてきたことを意味します。オガサワラカワラヒワの大きな嘴は、草の種子を好むカワラヒワとは違い、この鳥が樹木の大きな種子を食べるための進化と考えられます。小笠原には他にも4種の固有の鳥がいましたが、3種は既に絶滅しています。今回の成果は、この鳥が小笠原を代表する鳥であることを示しており、その保全上の価値はこれまで考えられていた以上に高いと言えます。絶滅に瀕するこの鳥を保全するには、繁殖地で脅威となる外来ネズミ駆除を進める必要があります。鳥類では、絶滅に瀕しているにもかかわらず、その事実があまり知られていない種がいくつかあり、オガサワラカワラヒワもその一例といえます。
オガサワラカワラヒワは調べたサンプル数がまだ少ないので、今後さらに多くの個体のDNA解析をして遺伝的多様性を評価することにより、保全事業に役立つ基礎データとして提供することが期待されます。大陸亜種が分布する、ロシア、中国の個体もまだ解析が十分ではなく、今後サンプル数を増やし、種カワラヒワ内の遺伝的構造も詳細に解析したいと考えています。
論文名:Cryptic Speciation of the Oriental Greenfinch Chloris sinica on Oceanic Islands (海洋島におけるカワラヒワの隠蔽種的種分化)
著者名:齋藤武馬1, 川上和人2, Yaroslav A Red’kin 3, 西海功4, Chang-Hoe Kim 5, Alexey P Kryukov 6 (1山階鳥類研究所, 2森林総合研究所, 3 Moscow State University, Moscow, Russia, 4国立科学博物館, 5 National Institute of Ecology, Seocheon, Repubulic of Korea, 6 Far Eastern Branch of the Russian Academy of Sciences, Vladivostok, Russia)
雑誌名:Zoological Science vol. 37, No. 3(日本動物学会の学術誌)
公表日:2020年5月27日(BioOneのIssue-In-Progressにてオンライン公開※https://doi.org/10.2108/zs190111)※論文のPDFがダウンロードできます。
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